高知のエコチル調査、子育てにどう役立てる?|高知市で「サイエンスカフェ」が開かれました
高知から約 7000 組の親子が参加している「エコチル調査」。2011 年に始まり、全国で研究が進んでいます。
エコチル調査をもっと身近に考えてもらおうと、研究成果や疑問点を語り合う「サイエンスカフェ@高知」が高知市で開かれました。
エコチル調査高知ユニットセンターの研究者や、ココハレでもおなじみの小児科医・吉川清志さんが登場。最新の研究成果や、研究成果を受け止め、子育てに生かしていく際の考え方についてご紹介します。
目次
「サイエンスカフェ@高知」は 2023 年 2 月 4 日、高知市知寄町 2 丁目のちより街テラスで開かれました。
エコチル調査高知ユニットセンター(高知大学医学部)の研究者のほか、エコチル調査に興味を持つ学生、保育士や養護教諭ら子どもに関わる仕事をしている人たちが参加しました。
エコチル調査とは?2011年から続く大規模追跡調査です
エコチル調査は「子どもの健康と環境に関する全国調査」のこと。環境省が中心となり、2011 年に始まりました。
赤ちゃんがおなかにいる時から 13 歳になるまでを追跡するという、世界でも類を見ない大規模調査で、全国から約 10 万組の親子が参加しています。
高知県からは約 7000 組の親子が参加しています。子どもたちは小学 2~5 年生に成長しました。
これまでに、毎年 2 回の質問票に回答し、小学 2 年生の時には診察や発達検査、血圧測定、採血などを行う「学童期検査」にも協力しました。
調査期間は「子どもが 13 歳になるまで」ですが、延長が検討されているそうです。
化学物質とは?たばこ、染毛剤、殺虫剤、化粧品…
エコチル調査の目的は「化学物質等の環境要因が子どもの健康に与える影響を明らかにする」とされています。
エコチル調査を担当する環境省の清水貴也さんによると、「化学物質に着目している」という点が世界でも注目されているそうです。
身の回りにある化学物質で代表的なのがたばこ、染毛剤、殺虫剤、化粧品など。子どもは臓器が未発達のため、「化学物質の影響が大人よりも大きいのでは」と考えられています。
「例えば『お母さんがたばこを吸う』『殺虫剤の使用が多い』『石油ストーブを使っている』といったことが子どもの健康にどんな影響を与えるのかを明らかにしていくのがエコチル調査です。研究結果を普段の生活や医療に役立ててほしいと思います」
高知ユニットセンターの研究成果は?「喫煙」と「胎盤」について紹介しました
エコチル調査の研究者は、毎年 2 回の質問票などから得られる膨大なデータから、それぞれ研究を進めています。
サイエンスカフェでは「喫煙」をテーマに研究を進めている山崎慶子さんが研究成果を紹介しました。
山崎さんの研究テーマは「妊娠中の喫煙がおなかの赤ちゃんにどんな影響を与えるか」です。妊娠中の喫煙には流産や早産、低出生体重などのリスクがあります。山崎さんは「胎盤」に注目しました。
胎盤は大きすぎても小さすぎてもよくありません。お母さんから酸素や栄養を効率よく運ぶため、赤ちゃんの出生体重に合ったちょうどいい大きさがあるそうです。
研究では、喫煙の指標の一つとなる「母体の尿中のコチニンの濃度」と、「胎盤の重さ」「胎盤の重さと出生体重の比率」を用いて、関係を探りました。
結果はこちら。
- 尿中のコチニン濃度が増える、つまり喫煙量が増えると、胎盤が出生体重に対し不釣り合いに大きくなり、胎盤の機能が低下する
- 尿中のコチニン濃度がある一定の濃度に達すると、男児は増量傾向にあった胎盤が軽くなるが、女児はフラットになる
妊娠中の喫煙の影響は、男の子と女の子で違っていました。さらなる研究が必要だそうです。
山崎さんは「妊娠中の喫煙がおなかの赤ちゃんによくないことは知られています。なぜよくないのという理由を、胎盤に注目して解明していくきっかけになれば」と話していました。
研究成果を生活にどう生かす?吉川清志先生が提言しました
エコチル調査の研究成果を、私たちはどう捉えたらいいのでしょうか。土佐希望の家医療福祉センターのセンター長で小児科医の吉川清志さんが講演しました。
吉川さんによると、子どもの病気には「遺伝素因」と「環境要因」が影響します。「遺伝素因があれば必ず病気になるというわけではなく、遺伝素因と環境要因が相まって、病気になったり、ならなかったりします」。
さらに、子どもの成長には「子どもの個性」も影響します。
「遺伝素因は変えられませんが、環境要因は変えられる」と吉川さん。
例えば、血圧を上げる遺伝子を多く持ち、血圧が上がりやすい人の場合、遺伝子そのものはなくせませんが、生活習慣を注意すれば血圧が上がるのを防げます。
「病気を予防するという意味で、研究は大切です。でも、行き過ぎるとつらくなります。お母さんの慢性疾患や妊娠中の病気がおなかの赤ちゃんに影響を及ぼすという研究成果は、事実はそうなんだけど、お母さんが責任を感じてしまいます。丁寧なフォローが必要です」
吉川さんは「マイナス要因はどんなものにもあるし、頑張っても避けられないこともある」と語りました。
「エコチル調査で得られたプラスの要因をもっと広め、生活習慣や子育てを振り返るきっかけになるといいですよね。『あれも駄目、これも駄目』ではなく、子育てはもっとおおらかなものであってほしいと思います」
会場からは「受動喫煙ってどこから?」「紙たばこと電子たばこでは結果が違うの?」など研究への疑問や、「調査結果をもっと分かりやすく子育て世代に伝えてほしい」という意見が上がりました。
「研究」と聞くと難しいですが、一般の私たちが内容を知り、生活や子育てに役立てられてこそ、その意味があるのだと感じたサイエンスカフェでした。ココハレでも注目していきたいと思います。
ココハレでは、高知の子どもたちの生活に関する基礎データを紹介する「ずっと、ぎゅっと!」を掲載しています。「エコチル調査」からご覧ください。
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