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吃音への対応は「8歳」で切り替えを。子どもを「操作」しようとしないで|高知言友会の特別講演で旭川荘南愛媛病院の院長・岡部健一さんが語りました

吃音への対応は「8歳」で切り替えを。子どもを「操作」しようとしないで|高知言友会の特別講演で旭川荘南愛媛病院の院長・岡部健一さんが語りました

「吃音(きつおん)」は話す時のタイミングが合わない障害で、「話す時に言葉の始めの音を繰り返す」「音を引き伸ばす」「言葉に詰まる」が主な症状です。発達障害の一つとして、発達障害者支援法に含まれています。

高知県内では、吃音のある人たちが思いや体験を語り合う「高知言友会(げんゆうかい)」という自助グループが活動しています。

高知言友会の集いで、旭川荘南愛媛病院(愛媛県鬼北町)の院長・岡部健一さんが講演しました。

岡部さんによると、吃音のある人への対応は「 8 歳」で切り替える必要があるそう。「子どもを操作しようとしないで」と呼びかけたお話を紹介します。

小学5年で吃音を自覚。「学校が燃えてしまえばいいのに」と思っていました

高知言友会が主催した「第 3 回高知吃音のつどい」は 2024 年 7 月 7 日、高知市九反田の市文化プラザ「かるぽーと」で開かれました。

かるぽーとで開かれた「高知吃音のつどい」。大勢が詰めかけました
かるぽーとで開かれた「高知吃音のつどい」。大勢が詰めかけました

特別講演の講師は岡部健一さん。愛媛県鬼北町にある旭川荘南愛媛病院の院長で、吃音外来を開設しています。

岡部さんにも吃音があります。自覚したのは小学 5 年生の頃。6 年生の時に全校児童の前で号令をかけることになり、「学校が燃えてしまえばいいのにと思っていた」そうです。中学の時にはバス停の名前を発音できるかどうかが不安で、切符を買えなかったこともありました。

旭川荘南愛媛病院の院長・岡部健一さん。吃音外来を開設しています
旭川荘南愛媛病院の院長・岡部健一さん。吃音外来を開設しています

そんな岡部さんに対し、両親は「のんき」だったそう。「そのうち良くなるだろうと。吃音のある人に話を聞くと、『親が適当で良かった』と言う人は多いですよ」

講演ではすらすら話していた岡部さんですが、吃音が治ったわけではなく、今でも言葉が出てこないことがあるそうです。

大人の100人に1人に吃音があります

吃音は話し言葉がスムーズに出ない発話障害の一つで、「どもり」とも言われてきました。話し方には次の 3 種類があります。

【吃音の種類】

  • 連発:同じ音を繰り返す(例「な、な、なつやすみ」)
  • 伸発:最初の音を伸ばす(例「なーーつやすみ」)
  • 難発:言葉が出てこない(例「……なつやすみ」)

 

吃音は幼児期にはよく見られ、「軽いものも含めると、10 人に 1 人くらいでしょうか」と岡部さん。このうち、80 %が 8 歳までに自然に治るそうです。

つまり、8 歳以降も残る割合が 20 %。吃音のある大人の割合は「100 人に 1 人」と言われています。

【8歳までの対応】子どもの症状はどんどん変わります。親が操作しないようにしましょう

岡部さんは「吃音のある人への対応は『 8 歳になるまで』と『 8 歳以降』で変わる」と語りました。

特に幼児期は言葉が急速に発達しているので、吃音の症状もどんどん変わるそう。「どもってもしゃべるのを、親御さんは褒めてあげてください

吃音に関する本はたくさん出版されています
吃音に関する本はたくさん出版されています

子どもに吃音の症状があると、例えば「息を吸ってから話して」といったアドバイスをしがちですが、これは「今のしゃべり方ではいけない」というメッセージを与えることになるそうです。

「『どもるのを止めたい』というのは、親が子どもを操作することになります。親にずっと操作されて、大きくなって引きこもってしまったという例もあります。『 8 歳までは余計なことをしない』と覚えておいてください」

【8歳以降】「吃音を受け入れ、人生を全う」できるような関わりを

8 歳以降も吃音の症状がある場合は、「治癒」は難しいそうです。岡部さんは、1965 年に国内で初めて言友会を立ち上げた伊藤伸二さんの言葉から、「吃音を生きる人の 3 タイプ」を紹介しました。

【吃音を生きる人の3タイプ】

  • あまり劣等感を持たずに生きている人
  • 劣等感をバネにしてとても頑張る人
  • 劣等コンプレックスに陥り、人生の課題から逃げる人

 

