子どもへのイライラを減らしたい!叱り方を見直したい!|子どもの心を理解するため、大人が身に付けたい「セルフコントロール力」とは
子どもはどうして我慢できないの?高知大学大学院教授の岡田倫代さんが「セルフコントロール」について講演しました
あなたは普段、お子さんをどう叱っていますか?「子どもが悪い」と思い込んだり、自分が言われて嫌な言葉を使ってしまったりしていませんか?
子どもの心を理解するため、大人が身に付けたいのが、自分を客観的に捉え、目的のために自分で考え、我慢していく「セルフコントロール力(りょく)」です。
高知大学大学院の教授で臨床心理士の岡田倫代さんによると、大人が自分の気持ちや行動を見極め、上手にコントロールしていくと、子どもへのイライラが減り、うまく対応できるようになるそう。高知市内で開かれた講演会から、詳しくご紹介します。
目次
岡田さんは高知大学大学院で子どものメンタルヘルスを研究しています。著書に「セルフコントロール力がつく自己理解・他者理解のワークブック(小学校版、中・高校版)」などがあります。
講演会は高知県教育相談研究会(はまゆう教育相談所)主催の研修会として、2022 年 6 月 11 日に高知市小津町の県立塩見記念青少年プラザで開かれました。
子どもはなぜ「我慢」できない?“子育てあるある”から考えました
子どもはなぜ、我慢ができないのでしょうか?岡田さんは具体的な場面を例に、「あなたなら、どう対応しますか?」と投げ掛けました。
【あなたなら、子どもにどう対応しますか?】
スーパーで幼い子どもが「おもちゃ買って!買って!」と駄々をこねています
多くのお父さん、お母さんが経験する“子育てあるある”な場面です。「子どもとの我慢比べですね」と岡田さん。「根負けしておもちゃを買うと、子どもは『泣いたら買ってもらえる』と理解します。お互いがWin Winになるようにしていきたいですよね」
では、次の場面での対応はどうでしょうか。
【あなたならどう対応しますか?】
子どもが家に帰ると、ずっとタブレットで動画配信アプリを見ています。「目が悪くなるからやめよう」「ご飯だから一緒に食べよう」と誘っても、タブレットを離しません。「やめなさい。いつまで見てるの!」と注意すると、「ママ(パパ)だっていつもスマホ見てるのに、どうして私はYouTubeを見てはいけないの?」と反論します
子どもなりに考えての反論ですが、親としてはイライラしますし、「いいから我慢しなさい!」と返したくなります。この「我慢」について、岡田さんは「我慢って何でしょうか?」「大人は子どもに本当の我慢を教えているでしょうか?」と問題提起しました。
泣かなかったから偉い?子どもは自分を受け入れてもらえないと、人のことを許せなくなります
例えば、子どもが転んだ時、こんな言葉を掛けていませんか?
- 泣かなかったね。強いね
- 我慢できたね。偉いね
どれも子どもへの悪気はなく、むしろ褒め言葉として使われています。ですが、子どもは大人からのこうした声掛けを「弱音を吐いちゃいけない」「親の期待に応えて、我慢できる子にならにといけない」と捉えるそうです。
この場合、「痛かったね」とまず共感した上で「泣きたかったら泣いてもいいよ」と声を掛けることが「あなたの素直な気持ちを出していい」というメッセージになります。
「『男の子だから泣かない!』もよくある声掛けですが、繰り返していると、弱音を吐けない男性になります。子どもは大人に自分を受け入れてもらえないと、人のことを許せなくなっていきます」
さらに、「我慢」には次の 2 種類があると、岡田さんは説明しました。
- 外界からの圧力にひたすら耐える受け身の姿勢
- 目的のために自分自身で考えて挑戦する力=セルフコントロール力
二つ目の「目的のために自分自身で考えて」という点が、セルフコントロール力のポイント。「自分の気持ちを自分でコントロールする、自分の意思を通すばかりでなく、自分を抑えられる力を“真の我慢”として子どもに教えていきましょう」
子どもを叱る前に、自分自身を把握しましょう
子どもに教えていきたいセルフコントロールですが、大人は身に付いているでしょうか。岡田さんは次に、こんな場面を示しました。
