子どもの探究心は親の「提案力」で育まれます|探究学舎・宝槻泰伸さんが家庭での関わり方を語りました
探究心は理科、社会から。勉強を教えない塾「探究学舎」代表・宝槻泰伸さんのオンライン講演からご紹介します
近年、話題の「探究学習」。子どもが自ら問題意識を持ち、解決策を探っていく学びのことで、高校では「日本史探究」や「古典探究」など科目として登場しています。
わが子の探究心や好奇心を家庭で育むために、親はどんな関わりをしていけばいいのでしょうか。子どもに受験や勉強は教えず、知的好奇心を引き出す塾として知られる「探究学舎」代表の宝槻(ほうつき)泰伸さんがオンライン講演で語りました。
子どもが自然と探究を深める科目は理科と社会。親の「提案力」で興味のきっかけをつくり、やりたいことにとことん取り組む「熱中タイム」を応援していくといいそうです。
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オンライン講演「子どもの“思考力”は『親子の対話』でぐんぐん伸びる!~好奇心の種を育む、親の学びの姿勢とは?~」は日本新聞協会と小学館「HugKum」が主催。2022 年 7 月 10 日に配信され、全国から約 680 人が視聴しました。
講師の宝槻さんは高校中退後に京都大学を卒業。代表を務める「探究学舎」は「受験も勉強も教えない塾」と知られています。子どもたちの「もっと知りたい!」「やってみたい!」という探究心に火をつける興味開発型の教育を確立し、国内だけでなく海外からも人気を集めています。子どもからは「やっちゃん」と呼ばれ、家庭では 5 児の父親です。
日本史探究?古典探究?総合的な探究の時間? 高校の授業に「探究」が登場しています
宝槻さんは 1981 年生まれの 41 歳。講演では「今の保護者が学生時代に乗っていた教育の文脈と、今の文脈は変わってきている」と語りました。
「私たちの時代は、普通科でガリガリ勉強して、偏差値で進路を選んで、やりたいことは大学に行ってから考えていました。これからの時代は自らが課題を見つけ、解決する資質や能力を伸ばしていくことが求められていて、文部科学省が『探究的な学習』として進めています」
変わろうとしているのが大学入試で、従来の「知識、技能」に加えて、「思考力、判断力、表現力」や「主体性、多様性、協働性」も評価されていきます。
「大学入試だけ変えても意味がないということで、高校の学習が変わってきている」と宝槻さん。講演では高校の科目の変化をスライドで紹介しました。
こうした「探究」の授業が増えてきた背景には、探究学習に先進的に取り組んできた京都市の堀川高校の成功や、教育学者の提言などがあります。
「大量の子どもたちの同質化、均質化、言われたことをその通りにやる力を育ててきた従来の教育、学校では 21 世紀を生き残れない。与えられた課題をこなす『勉強』だけじゃ駄目で、だから子どもが興味のあること、好きなことを見つけて取り組む『探究』なんです」
勉強と探究、どちらが大事?理科と社会を足がかりに応援を
「勉強」と「探究」。親の感覚では、次のような捉え方になります。
- 勉強…国語、数学(算数)、英語、理科、社会
- 探究…子どもが好きなこと、興味があること
ここで宝槻さんが参加者に質問を投げ掛けました。「勉強と探究、どちらが大事ですか?」
子どもが勉強ばかりしていても困るし、反対に探究ばかりしていても心配…。宝槻さんは「AかBかという質問は罠(わな)ですね。実際は『勉強も、探究も』でしょう」。
そして、「勉強」と「探究」をこう整理しました。
- 勉強…国語、数学(算数)、英語
- 探究…理科、社会
例えば子どもが好きな昆虫、動物、恐竜、乗り物、ロボットなどは「理科」、お城や戦国武将、お金などは「社会」。「子どもたちが自然と興味を持つこと、自然と探究していることは理科と社会にある。あなたのお子さんがやりたいことは理科と社会にあるんです」
