子どもの食物アレルギーへの対応は?アナフィラキシーショックを防ぐ「エピペン」で知っておきたいこと|親の会「なないろのたね」で小児科医・澤田由紀子さんが講演しました
四万十町で活動する「アトピー・アレルギーっ子を育てる親の会 なないろのたね」。集まりの場や勉強会を開いています
アレルギーのあるお子さんを育てているお父さん、お母さんの中には「周囲に相談できる人がいない」「今後の見通しを知りたい」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
四万十町ではそんなお母さんたちが集まり、「アトピー・アレルギーっ子を育てる親の会 なないろのたね」として活動中。集まりの場や勉強会を定期的に開いています。
食物アレルギーについて小児科医・澤田由紀子さんと学ぶ勉強会があり、ココハレ編集部が取材しました。
重いアレルギー反応である「アナフィラキシーショック」を防ぐ注射「エピペン」の使い方は、わが子にアレルギーのない親も知っておくと、とても助かるそうです。
目次
アトピーやアレルギーについて安心して話せる仲間づくりを進めています
「アトピー・アレルギーっ子を育てる親の会 なないろのたね」は 2023 年から四万十町内で活動しています。月に 1 回、親子の集まりを企画。アトピー性皮膚炎やアレルギーに関する勉強会も開催し、「アトピーやアレルギーについて安心して話せる仲間づくり」を進めています。
活動を始めたのは 3 人のお母さんたち。それぞれ、アトピーやアレルギーのある子どもを育てています。
食材の調達に苦労したり、周囲への理解を求めたりと頑張る中で、「同じ経験をした私たちで、何か楽しいことをしたいよね」と意気投合しました。今は「アトピーやアレルギーの“あるある”の話ができて、楽しく過ごせている」そうです。
ココハレ編集部がおじゃましたのは、2024 年 7 月 21 日に四万十町役場で開かれた勉強会。2024 年度の「つむサポ講座」として開催され、保護者のほか、小学生を預かる「放課後子ども教室」の先生も参加しました。
講師は地域の小児科医・澤田由紀子さん。町内の園や学校の校医を務め、「カンガルーのポッケ」という命の学習にも取り組んでいます。
食物アレルギーとは?免疫機能、消化吸収機能に問題があると考えられています
そもそも、食物アレルギーとは何なのでしょうか。「食物アレルギー診療ガイドライン 2023」にはこう定義されています。
食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状(皮膚、粘膜、消化器、呼吸器、アナフィラキシーなど)が惹起(じゃっき)される現象
これは…難しい!澤田さんが簡単に説明してくれました。
風邪を引くと、風邪のウイルスを排除するために発熱します。胃腸にウイルスや細菌が入ると、排除するために下痢などをします。体に害となるものを排除する働きが「免疫」です。
食物アレルギーはこの免疫機能や、食べ物を消化吸収する機能に何か問題があって起こると言われています。
食物アレルギーの原因となる「アレルゲン」は口から食べるだけでなく、皮膚で触れたり、吸い込んだりしても起こり得ます。
園や学校で起った食物アレルギーの事故…事例を知っておきましょう
食物アレルギーによって引き起こされる症状はさまざまです。
【食物アレルギーによって引き起こされる主な症状】
- 皮膚…赤くなる、じんましんが出る、かゆくなるなど
- 粘膜…目が赤くなる・かゆくなる、まぶたが腫れる、鼻水やくしゃみ、口や喉の違和感・腫れなど
- 呼吸器…ゼイゼイする、激しい咳をする、呼吸困難になるなど
- 消化器…おなかが痛くなる、嘔吐する、下痢をするなど
- 神経…頭が痛くなる、意識障害が起こるなど
- 循環器…血圧が低下する、脈が乱れる、手足が冷たくなる、青白くなるなど
私たちが耳にする「アナフィラキシー」とは、このような症状がいくつも重なって起こり、命が危険になる重いアレルギー反応です。
アナフィラキシーの中でも血圧の低下や意識障害を伴うものが「アナフィラキシーショック」です。
園や学校で起こる食物アレルギー事故の一つが「誤食」です。2012 年には、東京都調布市の小学校で小学 5 年生の女の子が亡くなるという痛ましい事故が起きました。
女の子は乳製品にアレルギーがありましたが、給食のおかわりでチーズ入りのチヂミを食べました。「教員が子どもに求められるまま、食材の一覧表を確認せずに渡してしまった」「エピペンをもっと早く注射していれば防げたかもしれない」などが指摘され、その後の食物アレルギーへの対応が変わっていきました。
珍しい事故もあります。2013 年には山形市の中学校で、3 年生の男の子が給食でサケのフライを食べた後、昼休みにサッカーをし、腹痛や咳などのアレルギー症状を起こしました。この男の子には小麦アレルギーがあり、食べた後に運動したため、症状が引き起こされました。「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という特殊なアナフィラキシーだそうです。
