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乳幼児の発達で気になる兆候「ESSENCE」とは?提唱したクリストファー・ギルバーグ教授がオンラインで講演しました

乳幼児の発達で気になる兆候「ESSENCE」とは?提唱したクリストファー・ギルバーグ教授がオンラインで講演しました

発達障害など、子どもの「苦手」を見極めるESSENCEについて、高知ギルバーグ発達神経精神医学センターのシンポジウムから紹介します

高知県では、乳幼児健診などで子どもの特性や苦手なことを見極める際に、「ESSENCE(エッセンス)」と呼ばれる視点を活用し、必要な支援につなげています。

ESSENCEとは乳幼児の発達において気になる兆候のことで、児童精神医学の研究で知られるスウェーデン・ヨーテボリ大学のクリストファー・ギルバーグ教授が提唱しました。

ESSENCEによって、子どもの「苦手」を早めにキャッチし、フォローしていくことが大切だと言われています。高知ギルバーグ発達神経精神医学センターのシンポジウムで行われたギルバーグ教授の講演から、私たち親が知っておきたいことを紹介します。

 

シンポジウムは 2022 年 10 月 10 日、オンラインで開かれました。ギルバーグ教授と、ESSENCEの視点から発達障害の子どもたちを診察し、ギルバーグ教授の著書も翻訳・監修している精神科医・田中康雄さんが講演しました。

発達障害とは「生活障害」。生活のつまづきを軽減する支援を|精神科医・田中康雄さんがオンラインで講演しました

ギルバーグ教授とは?高知県内の発達障害の早期発見・支援に協力しています

高知ギルバーグ発達神経精神医学センター(以下、高知ギルバーグセンター)は、高知市若草町の高知県立療育福祉センター内にあります。2012 年に開設されました。研修や研究を通して発達障害に関する専門医を養成し、保育士らへの研修会などにも取り組んでいます。

県内の専門医養成や療育支援に助言、協力しているのが、ギルバーグ教授。児童精神医学の権威として知られています。

ヨーテボリ大学ギルバーグ神経精神医学センターは、発達障害の専門医養成や療育支援について、高知県、高知大学と協定を結んでいます(高知新聞2022年6月16日掲載)
ヨーテボリ大学ギルバーグ神経精神医学センターは、発達障害の専門医養成や療育支援について、高知県、高知大学と協定を結んでいます(高知新聞2022年6月16日掲載)

ギルバーグ教授はスウェーデン、日本だけにとどまらず、世界中で活躍しています。シンポジウムではまず、自身が所属する大学や研究機関の名前を次々と挙げていきました。

「スウェーデン、日本、スコットランド、イングランド、南アフリカ、フランス…。つまり、ESSENCEの問題は世界中で起こっているということです」

重松加代子さんの通訳で、ESSENCEの基礎知識から最新の研究まで詳しく語りました。

ESSENCEとは?神経精神発達障害について、就学前の予測になります

ESSENCEとは「神経発達的診察が必要とされる早期兆候症候群」の英語表記の頭文字を取った言葉です。診断名ではなく、「神経精神発達障害のある子どもたちの早期の状態を表す名称」とされています。

神経精神発達障害とは、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動性障害)、LD(学習障害)など発達障害として知られるものだけではありません。知的障害やチック症、てんかん症候群など、ギルバーグ教授は16の診断名を挙げ、「学業の困難、いじめられること、いじめること、社会的排除、孤立といったことについて、就学前の予測になるのがESSENCE」と説明しました。

ESSENCEの項目…高知県のウェブサイトより

ESSENCEの具体的な項目について、高知ギルバーグセンターでは次の 12 項目を高知県のウェブサイトで公開しています。

【ESSENCEの 12 項目】※例は一部です。年齢は目安です

①発達全般…コップから飲む、年齢に応じたおもちゃで遊ぶ、なぐり書き( 1 歳 6 カ月)、排泄の自立、見立て遊び、閉じた丸を書く( 3 歳)

②運動発達…平たいところを転ばず歩く( 1 歳 6 カ月)、走る、両足跳びをする( 3 歳)

③感覚反応…抱っこやスキンシップ、音、光、匂いなどに過敏?鈍感?

④コミュニケーション…人に要求できる、言葉の理解

⑤活動…活動的過ぎる、自発的な動きが少なくておとなし過ぎる

⑥注意…名前を呼んだ時に反応するか、集中力があるか

⑦社会的な交流…感情を出しているか、他の子どもに興味・関心があるか

⑧行動…同じ行動を繰り返すことがある、日課や決まった手順にこだわる

⑨気分…気分の変動の幅が大きい、急に泣く・怒る、かんしゃくが激しい

⑩睡眠…睡眠時間が短い、入眠までに時間がかかる

⑪食事…極端な好き嫌い、食べることに興味がないように見える

⑫発作…視線が固定して動かなくなる、突然奇妙に手足を動かす

 

