自閉スペクトラム症の人の見え方、捉え方は?|「発達障害を知ろう⑤」視覚支援と構造化・子育てにも応用できます
「視覚的な説明」「見て分かる環境」とは?発達障害者支援センターのセミナーで聞きました
シリーズ「発達障害を知ろう」では、子育てで気になる子どもの成長や発達について、高知県内の専門家にインタビューしています。この記事では、自閉スペクトラム症(ASD)の人の見え方や捉え方について紹介します。(自閉スペクトラム症とは自閉症スペクトラムのことです。この記事では「自閉症」と呼びます)
自閉症の人には、口頭での説明よりも、絵や文字などを使った説明や、今から何をするのかが見て分かる環境の方が理解しやすいという特性があります。脳の使い方の違いが影響しています。
「視覚的な説明」「見て分かる環境」とはどういうものでしょうか。発達障害者支援センターが開いたセミナーで、「視覚支援」と「構造化」について聞きました。子育てに応用できるポイントも紹介します。
目次
セミナーのタイトルは「“みてわかる”支援と環境づくり講座」。「発達障害を知ろう③」で紹介した高知県立療育福祉センター内にある発達障害者支援センターが毎年開いています。発達障害者支援センターでは、子どもから大人まで幅広く相談を受けています。
講座は、自閉スペクトラム症の特性を知る「講義」と、自閉症の人の感覚を知る「体験」を組み合わせて行われました。
「視覚に強い」とはどういうこと?
自閉スペクトラム症には、コミュニケーションが苦手、柔軟性を持った思考が苦手などの特性があります。詳しくは「発達障害を知ろう①」で紹介しています。
自閉症の人は「視覚に強い」から「視覚支援が必要」と言われています。「視覚に強い」とはどういうことでしょうか。講義では、当事者の語りが紹介されました。
「何かを考える時は、イメージを頭のスクリーンに絵で映し、視覚化して考える」
「口頭での説明は消えてしまうので、頭の引き出しに入れようがない。視覚に訴えるものなら簡単に脳に保管できる」
「情報を見ることができると安心。書かれたものの方が分かりやすい」
こうした特性は、脳の使い方の違いから起こります。脳での情報処理の違いから、見え方や捉え方の違いが生じるそうです。
特性の現れ方や程度はその人によって異なりますが、見え方や捉え方については次のように説明されました。
①細かい部分に注目しやすい
②全体の意味を把握するのが苦手
③自分で見通しを持つことが苦手…順序を立てること、計画を立てること、優先順位を付けることが難しい
④ある感覚に対して敏感・鈍感で、感じ方にも違いがある
⑤見て分かる、具体的な物の理解が得意
例えば、②の「全体の意味を把握することが苦手」について。まずはこちらの写真を見てください。
「子どもが遊んでいる」「すべり台がある」「広いスペースがある」「桜の木が植えられている」といった複数の情報を同時に捉え、「ここは公園かな」と推測すると思います。
自閉症の人は、「女の子の靴がピンク」「どくろマークがある」などピンポイントで注目します。さらに、一度に一つのことにしか注意を向けにくく、全体を把握して「ここが公園だ」と判断することが難しいそうです。
⑤の「見て分かる、具体的な物の理解が得意」については、こんな説明がありました。
得意なこと…目で見える情報の理解、具体的なものの理解(物、写真、絵、文字など)
苦手なこと…耳で聞いて理解する、抽象的な言葉、時間・空間の概念、他者の気持ち、暗黙の了解
例えば「靴をそろえる」という行動。「ちゃんとそろえなさい」と伝えても、抽象的な「ちゃんと」という言葉ではどういう状態か分かりづらいし、「ちゃんとそろえなさい」という言葉はその場で消えていくため、記憶に残らないそう。
靴をそろえてほしい場所に靴の絵を貼っておけば、一目で理解でき、自分でできるそうです。保育園などにもありますね。
「自閉症の人が特性に合った視覚支援を受けることは、視力が弱い人が視力に合わせた眼鏡を掛けることと同じ」だそう。それは決して、「甘やかし」や「特別なこと」ではありません。
「視覚支援」とは、見て分かるように伝えること
自閉症の人への視覚支援は「見て分かるように伝えること」だそうです。伝え方のポイントは次の三つです。
具体的にどうするのか
言葉だけではなく
見える形で消えないように
「ちょっと待って」と伝える場合、「ちょっと」が抽象的ですし、言葉だけだとすぐに消えてしまいます。
講座では休憩時間、中央のスクリーンにこのような表示がされていました。
10 分の休憩時間が赤色で表示され、時間とともに減っていきます。「赤がなくなるまで待ってね」と伝えると、いつからいつまでなのか、あとどのくらい残っているのかが一目で分かります。
タイマーをセットしておいて「ピって鳴るまで」と伝える、「時計の長い針が 2 から 3 に行くまで」と伝えるのも、具体的だそうです。子どもについ言ってしまう「ちょっと待って」も、このように具体的に示すと、分かりやすくなるそうです。
