妊娠したら出生前検査は受けるべき?受ける際に気をつけることは?|認定遺伝カウンセラーの西山深雪さんが講演しました
「出生前診断」を知っていますか?妊娠中に赤ちゃんに病気があるかどうかを調べる検査です。
通常の妊婦健診とは違い、「受ける」「受けない」は妊婦さんとそのパートナーに委ねられます。受けるべきか、受けないべきか迷うし、そもそも判断するために正確な情報を得るのも難しい…というのが実情です。
こうした声に応える市民公開講座が高知市内で開かれ、認定遺伝カウンセラーの西山深雪さんが講演しました。
出生前検査で分かること、受ける際に気をつけることなどをまとめました。
目次
ココハレ編集部が取材したのは高知産婦人科学会が主催した市民公開講座。「知ることから始まる出生前診断~妊婦さんにとって本当に必要な情報とは何かを考える~」をテーマに、2026 年 2 月 28 日、高知市九反田の市文化プラザ「かるぽーと」で開かれました。
講師の西山深雪さんは認定遺伝カウンセラー。出生前検査に関する遠隔健康医療相談を手がける「PDnavi」の代表取締役です。
国立成育医療研究センター(東京都)で長く遺伝カウンセリングに携わり、著書に「出生前診断」(ちくま新書)があります。
【出生前検査とは】NIPT、妊娠初期コンバインド検査、母体血清マーカー検査、羊水検査があります
出生前検査とは、妊娠中に赤ちゃんに病気があるかどうかを調べる検査です。
歴史を振り返ると、1948 年の「優生保護法」から始まります。1960 年代半ばには「不幸な子どもが生まれない運動」が全国に広がり、「羊水染色体検査」を公費負担する自治体もありました。
1996 年に優生保護法が「母体保護法」に改正された前後で、海外から新しい出生前検査が入ってきました。
2010 年代には「NIPT」と呼ばれる新しい出生前検査が導入され、臨床研究として開始されました。2022年にNIPTを実施する施設の認証が始まり、一般診療の中で検査できるようになりましたが、認証されていない施設も参入するなど混乱が続いています。
現在は、全ての妊婦さんに対して出生前検査に関する情報提供を行うことが適当とされていますが、取り組みは自治体によってまちまち。「全ての妊婦さんにきちんと情報が届いている」とは言えない状況だそうです。
主な出生前検査として、西山さんは次の四つを紹介しました。
NIPT
「非侵襲性出生前遺伝学的検査」のこと。妊娠 10 週以降に、妊婦さんから採血します。血液中の胎盤由来のDNA断片を利用して、赤ちゃんが 21 トリソミー、18 トリソミー、13 トリソミーである可能性を判定します。
妊娠初期コンバインド検査
「NT計測等の超音波検査」と「採血」の組み合わせ検査のこと。「NT」は赤ちゃんの首のむくみです。
妊娠 11 週~ 13 週 6 日の間に赤ちゃんの首のむくみと妊婦さんの血液中にある二つの成分を測定します。赤ちゃんが 21 トリソミー、18 トリソミーである確率を算出します。13 トリソミーを含む場合もあります。
母体血清マーカー検査
「クアトロテスト」とも言われます。妊娠 15 週~ 21 週 6 日の間に妊婦さんの血液中にある四つの成分を測定します。赤ちゃんが 21 トリソミー、18 トリソミー、神経管閉鎖障害である確立を算出します。
羊水検査
妊娠 16 週以降に、妊婦さんの腹部に針を刺して、羊水中に浮遊する赤ちゃんの細胞を調べます。全ての染色体について、数や形に変化があるかどうかを確認します。確定診断に用いられます。
出生前検査ではこのほか、「超音波スクリーニング検査」があります。
超音波スクリーニング検査
通常の妊婦健診で行われる超音波検査とは異なり、「胎児ドック」とも呼ばれます。妊娠週数に合わせて、赤ちゃんのさまざまな部位を詳しく観察し、形態異常などの病気を見つけます。
形態異常が確認できなくても、染色体疾患が認められることがあります。
【検査で分かること】染色体疾患の可能性を判定…全ての病気が分かるわけではありません
1 年間で生まれる赤ちゃんのうち、生まれつき何らかの病気がある赤ちゃんの割合は 4 %だそうです。出生数から換算すると、国内で約 2 万 7000 人、高知県内では約 120 人となります。
西山さんによると、赤ちゃんの病気のうち、染色体の変化が原因で起こる病気は 35 %ほど。
NIPTではこの染色体疾患のうち、21 トリソミー(ダウン症)、18 トリソミー、13 トリソミーである可能性が判定されます。
出生前検査は「妊娠中に赤ちゃんに病気があるかどうかを調べる検査」ですが、全ての病気について分かる検査ではありません。
出生前検査の結果がもたらすものとして、西山さんは次の二つの側面を挙げました。
備え・準備の側面
- 赤ちゃんの状態に合わせた出産方法や養育環境を検討できます。
- 生まれた後の治療の計画や心の準備ができます。
心理的・倫理的な側面
- 生まれる前に赤ちゃんの病気が分かることで、不安や悩みが増えることがあります。
- 妊娠継続に関わる選択に直結する可能性があります。