【ある日のわが子】
朝からイライラしている。機嫌が悪く、「おはよう」と言っても無視をする。何が気に入らないのか分からないが、むすっとしている。きょうだいにちょっかいを出すのでけんかが耐えない。「謝りなさい」と促しても全く謝らない
想像しただけでイライラが募る場面ですが、「『子どもに非ありき』で見ていませんか?」と岡田さん。例えば、「子どもが朝からイライラしている」と思い込んでいて、実は自分がイライラしているのではないか。自分が発したあいさつの声は機嫌がよかったのか。「きょうだいにちょっかいを出す」と一方的に決めつけていないか…。
「真実は一つかもしれませんが、事実は人の数だけあって、それぞれ意味が変わってきます。相手には相手の価値観があります。お互いの気持ちを分かり合うのって、実はものすごく難しいことなんです」
自分を客観視し、相手の気持ち、つまり子どもの気持ちを正確に理解していくには、自分の普段の行動を見直し、その理由を客観的に考え、改善策を見つけていくといいそうです。
悲しさ、イライラのもと「傷つき言葉」を反証してみましょう
自分自身を見直すため、岡田さんが提示したトレーニング方法が「傷つき言葉」の反証です。「傷つき言葉」とは自分が言われて悲しくなったり、イライラしたりした言葉。「書き出してみると、案外自分も相手に使っていることに気付きますよ」
岡田さんは、自分が実際にわが子に向かって言ってしまう傷つき言葉「いい加減にして」を例に、反証、改善策を紹介しました。
岡田さんの傷つき言葉「いい加減にして」
【場面】食事が終わっているのに、子どもがなかなかお風呂に入らず、ずっと無視してスマホをいじっている。私は早く片付けて仕事に取りかかりたい。とにかく腹が立つ!
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「人は、ある体験をすると、瞬間的に頭に流れる思考やイメージに注目します」と岡田さん。子どもが自分の言葉を無視され、瞬間的に起こったイライラをそのまま出していくのではなく、「いやいや、子どもの方に何か理由があるかもしれないからちょっと考えてみよう」と反証することで、「イライラはなくなりませんが、かなり減らすことができますよ」。
子どもには肯定的に、「する」コントロールを提示しましょう
セルフコントロールについて、有名な心理学の研究に「満足遅延実験」があります。「マシュマロ・テスト」とも呼ばれています。4 歳児を対象に、「すぐにもらえるマシュマロ 1 個」と「 15 分我慢したらもらえるマシュマロ 2 個」のどちらかを選ばせるという実験。岡田さんによると、15 分我慢した子どもは次のような行動を取ったと考えられます。
- マシュマロを見ないようにする、マシュマロのことを考えないようにする…「しない」コントロール
- 自分の指をなめる、歌を歌う、指遊びをする…「する」コントロール
「する」コントロールは行動を禁止するのではなく、別の行動を取ることで気を紛らわせる方法。より適応的な行動を生み出していきます。
「子どもは『しない』コントロールではなく、『する』コントロールの方が学習しやすく、長続きしやすいんですよ」と岡田さん。「学校の廊下は『走らない』ではなく、『歩きます』。肯定的に持っていってあげてください」
子どもを自分のイメージで決めつけていませんか?
岡田さんは最後に「今こそ、子どもへの接し方を振り返ってみましょう」と語り掛け、次の 3 点を挙げました。
- 子どもを自分のイメージで決めつけていませんか?
- きちんと子どもの話を聴いていますか?
- 小さな約束であっても守れていますか?
例えば、子どもが親に「うざい」と言ってきた時、「うざい」という言葉の意味をそのまま受け取るのではなく、「『今は放っといて』というサインかな」というように、子どもが「うざい」という言葉を使って、親に何を訴えようとしているのかを考えてほしいと、岡田さんは語ります。
「子どもの勉強机に座ってみるのも、子どもを理解するヒントになります」「子どもへの声掛けが子どものためなのか、実は自分のため、体裁のために言っていないか、常に自問自答していってください」