「ください」「手伝って」コミュニケーションも視覚的に
視覚支援には、コミュニケーションを助けるということも含まれます。言葉の遅れがある、言葉に遅れがなくても円滑なコミュニケーションが苦手という人には、カードを使って要求や拒否などの意思表示や、「助けてください」とヘルプを求めることを伝えていきます。
講座の中では、PECS(ペクス)と呼ばれる絵カードを使い、コミュニケーションの練習を体験しました。
お菓子をもらうため、カードを使って「何がいくつ欲しい」と伝えます。こちらは「いちごみるくのキャンディーを三つください」。
先生役の人がカードで示された要求を復唱し、「いちごみるく、三つどうぞ」と言いながら手渡します。この過程を繰り返すことで、コミュニケーションを取ることの楽しさや、相手に伝える意味を理解していきます。
「拒否」「ヘルプ」の意思表示の仕方も「いりません」「てつだって」といったカードを使って身につけることで、「嫌な時に『イヤ』と言えずに我慢する」「手で払いのけたり、どうしていいか分からず泣いたり、怒ったりしてしまう」ということが減っていくそうです。
「嫌な時には拒否していい」「困った時はヘルプを出す」と子どもに伝えることは、自閉症の人に限らず、大切ですね。
「構造化」では環境を整えて、理解を助けます
続いて、「構造化」。言葉として分かりづらいですが、次の六つの情報が目で見て分かるように環境を整えることです。
【構造化とは】
①いつ
②どこで
③何を
④どのようなやり方で
⑤どうなったら終わりなのか
⑥終わったら、次に何があるのか
講座では、保育園の荷物出しで体験しました。参加者にはただ、保育園かばんが手渡されました。右側の机を見ると、かごがいくつかあります。一つ目の箱には連絡帳のイラスト、二つ目のかごには水筒のイラスト…。説明がなくても、「かばんの中の物を決められたかごに順番に出すんだな」ということが分かります。
スケジュールも文字やイラストで表示すると、一目で流れが分かります。「構造化」では「左から右へ」「上から下へ」など、表示の仕方にルールがあります。終わった活動のカードを外していくことで、「カードが全部なくなったら終わり」ということも分かり、見通しを立てることができるそうです。
「構造化」も特別なことではなく、セルフ方式のうどん店や金融機関のATMなどに取り入れられています。自閉症の人が見て分かる環境は、自閉症でない人にとっても分かりやすい環境になります。私たちも知らず知らずのうちに、「視覚支援」や「構造化」によって安心して生活をしています。
「ここは何をする場所?」「今は何をする時間?」 刺激を抑えることで伝わります
「視覚支援」「構造化」では、刺激を抑えることも大事です。こちらの写真では読み聞かせをしています。
読み聞かせをする先生の横にボックスがあり、中には楽しそうなおもちゃがたくさん並んでいます。大人でも「何があるのかな?」とちらちら見てしまいます。子どもならなおさらですね。
次に、刺激を抑えた環境がこちらの写真。
おもちゃを布で隠すだけで、とてもスッキリした環境になりました。読み聞かせに必要のない刺激を抑えることは「今は絵本を読む時間です」と伝えることにつながります。普段の生活でも「ご飯の時にはテレビを消す」「宿題をする時には大好きなおもちゃを片付ける」といった少しの工夫で、集中を促せるそうです。
視覚支援は本人のために!「指示したいこと」だけに使うのはやめましょう
「視覚支援」や「構造化」によって情報を見える形にすることで、自閉症の人は自分の状態やルールを理解しやすく、安心し、自信を持って行動できるそうです。診断されていない人の中にも、「耳で聞くより、目で確認した方が理解しやすい、忘れにくい」という人がいます。「特別なこと」とせずに、その人に合わせて取り入れると、日常生活がスムーズに進みそうです。
支援では「本人のためになっているか」「本人が楽しいか」が大事です。例えば、カードを使ったスケジュールを子育てで取り入れる場合を考えてみましょう。夕方帰宅してから、寝るまでのスケジュールがこちら。
- お風呂
- 夜ご飯
- 宿題
- お手伝い
- 歯磨き
親が子どもにさせたいこと、つまり「指示」だけだと、子どもは楽しくありません。「カードのスケジュール=嫌なこと」となってしまいます。子どもが好むお楽しみも入れます。
- テレビ
- ゲーム
- おやつ
- 絵本
順番も親が一方的に決めると、「指示」になってしまいます。親子で順番を決めたり、時には子どもがそっと順番を入れ替えたりということもあるそうです。子どもの反応も含めて、コミュニケーションを楽しみながら取り入れていきたいですね。
講座を企画した発達障害者支援センターでは、発達障害について、子どもから大人まで相談を受けています。「発達障害を知ろう③」で紹介しています。