「教えて!吉川先生」新型コロナウイルス・第5波とワクチン|子どもへの感染は?ワクチンは安全?
高知県内は「第5波」で感染が拡大しています。ワクチンへの疑問や2学期からの生活について、ココハレかかりつけ小児科医・吉川清志先生が解説します
子どもの急な発熱に「さっきまで元気だったのに…」と焦ったり、病気やけがについてインターネットで調べて、「本当に正しい情報なの?」と迷ったりした経験はありませんか?
「教えて!吉川先生」では、高知県内でたくさんの子どもたちを診察してきた小児科医・吉川清志(きっかわ・きよし)さんが「ココハレかかりつけ小児科医」として、病気やけがについて解説します。
今回のテーマは「新型コロナウイルスワクチン」。発症予防効果だけでなく感染防止や重症化予防に有効とされ、自治体などで接種が進んでいますが、新しいワクチンのためか、「本当に安全なの?」「副反応が怖い」といった不安の声も聞こえてきます。
ワクチンの安全性や注意すべきことに加え、現在の「第 5 波」の状況や 2 学期を控えて気を付けることを聞きました。
目次
「デルタ株」の特徴は?
デルタ株は感染力が強いことが特徴です。従来株の 2 倍、イギリスで確認された「アルファ株」の 1.4 倍の感染力があると言われ、これまで大丈夫だった密閉、密集、密接の程度でも感染の可能性があります。
さらに、夏休みやお盆で人の動きが活発になり、県外で暮らす家族や親戚など、日頃は会わない人とマスクなしで話す機会ができたことも、感染者が増えた背景にあるでしょう。
デルタ株は子どもに感染しやすい?
子どもの感染者数も増えていますが、全体の感染者数そのものが増えている結果と思われます。子どもは重症化することはあまりありませんが、無症状が多い大人と違い、熱や咳、倦怠(けんたい)感などの症状が出ることが多いです。
「mRNAワクチン」とは?
従来のワクチンには、病原体の感染力を弱めた「生ワクチン」と、感染力のない「不活化ワクチン」があります。
コロナのワクチンは「mRNAワクチン」です。「スパイクタンパク質」への免疫をつくるワクチンです。以下の流れです。
mRNAを注射する(→mRNAは数日で壊れる)
↓
体内にスパイクタンパク質をつくる(→スパイクタンパク質は 2 週間で消失する)
↓
スパイクタンパク質に対する免疫ができる
コロナウイルスは、表面にあるスパイクタンパク質が人間の細胞にくっついて感染します。mRNAワクチンは、このスパイクタンパク質の遺伝情報であるmRNAを注射して、体内に自らスパイクタンパク質をつくり、そのスパイクタンパク質に対する免疫をつくる仕組みのワクチンです。
免疫ができると、コロナウイルスが人間の細胞にくっつけなくなり、体内で増えることができなくなります。ワクチンによってつくられたスパイクタンパク質は 2 週間で消失します。
mRNAワクチンでは、スパイクタンパク質に対する免疫のみがつくられるため、従来のワクチンよりも長期的な副反応が出にくいと考えられます。mRNAは数日以内に壊れるため、長く体内に残ることはありません。また人間の遺伝子(DNA)の中にも入れないので、人の遺伝子に変化を起こすこともありません。
「短期間で開発されたワクチンなので安全性に不安がある」という声がありますが、インフルエンザウイルスなどに対するmRNAワクチンは何十年も前から研究されてきました。研究で蓄積されたデータから、新型コロナワクチンが短期間で開発されました。安全性、有効性が確認され、承認されたワクチンですので、その指摘は当たりません。
「ワクチン接種後に死亡」どう受け止めればいい?
現在、厚労省が接種後に亡くなった方の死因とワクチンの関係を検証しています。亡くなった方には基礎疾患があった方が多く、「ワクチンそのものが原因でなくなった」と確認された例はまだありません。
接種する時に緊張や不安が強いと、血圧が上がり、もともとあった体の不調が悪化することもあります。接種する際は、体の不調やワクチンへの不安など、細かいことでもいいので医師に相談してください。
子どもの接種は?
若いと免疫ができやすい(体の中に入ってきた異物に対する反応が強い)ので、副反応が出やすくなりますが、重い副反応の危険性が特に高まるわけではありません。12 歳以上で接種できます。
日本小児科学会は「健康な子どもへの接種は意義がある」「周囲の成人の接種が重要」としています。デルタ株の小児への感染状況をみると、接種のメリットは高まっていると思われます。
若い人はワクチンを打つ際の不安や緊張で、血圧が下がって失神する「血管迷走神経反射」が起こる場合があります。横になって打つこともできますので、不安が強い人は頑張り過ぎずに医師に相談してください。
妊娠中、母乳育児中の接種は?
「不妊になる」「流産や早産する」といった事実はありません。妊娠中の人も、これから妊娠を考えている人も接種してください。
特に妊娠後期( 28 週以降)にコロナに感染すると重症化しやすいとされ、日本産科婦人科学会などは、妊婦は時期を問わずワクチンを接種するよう勧めています。
ワクチンで得た免疫は血液を通して赤ちゃんにも移行するので、赤ちゃんを守ることにもつながります。妊婦さんやその家族は、赤ちゃんの命を守るためにも感染予防に努めてください。
妊婦さんにワクチンの副反応で熱が出た場合、解熱剤アセトアミノフェン(カロナールなど)は服用して大丈夫です。
ワクチンを接種すれば、マスクを外していい?
ワクチンを接種すれば、感染や重症化のリスクはかなり下がります。ファイザー社のワクチンの発症予防効果は 95 %です。これは、未接種者が 100 人感染しても、接種者は 5 人の感染に抑えられるということです。
地域の感染状況が落ち着くまでは、接種後も気を緩めないでください。自治体の警戒レベルや行動制限を確認して、マスクや手洗いなどこれまで通りの対策を続けてください。
2学期に注意することは?
これまでは大人から子どもへの感染がほとんどでしたが、デルタ株に置き換わり、これからは子ども同士での感染も起こり得ます。しかし、予防に力を入れるあまり、生活を制限し過ぎるのもよくありません。ストレスから、子どもの心身に影響が出る可能性があります。
これまで通り、手洗いをしっかり行い、密を避ける感染予防を徹底してください。
マスクは不織布がベストで、ウレタンマスクでは予防効果が低いです。再使用できるものを使う場合は布マスクにしましょう。
規則正しい生活を送り、体を動かしたり、友達と交流したりする時間も大切にしてください。
お父さん、お母さんへ
どんなワクチンにも副反応はあります。新型コロナウイルスワクチンは安全性と有効性が確認されており、副反応も 2、3 日中には回復します。感染するリスクを考えれば、ワクチンを打つメリットは大きいと思います。
ウイルスから自分を守ることは、周囲の身近な人を守ることにもつながります。子どもの 1 年は大人より濃密です。お子さんが大切な時間を、リスクを低くして楽しめるように、ご家族でワクチンを接種することをお勧めします。
不安も制限も多い日々ではありますが、多くの人がきちんと予防に努めれば、必ず状況は好転します。そのためにも、信頼できる情報を基に予防をしていきましょう。