出生前検査では、検査を受ける前や受けた後に悩む場合があります。西山さんは「単に赤ちゃんの病気に関する医学的な情報を提供するだけでなく、妊婦さんやご家族の選択の過程に深い葛藤を投げかける場合があるため」と説明しました。
例えば、検査を受ける前。「赤ちゃんの状態を知ることで、不安や悩みが大きくなるのでは」と恐れる人がいます。
検査を受けて予期せぬ結果が出ると、決断の重さに直面します。「検査を気軽に受けてしまった」と悩む人もいるそうです。
「出生前検査は『受ける』『受けない』のどちらの選択も正解です。大切なのは決断までの過程。受ける前に命と向き合う必要があります」
【検査を受ける前に】遺伝カウンセリングで疑問や不安を相談できます
国内ではどのくらいの割合で妊婦さんが出生前検査を受けているのでしょうか。
公になっている数字は 2023 年度で 11.5 %。非認証施設でNIPTを受ける人を含めると、17.2 %と推定されていますが、正確なデータはないそうです。
出生前検査では、受けるかどうかを決める前に医療機関を受診し、「遺伝カウンセリング」を受けることが勧められています。遺伝カウンセリングでは次の相談ができます。
- 出生前検査について詳しく知りたい
- 出生前検査を受けるかどうか悩んでいる
- どの検査が自分に合っているのかを知りたい
実際に検査を受けるまでの流れがこちら。
出生前検査について理解を深める
↓
検査を受けるかどうかを決める(「受けない」と決めてもよい)
↓
検査を受けるとしたら、どの検査をいつ、どこで受けるかを決める
↓
赤ちゃんに病気があることが分かった場合は、妊娠への対応を考える
こうした意思決定の流れをサポートするのが遺伝カウンセラーの役割です。
NIPTの場合、認証施設では遺伝カウンセリングが受けられます。産婦人科医や小児科医、認定遺伝カウンセラーが対応します。
「妊婦のニーズに対応した情報を提供し、意思決定をサポートする」と指針で定められていて、西山さんは「時間をかけて相談できる」と説明しました。
高知県内の認証施設はこちら。
- 基幹施設:高知大学医学部付属病院
- 連携施設:高知県立あき総合病院、高知赤十字病院
一方で、非認証施設ではこうした態勢が整っていない施設が少なくないそうです。「検査の説明はなく、オンラインで結果を通知された」という例もあります。
「『不妊治療の末にできた子どもで、安心のために受けたら陽性だった。どうしよう』と困る人もいます。自分たちは何が不安で何を知りたいのか。自分たちにとって本当に必要な検査なのか。結果が出た時のことを考えるためにも、検査を受ける前に遺伝カウンセリングを受けていただきたいです」
NIPTは自由診療です。認証施設で受けるか、非認証施設で受けるかは妊婦さんの判断に任されているそうです。
【ママパパの思い】「病気への不安があった」「赤ちゃんの運命に任せたかった」
西山さんが代表を務める「PDnavi」では 2025 年 8~9 月、出生前検査に関するアンケートを行いました。ウェブサイトやSNSなどを活用し、12 歳までの子どもを育てる男女 100 人(女性 77 人、男性 23 人)が回答しました。
本人やパートナーが出生前検査を受けた経験がある人は 33 %でした。西山さんは検査を受けた理由と受けなかった理由を紹介しました。
出生前検査を受けた理由
- 赤ちゃんの病気に対する不安があった。
- 結果によっては妊娠の継続を諦めることを考えていた。
- 自分の年齢が気になった。
出生前検査を受けなかった理由
- 結果によって、妊娠の継続をあきらめることを考えていなかった。
- 赤ちゃんの運命に任せたかった。
- 望まない結果となった際に、不安が募ると思った。
遺伝カウンセリングを利用した 30 代女性の声も紹介されました。

「赤ちゃんに染色体疾患がある場合は、妊娠した時点で決まっています」と西山さんは語りました。
「検査を受けて病気があると知ることで、『備えができる』と考える人もいれば、『生まれてから知りたかった』という人もいます。出生前検査の選択肢があると、意思決定が必要になります。妊娠前から選択肢を知り、『自分たちはどうする?』と考えていただけたらと思います」
ココハレ編集部員が妊娠、出産をした 2010 年代はNIPTは臨床研究の段階で、誰もが受けられる検査ではありませんでした。高齢出産だったので検査の存在は知っていましたが、検討する前に妊娠週数が過ぎてしまいました。
受けようと思えば受けられる現在は、便利になった一方で、悩みも深くなるのだなと知りました。インターネットやSNSで情報がたくさん得られる時代だからこそ、受けるかどうかを考える際に専門家とリアルでつながることが大事ですね。今回の記事がそのきっかけになればと思います。
西山さんが代表を務める「PDnavi」では出生前検査に関する情報を公開しています。検査が受けられる医療施設も検索できます。

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