センサリーフレンドリーを知っていますか?|「発達障害を知ろう⑦」自閉スペクトラム症の感覚特性
感覚刺激に対する特性のため、つらいと感じている人がいます。感覚に優しい「センサリーフレンドリー」について、高知大学医学部・高橋秀俊さんに聞きました
「センサリーフレンドリー」という言葉を知っていますか?「音が実際よりも大きく聞こえる」「目に見える情報が多いと、どれに反応していいか分からなくなる」といった感覚の問題を抱える人のために、静かで落ち着いた環境を提供していく「感覚に優しい取り組み」です。
高知県内でも学校の教室の配置を工夫する、イベントに取り入れるなど少しずつ進んでいます。
センサリーフレンドリーなぜ必要なのでしょうか。自閉スペクトラム症のほとんどの人がつらいと感じている感覚の特性について、高知大学医学部特任教授の高橋秀俊さんに聞きました。
目次
高橋さんは高知大学医学部精神科の寄付講座「児童青年期精神医学」の特任教授です。児童精神医学や発達障害、リエゾン精神医学、神経生理学などを専門にしています。
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所などを経て、2019 年に高知大学へ。診療の傍ら地域連携を進め、発達障害、精神障害のある人への支援や、支援に携わる人々の育成に取り組んでいます。
発達障害の特性によって困っている、将来困るかもしれないという場合は、診断がついていなくても支援が必要です
発達障害は「発達に遅れや偏りがある状態のこと」を指します。主に次の障害を指します。
発達障害は一人一人で、支援ニーズが異なります。早い段階から関わり方を工夫することで、思春期以降に現れる気分障害や不安障害といった「併存障害( 2 次障害)」を防ぐことができると言われています。最近では乳幼児健診などでの早期発見・支援が進んでいます。
ただ、幼児期にはっきりと診断がつく人もいれば、つかない人もいます。「例えば、自閉スペクトラム症にはコミュニケーションが苦手、こだわりがあるといった特性があります。こういった自閉症的特徴は誰にでも多少あり、診断がつかなくても困っている人はいます」と高橋さんは説明します。
発達障害の診断と支援の関係性について、高橋さんは「肥満」を例に挙げました。
「肥満は『正常』と『異常』の差があいまいですし、研究が進めば診断基準も変化します。今は病気を抱えていない人でも、肥満を放置すれば高血圧や糖尿病などの合併症の心配が出てきます。栄養指導や運動療法など適切なアドバイスが必要ですね」
発達障害への考え方も同じで、診断がついていなくても、「特性によって困っている」「特性によって、将来困ることが起きるかもしれない」という場合には、適切な支援が必要です。
自閉スペクトラム症では6~9歳で感覚の問題が目立ってきます
自閉スペクトラム症には主に次の特性があります。
【自閉スペクトラム症の特性】
- 他者理解が苦手…相手の状況や気持ちを理解するのが苦手。「空気が読めない」と言われる
- 言葉の裏を読むのが苦手…たとえ話や冗談が通じない
- 変化に弱く、臨機応変な選択ができない
- こだわり…興味・関心に偏りがある
- 感情を共有することが苦手
- 感覚の問題…感覚刺激に対して過敏、鈍感など
感覚の問題には「感覚過剰反応」「感覚低反応」「感覚探求」などがあります。
【自閉スペクトラム症の感覚特性】
- 感覚過剰反応…感覚過敏など。特定の刺激を過剰に受け取り、ストレスを感じたり、怖がったりする
- 感覚低反応…感覚鈍麻など。呼び掛けに気付かない、体の痛みに気付かないなど
- 感覚探求…感覚の欲求を満たすため、刺激を過度に求める
感覚には聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚、固有覚(力の加減、姿勢を保つなど)などさまざまあります。「自閉スペクトラム症では 6~9 歳で感覚の問題が最も目立ってきます。ちょうど、保育園・幼稚園から小学校に上がり、生活が大きく変わる時期ですね」。本人にとってしんどい状況が続くと、不安、睡眠障害、不適応などが併存していきます。
7~9割の人が聴覚の問題を「つらい」と感じています
自閉スペクトラム症の感覚特性で、最も多いのは聴覚です。「調査によって異なりますが、7~9 割がつらいと感じています。『ほとんどの人がつらいと感じている』と言っていい数字ですね」と高橋さん。
