【ココハレインタビュー】フリーアナウンサー・花房果子さん|読み聞かせは心を解放させる楽しい時間
RKCアナウンサーを経て絵本講師に。絵本選びや読み聞かせのこつも聞きました
フリーアナウンサーとして高知県内で活躍する花房果子さん。ラジオや司会の仕事と並行して、絵本の読み聞かせにも取り組んでいます。
出産後に絵本講師の資格を取り、保育園や幼稚園などで絵本講座を開く現在の活動の原点には、「子どもが生まれたら自分が好きな絵本を読み聞かせしたい」という憧れがありました。
「読み聞かせは心を解放させる楽しい時間」と語る花房さんに、これまでの歩みを聞きました。読み聞かせのこつやおすすめの絵本も紹介しています。
読み聞かせは子どもの反応を受け止めながら進めます
子ども向けの絵本がたくさん並ぶ「高知こどもの図書館」(高知市丸ノ内1丁目)。2021 年 7 月に、「くすくすひろば」と呼ばれるイベントが開かれました。乳幼児の親子を前に登場したのは「ママアナおはなし隊」の 3 人。元RKC高知放送のアナウンサー 3 人による読み聞かせグループです。
メンバーの 1 人である花房さんが絵本を開きました。タイトルは「はなび ドーン」。星形やハート形など今時のデザインも含まれたカラフルな花火のイラストに、子どもたちは大喜び。立ち上がって絵本に近づき、話し掛けてくる女の子の反応を受け止めながら、花房さんは笑顔で読み進めました。
「ママアナおはなし隊」以外でも、保育園や幼稚園、文化教室、子育て支援センターなどで絵本講座を開いている花房さん。絵本講師としての活動は 10 年を超えました。
マスコミを志望するきっかけとなった阪神大震災
花房さんは 1973 年生まれ。父親の転勤で、3 歳の時に東京から神戸に引っ越しました。幼い頃は活発に外で遊んだり、お人形ごっこで空想を楽しんだり。「ちょうど団塊ジュニアの世代。周りに子どもがいっぱいいて、いつも遊んでいました」と振り返ります。
本も大好きで「小さい頃から、母がよく絵本を読んでくれました。楽しい時間でした」。自分で読むのも好きで、朗読をテープに録音して聴いていました。
中学、高校と神戸で過ごし、大学も自宅から通いました。「日本語のアクセントや言葉の面白さを学ぼう」と日本語日本文学科を専攻。大学 3 年生も終わりに近づいた 95 年 1 月 17 日早朝、大きな揺れに襲われました。阪神大震災です。
「試験の日で、もう起きなきゃという時間でした。すごい揺れで、私は寝ていたベッドごと部屋の真ん中に移動しました。部屋のあらゆる物が倒れて、『日本が沈没する!』と本気で思いました」
自宅は後に全壊扱いとなるほど損傷しましたが、家族は無事でした。テレビは見られず、当時はスマホもなく、一切の情報が途絶えた状態。「地震?」「どうやら地震らしい」…。寒さと不安の中で、「自分の身には起こらないだろうことが起きた」と感じ、情報の大切さを思い知らされたことがマスコミを志望するきっかけとなりました。
「習うより慣れよ」で経験を積んだRKC時代
しかし、当時は就職氷河期。志望した会社には入れず、採用された神戸のケーブルテレビ局では営業の仕事を任されました。「したかった仕事じゃないな…」と考えていた矢先、営業先でおばあさんに出会います。
「震災後の苦労を語った後で、『どこに訴えていけばいいか分からない』とおっしゃったんです。『私のやりたいことって何だった?』と、がつんと来ました」
「放送局に入りたい」と再び決意し、アナウンス学校に入校。1 年後に高知放送のオーディションを受けました。「高知に来たことはなかったんですが、坂本龍馬が好きでいいイメージでした」。98 年 2 月に合格し、3 月には高知に引っ越しました。
入社した 4 月には夕方のニュース番組を毎週 2 日担当。土曜日の情報番組では中継コーナーを任されました。「習うより慣れよ、という会社でした。中継コーナーでは視聴者が持ち寄った晩ご飯をその場で食べて、リポートするんです。今の時代では経験できない仕事ですね」
その年の 9 月には高知県内に記録的な大雨をもたらした「高知豪雨」が発生。阪神大震災で被災した経験を重ねながら、ラジオの生放送で情報を伝えました。
「子どもが生まれたら、読み聞かせをしたい」。出産前の憧れを形に
順調にキャリアを重ねながら、2003 年に結婚し、07 年に長男を出産しました。当時 33 歳。「子育てに専念して、自分がやりたいことにシフトしていこう」と考え、高知放送を退社し、フリーになりました。
子育てを始めると、「 3 カ月ごとに悩みが変わりました」。母乳がうまくいかない、寝ない、離乳食を食べない…。「息子はもう中 2 ですが、子育ては大変と言えば、ずっと大変ですね。でも、自分も童心に返って子ども時代を生きられたなと思います」
出産前から花房さんが憧れていたのがわが子への読み聞かせ。幼い頃、母親に読んでもらったように、長男にも読んであげたいと考えました。ですが、いざ読もうとすると、絵本がたくさんあって迷いました。
そんなある日、雑誌でNPO法人「絵本で子育て」センターの記事を見つけました。絵本で子育てすることの楽しさをお母さん、お父さんに伝える「絵本講師」の存在を知り、「これだ!」。養成講座が神戸の実家近くで開かれることも、花房さんを後押ししました。
講座は 1 年間。2 カ月に 1 度のペースで著名な絵本作家らの講座を受けました。現代の子育て事情や発達障害などについても学び、ディスカッション。手書きのレポートも必要で、「みっちり勉強できました」。
絵本講師となり、高新文化教室で「読み聞かせ講座」を開講。絵本の知識、そしてアナウンサーの知識とスキルを生かしながら、読み聞かせのよさや、親子でのコミュニケーションの大切さを伝えてきました。活動の場は保育園、幼稚園、子育て支援センターと幅広く広がっています。
「私もやってました!」。読み聞かせのNGポイントは?
