「教えて!吉川先生」インフルエンザ|予防接種は毎年必要?なぜ子どもは2回接種が必要?「スプレータイプのワクチン」も解説します
子どもの病気やけがについて、ココハレかかりつけ小児科医・吉川清志先生が解説します
子どもの急な発熱に「さっきまで元気だったのに…」と焦ったり、病気やけがについてインターネットで調べて、「本当に正しい情報なの?」と迷ったりした経験はありませんか?
「教えて!吉川先生」では、高知県内でたくさんの子どもたちを診察してきた小児科医・吉川清志(きっかわ・きよし)さんが「ココハレかかりつけ小児科医」として、子どもの病気やけがについて解説します。
毎年冬に流行する「インフルエンザ」。予防接種について「毎年必要?」「なぜ子どもは 2 回接種?」など疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。ワクチンの効果や接種時期について聞きました。
2024 年は 10 月 28 日~ 11 月 3 日の週に、国内で流行期に入りました。10月に接種が始まったインフルエンザワクチン「フルミスト」についても紹介します。
※この記事は 2024 年 11 月 15 日に更新しました。
目次
インフルエンザは「風邪の症状プラス全身症状」
インフルエンザはインフルエンザウイルスに感染し、発症します。
潜伏期間は 1 ~ 3 日。まず、38 ~ 39 度台の高熱が出ます。喉の痛み、咳、鼻水といった風邪の症状に加えて、関節痛、筋肉痛があり、倦怠感などの全身的な症状が強いです。
中学生以上になると、熱はそれほど出ず、37 度台のこともあり、症状に幅があります。
感染経路は「飛沫感染」「接触感染」
せきやくしゃみなどによる飛まつ感染、手に付着したウイルスからの接触感染で感染します。
インフルエンザの「A型」と「B型」の違いは?
日本で流行するインフルエンザにはA型とB型があります。A型は高熱が出やすいという特徴があります。B型はA型に比べると症状は軽いですが、筋肉痛が強いことや、熱が 2 回出ることがまれにあります。
A型の流行が始まるのは例年、12 月の終わりごろから 1 月初め。1 月末から 2 月にかけてピークを迎えます。B型は 2 月の終わりから 4 月の前半ぐらいにかけて流行します。
感染した場合の治療方法は?
治療薬には飲み薬のタミフル、ゾフルーザ、吸入薬のリレンザ、イナビルがあります。飲み薬や吸入が難しい場合はラピアクタの点滴を行うこともあります。
薬は発症から 48 時間以内に投与します。早く診断して薬を投与することで、ウイルスが体内で増殖するのを抑え、症状を軽くし重症化を防ぐことができます。薬は決められた通りに内服・吸入し、途中でやめてはいけません。
一方でインフルエンザの迅速診断は、発症直後ではなく、発症から 12 時間以上経過してから実施することが望ましいとされています。夜中に発熱しても、検査は翌日が適切です。
インフルエンザにかかった子どもの異常行動とタミフルとの関係が過去に指摘されましたが、厚生労働省が 2018 年に「因果関係は分からず、服用の有無や薬の種類で異常行動の発生に大きな差はない」と判断しました。
インフルエンザでは、突然走り出す、高い所から飛び降りるなどの異常行動が報告されています。以下のことに気を付け、子どもから目を離さないようにしましょう。
- なるべく 1 階で寝かせる
- マンションなどではベランダに面していない部屋に寝かせる
- 窓や玄関の鍵は必ず掛ける
なぜ、子どもは予防接種が2回必要なんですか?
インフルエンザの予防接種は 1 シーズンごとに、13 歳未満は 2 回、13 歳以降は 1 回となっています。
- 6 カ月~ 3 歳未満… 0.25 mlを 2 回
- 3 ~ 13 歳未満… 0.5 mlを 2 回
- 13 歳以上… 0.5 mlを 1 回
つまり、3 歳から 12 歳は大人と同じ注射を 2 回打ちます。
インフルエンザワクチンは、ウイルスの病原性をなくした「不活化ワクチン」です。不活化ワクチンは自然感染や「生ワクチン」に比べると、体の中にできる免疫が弱いため、追加接種が必要です。
インフルエンザの場合は、13 歳以上になると一定の免疫が体の中にあるので、1 回の接種で効果を保てます。乳幼児や小学生は 1 回の接種では十分な免疫を得られないので、2 回の接種が必要とされています。3 ~ 4 週間ほど間を空けて 2 回目を打つことで、効果が高まります。
予防接種をしたのにインフルエンザにかかりました。なぜ?