この中で、ギルバーグ教授は「注意」を取り上げました。「名前を呼んでも反応しない」という場合、低年齢では「聴覚の問題」と捉えられがちだそう。「聴覚に問題はなく、何年もたってADHDだと分かったというケースがあります」。このように、ESSENCEは見逃されることがあるそうです。

項目の一つ一つは、子どもの日常生活で見られる光景に思えます。ギルバーグ教授は、ESSENCEと判断する基準を次のように説明しました。

  • 一つ、あるいは複数の症状が主に幼少期に始まる
  • 6 カ月以上にわたって続く。もしくは極めて唐突に起こる

 

「睡眠や食事の問題は短期間であれば、どの子にもあるでしょう。それが極端で、6 カ月以上続いているかどうかに注目します」

6 カ月以上が目安である一方で、正常に発達していた子どもに急に症状が現れる場合もあります。「小児急性発症神経精神症候群(PANS)」という神経発達障害の可能性があり、「唐突」という視点も知っておくべきだと語りました。

ESSNCEのある子どもの割合は?女児は見逃される傾向

では、どれぐらいの割合でESSENCEが見られるのでしょうか。「少なくとも、18 歳未満の年齢層の子どもの 10 %にある」とギルバーグ教授は紹介しました。

講演で示した調査では、割合は男児が 12 %で、女児は 8 %。半数が 6 歳までに発見されたそうです。「女児は思春期、成人になるまで気付かれない場合が多いです。見過ごしや、うつや不安、摂食障害などと診断されているケースがいまだにあります」

講演では、ASD(自閉スペクトラム症)の症状が子どもにあるかどうかを、教師と保護者に聞いたノルウェーの研究が紹介されました。「少なくとも一つは症状がある」とされた子どもの割合は、7 割。「この地球上に住む人の大半は、何らかのASDの傾向を持っているということを示唆していると言えるでしょう」

シンポジウムではディスカッションも行われました
シンポジウムではディスカッションも行われました

この子はASD?ADHD?特性は色濃く出たり、薄まったりします

そもそも、ギルバーグ教授はなぜESSENCEを提唱したのでしょうか。

ASDやADHDは単独で存在することはまれで、ほとんどのケースで他の障害、症状が併存していると言われています。ESSENCEの視点を持っておくことで、見逃しが防げます。

また、特性がはっきりと現れてから、診断名が付いてから支援するのでは遅いと言われています。兆候に気付いた時点で支援を始めるためにも、ESSENCEの視点は大切です。

講演ではさらに、こんな例を挙げました。

2 歳半でASD(自閉スペクトラム症)と診断された子どもがいます。3 歳になっても発話・発語がないので、言語障害が追加されました。1 年後、多動が顕著になり、ADHDではないかと。さらに 1 年後、この子はしゃべり始めたのです

 

この子はASD?ADHD?言語障害ではなかったの?そんなケースについて、「同じ子どもの同じ脳の中で起きていることで、驚くことはない」とギルバーグ教授は語ります。

「幼い年齢でASDの症状をしっかり満たしていたとしても、必ず他のESSENCEの問題を併存しているんだということを忘れてはいけません。『他にも何かあるぞ』を念頭に子どもを見て、適切な支援を早く始めることが、その子にとってプラスになるのです」

子どもは成長とともに変化していきます。特性が色濃く出たり、薄まったりということもあるそうです。個別の診断名ではなく、「ESSENCE」として見ていくことが特に子どものうちは大事だと、ギルバーグ教授は訴えました。

フォローアップをしっかり。成人してもつながりを

ESSENCEについては「診断してアドバイスしたら終わり」ではなく、継続的に見ていくそうです。

「1 年後、再度受診してもらい、新しい特性があれば対応します。学校を卒業したら終わりでもない。成人になっても、極端な支援ではなくても、つながりが必要です。『何かあったら、この先生に連絡して』と伝えておくことが大事なのです」

早期の診断と支援が、子どものその後の違いを生む。だから、ESSENCEセンターのようなフォローアップしていく機関の設立がessence(重要)だ――。ギルバーグ教授はそう語りました。

 

ESSENCEは、日々の子育ての中で「なかなか寝てくれない」「落ち着きがない」「言葉が少ない」などの困りごととして現れてきます。子育ての困りごとと発達との関係について、ココハレの「発達障害を知ろう」で紹介しています。

寝ない、落ち着きがない…毎日困っていませんか?|「発達障害を知ろう」④子育ての困りごとと発達との関係

ESSENCEについては、JA高知病院の小児科医・本浄謹士さんが解説しています。

発達障害の「早期発見・診断」とは?|高知県内の専門家に聞く「発達障害を知ろう」②

 

シンポジウムでは、ESSENCEの視点から発達障害の子どもたちを診察し、ギルバーグ教授の著書も翻訳・監修している精神科医・田中康雄さんも講演しました。こちらからご覧ください。

発達障害とは「生活障害」。生活のつまづきを軽減する支援を|精神科医・田中康雄さんがオンラインで講演しました

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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