「計算ができないとか、漢字が書けないとか、親は不安になりますね。でも、理科と社会にやりたいことがあると、それを足がかりに応援していけます」
親の提案力が鍵!YouTubeやゲームよりも面白いと思える課題を
探究は「やってみたいことをとことんやるに尽きる」そうです。子どもがとことんやる時間「熱中タイム」を親は応援していきたいところ。では、「やってみたいこと」はどうやって見つける?宝槻さんによると、鍵を握るのは「親の提案力」です。
まずはステップ 1 の「きっかけづくり」。「子どもに興味を持ってほしいものがある場所に連れ出す、本を買ってくる、話をすることで、『面白い!』『わぁ、すごい!』『楽しい!』を子どもは自然と表現するようになります」
例えば、科学館に連れて行って、昆虫に興味を持ったとします。「次にこの図鑑を読みたい!」「昆虫について実験してみたい!」「昆虫の研究で有名な○○さんに会いたい!」と子どもが自ら次に進むことが理想ですが、「そういう子は既に提案する力を身に付けた子。そんな簡単にはそうならないから、大人がやってあげないといけません」。
そこで、ステップ2の「親の提案力」。子どもが興味を持ったことに対し、「連続的な課題を提供していくことが大事です」。
ポイントは、日常の中でタイミングを見逃さないこと。例えば、子どもが「千載一遇」という言葉に初めて出合ったとします。
「子どもをよく見ていて、『せんざいいちぐう…??』とつぶやいたら、『この本で学べるよ』と四字熟語の本を手渡すとか。テレビで恐竜が取り上げられていたら、恐竜の図鑑を渡すとか。僕の父親はわが子に提案したい内容の本やDVDを本棚に入れておいて、勧めてくれました」「子どもの個性に向き合いながら、いいタイミングで合う道具を与える。失敗もするし、僕は父親の半分もできていませんが」
ちなみに、「きっかけづくり」と「親の提案力」には“敵”がいるそう。「YouTubeとゲームですね。わが家でもほっとくと、子どもたちはそっちに行っちゃいます。あらがいようのない力がありますが、親が勝てるように試行錯誤して、磨いてきたいですよね」
「快」と「善」のゾーンを目指して、熱中タイムを応援していきましょう
宝槻さんは「快と不快」「善と悪」の二つの軸を提示しました。「大人は『善と悪』の軸で生きていますが、子どもは『快と不快』の軸でしか反応しないんですね。どんなに勉強が善であっても、面白くない、つまり不快であれば、興味を持って取り組めない」
親にとって「善」で、子どもにとって「快」であれば、親子で楽しく探究していける可能性があります。おすすめは漫画。「学習漫画の『日本の歴史』や『科学サバイバルシリーズ』はおすすめですね。フィクションだけど時代背景や社会情勢、歴史的事実にきちんと触れている漫画もいいですし、映画だと親子で感動も共有できます」
「勉強」については、国語力の大切さを語りました。「思考力とは言葉でものを考えていくことなので、日本語の力を高めていけたらいいですね。音読、暗唱、書き写しができたらご褒美とかゲーム感覚でやっていくと楽しいですし、日本語のリズムを体で習得していけますよ」
子育て環境や教育は今、大きく変化しています。「自分が子どもの頃に育てられたように、学んできたように」が通用しない時代。親の意識も変化が必要です。
「親が外部環境に左右されず、不安をできるだけなくしてわが子を愛していくという安定感が大事です。わが子が勉強ができないと不安になり、その子の個性を愛せないというプログラムが私たち親には入っていますが、それが全てではありません。国語や数学ができるのと同じように、理科が好きだという個性を愛していいし、愛していい時代になっています」
「親から子へ『やりなさい』だと、例えいいことであっても楽しくありません。最初はお小遣いのような外発的な動機でもいいので、親子で楽しめる努力をしてください。『何がやりたいか分からない』という子どもには焦らず、いろんな提案をし、種をまいていってあげてください」