インフルエンザワクチンは、麻疹(はしか)などのワクチンように、「接種したらほぼ発症しない」という高い予防効果があるわけではありません。さまざまなデータがありますが、発症することを防ぐ効果は「40 ~ 50 %程度」とされています。
最も大きな効果は重症化を予防することです。「重症化」というと、「熱が高くなる」「症状が長引く」というイメージを持っていると思いますが、ごくまれに起こる脳炎(脳症)や心筋炎、肺炎などのことです。
インフルエンザワクチンは「命に関わる重篤な状態」を防ぐのに一定の効果があるとされています。もちろん、ワクチンを打っていたからかからなかった、症状が軽く済んだということもあります。
インフルエンザは発症後の治療が可能です。「重症化を防ぐために予防接種をする」という選択肢、そして「重症化するリスクがあるということを理解した上で接種しない」という選択肢があります。どちらを選ぶかは保護者の判断になります。
定期接種のように「必ず接種してください」というものではありませんが、高齢の方や基礎疾患のある方が近くにおられる場合や、医療関係者や保育士、教師など特定の職業の方には接種をお勧めします。
予防接種は毎年必要ですか?
インフルエンザワクチンは毎年、そのシーズンに流行が予測されるウイルスを使って製造されます。昨年と今年のワクチンは異なりますし、免疫の効果は 5 ~ 6 カ月ほどですので、「昨年接種したから、大丈夫」というものではありません。接種するのであれば、毎年必要です。
予防接種はいつごろがおすすめですか?
インフルエンザの流行が始まる 12 月末から 1 月初めごろには、十分な免疫ができるようにしておかないといけません。接種後、免疫ができるまでには 2 週間必要です。できれば 11 月の終わりごろまでに、遅くても 12 月中ごろまでに接種を終えてください。
子どもの場合は 3 ~ 4 週間空けて 2 回の接種が必要ですので、注意してください。
2024 年は全国で 10 月末に流行期入りしました。
新しい「スプレータイプのワクチン」とは?
新しいインフルエンザワクチン「フルミスト」が国内で承認され、2024 年 10 月から接種が始まりました。2~18 歳が対象です。
フルミストは、スプレータイプのワクチンです。スプレーを鼻の中に入れ、ワクチンを直接、鼻腔(びくう)内に吹きかけます。両方の鼻で行います。
従来のワクチンと違って 1 回の接種で済むこと、注射ではないことから、注射の痛みを嫌がるお子さんも受け入れやすいと思います。一方で、インフルエンザやコロナの鼻からの検査を思い出して、嫌がるお子さんがいるかもしれません。
注射タイプの従来ワクチンは、ウイルスの病原性をなくした「不活化ワクチン」です。これに対し、スプレータイプは、ウイルスの力を弱めた弱毒性の生ワクチンです。
ウイルスの力を弱めたとはいえ、生ワクチンは感染する可能性がありますので、妊娠中の人や免疫不全の人への接種は推奨されていません。周囲に授乳中の人や免疫不全の人がいる場合も、注射タイプを接種してください。ぜんそくのある人にも注射タイプが推奨されています。
インフルエンザの発症を予防する効果は、注射タイプの従来ワクチンとほぼ同じと言われています。任意接種ですので、接種料はフルミストの方が高くなります。どちらを接種するか、かかりつけ医と相談して決めてください。
お父さん、お母さんへ
新型コロナウイルスもインフルエンザも予防方法は同じです。コロナ対策をしっかりやっていれば、インフルエンザの流行もある程度小さくできるでしょう。家庭では、家族全員でできる対策にしっかり取り組んでください。
どんなに気を付けていても、感染する時はします。感染したから悪いということでは決してありません。その場合は指示通りに治療を受け、次に他の人に広げないように適切に行動すればいいのです。過度に心配することなく、家族で規則正しく、楽しい生活を送って免疫力を保ってください。