聴覚では、実際の音よりも大きく聞こえるそうです。「スーパーやファミレスでの周囲の音の大きさが、パチンコ店やゲームセンターでの音に聞こえると説明すると、想像しやすいと思います」
視覚でつらいと感じている人の割合は「半数以上」。「目に入る情報が多過ぎると、どれに反応していいのか分からなくなります。ごちゃごちゃした場所などが苦手です」
触覚、味覚、嗅覚などは割合が減り、理解されることもさらに難しいそう。「偏食にも関連してきます。『味が苦手』『舌触りが苦手』だけでなく、『食事の時間がざわざわしていてつらい』『この食べ物のこの色が苦手』といった理由も考えられます。家庭だけでなく、学校など集団生活の場で感覚の特性に理解を深めることは、とても大切です」
感覚特性を本人が自覚していない可能性もあります
聴覚の特性への対応には次のようなものがあります。
【音環境保全のためにできること】
- 音の発生源を減らす
- 配置、遮音、吸音
- 落ち着ける居場所(リラックススペース)をつくる
最近は学校でも、音が響きやすい広い空間に仕切りを置く、座席の配置を変えるなどの工夫が取り入れられてきています。「感覚特性の問題は周囲から気付かれにくいだけでなく、本人が自覚していない場合もあります。感覚過剰反応は不安症状が現れるよりも早く認められるので、子どもの様子が『普段と違う』と感じた時は感覚特性の可能性を考えてあげてほしいです」
センサリーフレンドリーでは環境を調整し、不安な刺激を減らしていきます
感覚に優しい取り組み「センサリーフレンドリー」は欧米で 2010 年頃から始まりました。
日本では 2019 年、等々力陸上競技場(神奈川県川崎市)のスタンドの一室に設置された「センサリールーム」が話題になりました。国内初の試みで、Jリーグで広がっています。
センサリーフレンドリーは、次のことに配慮して進めていきます。
【センサリーフレンドリーのポイント】
- 不安な刺激を低減するように環境を調整する…室内の音量や照明を調整する
- 不安な刺激を低減するツールを用いる…興奮を落ち着かせるスペースを作る、特殊な照明や遊具で心地よい環境を作る
「単に部屋を作ればいいというものではなくて、当事者の方々に話を聞き、福祉サービスとも連携しながら、どんな配慮が必要なのかを一緒に考えていくことが大事」と高橋さんは語ります。
また、スーパーなどの商業施設では「クワイエット・アワー」も広がっています。オーストラリアではスーパーのチェーン店が毎週火曜日の決められた 1 時間を「感覚に優しい時間帯」とし、次の配慮をしています。
【オーストラリアのスーパーのクワイエットアワー】
- 店舗全体の照明の明るさを落とす
- ラジオ放送を止める
- レジやスキャナーの音量を最小レベルまで小さくする
- 買い物カートの収集をやめる
- 緊急時を除いて場内放送をしない
- お客さんの買い物のため、研修を受けた店員が必要なサポートをする
「発達障害でなくても、感覚過敏の人や配慮を必要とする人はいます。自治体が企業に呼び掛けてセンサリーフレンドリーが広がっていけば、社会の理解も深まっていくのではないでしょうか」
不安になりやすい環境を我慢させるのではなく、調整していくことが大事です
感覚特性に対し、「音がうるさければ、耳栓やイヤーマフを着ければいいのでは」という考え方があります。音を遮断するツールを使っている人は実際にいますが、「不安になりやすい環境で長時間過ごすのはしんどいし、限界がありますよね」と高橋さんは語りました。
「特性のある人に、不安になりやすい環境にいるのを我慢させるのではなく、特性を理解し、配慮することで、刺激を低減させていく方向に進んでほしい。みんなが気持ちよく過ごせる環境をつくっていく社会になればと思います」
高知県内でもセンサリーフレンドリーが取り入れられます
高知県内では土佐清水市の高知県立足摺海洋館「SATOUMI」で 2022 年 5 月 29 日(日)、センサリーフレンドリーの取り組みを初めて行います。高橋さんも協力し、大きな音を防ぐ、音や光が急に変わる場所をチェックするなどの準備を進めています。詳しくはこちら
6 月 12 日(日)には、高知市立自由民権記念館で映画「僕が跳びはねる理由」が上映されます。場内の照明を明るくし、音量を控えめにした「センサリー・フレンドリー上映」です。詳しくはこちら