このほか、「アレルギーがあることを知らないまま給食を食べ、症状が出た」という事故も多いそうです。「例えばですが、お母さんが苦手な食材は子どもにはあまり食べさせないですよね」と澤田さん。家庭で食べさせたことのない食材は、確かにありそうです。
親が悩む子どもの好き嫌い…もしかしたらアレルギー反応かも
アレルギーを引き起こす食物はさまざま。子どもでは「鶏卵」「牛乳」「小麦」「木の実類」が多いそうです。成長するにつれて、エビやカニなどの「甲殻類」や、「果物」の割合が高くなっていきます。
澤田さんはここで、「アレルギー」と「好き嫌い」の関係について語りました。澤田さんの妹は成人になり、年越しそばでそばアレルギーを起こしました。振り返ってみると、子どもの頃から「そばが嫌い」と話していたそうです。
「これは好き嫌いに入る?」という事例も紹介されました。
成長して症状がなくなり、除去が解除されました。
でも、「飲んでいいよ」と言われても、給食の牛乳が飲めませんでした。
「小さい頃から『飲んじゃダメ』『飲んだら命に関わるよ』と言われてきたら、飲めなくても仕方ないと思います。これは好き嫌いではないと、私は思います」
もう一つ、食物除去の注意点として覚えておきたい事例がこちら。
高校生になり、パイナップルの入った食事を自分で食べてしまい、アナフィラキシーを起こしました。
生徒は「パイナップルを知らなかった」と話しました。
高校生になると、園や小学校の給食のような除去食はなくなります。
「この子は自分がパイナップルアレルギーだと知っていましたが、『見たことがなかったので、除去できなかった』そう。除去する食べ物を子どもに見せて、覚えさせるのも大事です」
エピペンの打ち方は?アレルギーのある子どもの親でなくても知っておきたいこと
アナフィラキシーが起きると、命に関わる危険な状態になります。重いアレルギーのある子どもは「エピペン」を常に携帯しています。今回の勉強会でも、「給食で除去しているけれど、お守りとしてエピペンを持たせて登校させている」というお母さんがいました。
エピペンとは、アナフィラキシーの症状の進行を一時的に緩和する補助治療剤で、「エピネフリン(アドレナリン)」という薬が適量入っています。体重の目安として「 15~30キロ」と「 30 キロ以上」の 2 種類あり、当てはまるものが処方されます。
あくまで補助治療剤ですので、使用した際は救急車を呼び、医療機関で治療を受ける必要があります。
勉強会では、練習用のエピペンが紹介されました。
エピペンの針は長さが 1.5 センチほどで、太さは押しピンとほぼ同じ。「普通の注射針より太いのは、薬剤を早く体内に入れるため。刺したら痛いですが、アナフィラキシーを起こしている際は反応が薄いです」
注射する場所は太ももの外側。利き手で握り、安全キャップを外し、太ももに強く押し当てます。
エピペンを使用できるのは現在、次の皆さんです。
- 医療関係者
- エピペンを処方された患者とその家族
- 教職員
- 保育士
- 救急救命士
澤田さんは「アレルギーのある子どもを育てていない方でも、できることがあります」と訴えました。
エピペンを打つ際には、対象者の体を固定する介助者が何人か必要です。「今から打つよ!ちょっと痛いけど、動かないでね!」と声をかけ、エピペンを払いのけようとしたり、痛みでびくんと動くのを防ぎましょう。
【質問】「救急車を呼ぶべきか迷います」「エピペンとAED、どちらが先?」
講演後、参加者から質問が上がりました。
四万十町は夜間に受診できる病院から距離があるため、「受診する頃には症状がおさまった」はよくあるそう。「医療者の皆さんに申し訳なく思う」との声に、皆さんうなずいていました。
澤田さんは「親御さんが安心するのが一番。医療者はお子さんや親御さんからの『ありがとう』の言葉に救われます」と話していました。
AEDは心疾患に対応するものです。アナフィラキシーを起こしていて、エピペンを持っている場合はエピペンを打ちます。様子を見るのではなく、できるだけ早く打ち、救急車を呼びましょう。
講演では、アトピーやアレルギーのある子どもの災害対応についても触れられました。東日本大震災では「アレルギー疾患を『わがまま』と言われて悲しかった」「避難所で『成分表示を見せてほしい』と頼んだら、嫌な顔をされた」などの事例が報告されています。
アレルギーへの理解は以前よりは広がっているものの、「まだまだ理解されないこともある」と澤田さん。「食料を用意しておく、普段使っている薬やお薬手帳を携帯しておく、『アレルギーがあるから食べ物を渡さないで』とガムテームに書いて子どもの服に貼っておくなどの対応があります。自分たちで守っていきましょう」と呼びかけました。
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