8 歳以降では、吃音の症状が徐々に改善していく人もいれば、悪化していく人もいます。症状には波があり、突如良くなったり、悪くなったりします。

外に出て行くのが怖くなる「社会不安障害」に陥る人や、うつ病を発症する人もいます。「自死を選んだ仲間もいる」と岡部さんは打ち明けました。

「吃音を治すため、私も何でもやりました」
「吃音を治すため、私も何でもやりました」

岡部さんはこれまでにさまざまな治療法を自身に取り入れてきました。

「何でもやったが、どれも効かなかった。『どもりを忘れよう』と思っても、忘れられなかったです」

長年の経験からたどり着いた思いがこちら。

岡部さん
吃音と直接闘ってはだめ。

 

言友会には「ほとんどどもらないのに集まりに来る高校生や大学生がいる」そうです。「どもらないように努力した結果、つらくなるんですね」

8 歳以降の治療では言語療法や環境調整などを取り入れていきますが、目標は「治す」ではなく、「吃音頻度の低下」、そして「社交不安障害の予防」「社会不安障害からの脱却」なのだそうです。

「吃音は不便ですから、『自分に吃音があるのには意味がある』とはとても思えません。努力して良くなったと思っても、年を取るとまた出てきます。でも、『吃音があっても何とかなる』という体験を積み重ねていくことで、『これで良かった』と思える日がいつか来ます」

逃れることのできない長期のストレス…吃音と複雑性PTSDの共通点

2011 年に改正された障害者基本法で、吃音は発達障害に含まれました。医師の意見書があれば、精神障害者保健福祉手帳を取得できます。就職試験や受験の面接などでは「合理的配慮」を受けられます。

吃音患者を長年診療してきた岡部さんは最近、「吃音のある人への対応は、複雑性PTSDのある人への対応と共通点がある」と考えるようになりました。

吃音の当事者として、そして吃音を診る医師として考えています
吃音の当事者として、そして吃音を診る医師として考えています

PTSDとは「心的外傷後ストレス障害」のことで、命を脅かされる、自分ではどうしようもない怖い出来事に直面するなど、強烈な体験をした後に起こる精神疾患です。複雑性PTSDはPTSDとは異なり、長い期間に繰り返される慢性的なトラウマ体験によって引き起こされます。

「吃音のある人は毎日つらい思いをし、傷ついています。複雑性PTSDの治療に『苦悩を軽減する』がありますが、吃音も同じだと思います」

岡部さんは自分自身のことを「どもっていても何とかやっていくのが本来の自分だ」と捉えています。「『吃音が治らないかもしれない』と思って、海の一番底まで沈んだ後、海底に足を付けて浮き上がった。そんな感じですね」

「大人になって吃音が『治った』という人はいませんが、海の底から浮き上がることはできます」
「大人になって吃音が『治った』という人はいませんが、海の底から浮き上がることはできます」

吃音のある子どもが将来、「どもっていても何とかやっていくのが本来の自分」と思えるように、親はどんな関わりをすればいいのでしょうか。

「吃音のあるお子さんに『どうして吃音があるの?』と尋ねられたら、『吃音はあなたのせいじゃない』『お父さんとお母さんは見守っているよ』と伝えてください」

「気をつけてどもらないようにするのはとても疲れます。どもってもどんどんしゃべったらいいし、どもっても相手に伝わったらいい。親御さんはおおらかに構え、お子さんの得意なことを尊重し、挑戦したことを褒めてあげてください。決して操作しようとしないでください」

高知言友会では定期的に例会を開催しています

高知言友会では「吃音があっても豊かに生きていく」ことを目標に、偶数月の第 3 日曜日に例会を開催しています。次回は 8 月 18 日(日)、「学校の先生に知ってほしい吃音のこと(仮)」をテーマに開かれます。

11 月 17 日(日)には「第 4 回高知吃音のつどい」が開かれます。高知言友会の設立 1 周年を記念し、高知大学医学部の特任教授・高橋秀俊さんが「吃音の二次障害に対する理解と対応」と題し、講演します。

高知言友会の活動はX(旧Twitter)インスタグラムで発信されています。

 

吃音について、ココハレでは「吃音ドクター」として知られる菊地良和さんの講演を紹介しています。
吃音は話す時のタイミングが合わない障害。「どもる権利」があります|「発達障害を知ろう⑧」吃音ドクター・菊池良和先生が講演しました

吃音に加えて、チックや読み書き障害、不器用さなど「顕在化しにくい発達障害」について、弘前大学教授・斉藤まなぶさんの講演を紹介しています。
吃音、チック、読み書き障害、不器用さ…「顕在化しにくい発達障害」について、弘前大学教授・斉藤まなぶさんが解説しました

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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