「絵本」「読み聞かせ」というと、最近は学力向上と結び付けて語られることも増えました。「学力が上がるか下がるかと聞かれれば、文章を読むわけですから、偏差値としてはマイナスになることはないと思います」と花房さん。「でも、勉強や成績を上げるという視点ではなく、『親子で心を解放させる楽しい時間』と捉えてもらいたいなと思います」
絵本の読み方に決まりはありませんが、NGポイントがいくつかあります。花房さんも絵本講師の講座を受けるまでは「息子にやっちゃってた」そうです。
・絵本を読みながら、いちいち説明しない…絵本は絵がお話を語っています。「ほら、クマさんが牛乳飲んでるね」などと読み手が説明しなくてもかまいません。その代わり、子どもに聞かれたら答えます。
・声色を変えて読まなくていい…「ぞうさんの声」などを無理に演出しなくても、自然な声で心を込めて読めばOK。子どもは読み手が語る言葉と絵から、「ぞうさんの声」を想像して聞いています。
・読んだ後に質問しない…「このお話、どうだった?」「面白かった?」と聞いてみたくなりますが、子どもは「次も聞かれるな」と気になり、お話の中に入れなくなります。読み終わった後は「おしまい」と絵本を閉じて、静かに終わりましょう。
絵本は、作者や編集者が絵や言葉を選び抜いて作っています。「絵本は絵と文と、そしてめくることで生まれる総合芸術で、大人が読むことで完成します。読み手は額縁の一つなので、子どもの想像をじゃませず、お話の世界に集中させてあげてください」
絵本を読む自分の声を聞くことで気持ちが落ち着くなど、読み聞かせには大人にもいい効果があります。子どもを叱り過ぎた日の夜は、ゆったりと絵本を読んでみるといいそうです。
忙しい中で時間をつくることは大変ですが、「小さい時に大人に絵本を読んでもらった記憶は、自分が愛されていた、大切にされていた記憶になります」。
「読み聞かせを義務にすると、しんどくなります。親御さんが忙しくて余裕がない時は、身近にいるおじいちゃん、おばあちゃん、先生が代わりに読んであげてください。子どもが小学生になっても、『読んで』と言われるまでは読んであげてほしいなと思います」
今、親子で読んでほしい!花房さんおすすめ絵本
最後に、花房さんが「今、親子で読んでほしい」とおすすめする絵本を紹介します。「年中から小学低学年ぐらいが楽しめる」とのこと。コメントを参考に、ぜひ手に取ってみてください。
【親子で秋を楽しむ絵本】
■「やまのバス」作:内田麟太郎、絵:村田エミコ(佼成出版社)
山田さんは山の中を走るバスの運転手さん。お客さんが少なくてバスは廃線になってしまいます。それを知った動物たちは…!温かな木版画の風景とかわいらしい動物たちや山の幸に秋を感じる一冊です。
■「ぽっとん ころころ どんぐり」作:いわさゆうこ(童心社)
秋になると、子どもたちはどんぐりを拾うのが大好きですよね。この絵本では、くぬぎのどんぐりがどうやって生まれ、新しい木に育つのか、迫力ある構図や展開で描かれています。
さまざまな種類のどんぐりや、木や実に集まる動物たちも登場。どんぐりクッキーや、どんぐりを使った遊び方も紹介しています。秋の散策にこの絵本を片手にどんぐりを探してみるのも楽しいですよ。
【コロナ禍でおでかけ気分を楽しめる絵本】
■「でんしゃにのったよ」作:岡本雄司(福音館書店)
電車が好きな男の子が、お母さんと東京のいとこの家に行くことになりました。ローカル線を乗り継ぎ、新幹線に乗り、電車の旅を楽しみます。車窓からの景色や電車の中の過ごし方など細かい部分まで見るのが楽しく、一緒に旅をしている気持ちになりますよ。
【親子で気持ちがほっこりする絵本】
■「ねえ、どれがいい?」作:ジョン・バーニンガム、訳・松川 真弓(評論社)
「ねえ、どれがいい?」。ジャムだらけになるのと、水をかけられるのと、どろんこになるのと。お城で食事か、気球で朝ご飯か、川でおやつ…迷いますね。
このほかにも究極の選択、奇想天外な質問が次々に出てきて、想像しただけで笑っちゃったり、ぶるぶるしたりします。「どれもイヤだあ!」(笑)って言う子どもたちが多いのですが、大喜びで悩んでくれますよ。何度か読んでみると違う答えになることも。
親子でいろいろ想像して楽しく会話ができる絵本です。続編「またまた ねえ、どれがいい?」もあります。
【叱り過ぎた夜に…お母さん、お父さんにおすすめの絵本】
■「いいこってどんなこ」作:ジーン・モデシット、絵:ロビン・スポワート、訳:もぎかずこ(冨山房)
うさぎのバニー坊やがおかあさんにたずねます。「ねえ、おかあさん、いいこってどんなこ?」。泣かないのがいい子なの?怖がらない子がいい子なの?怒っているぼくなんて嫌い?とさまざまな質問をしていきます。
バニーのおかあさんは、一つ一つの質問に丁寧に答え、どんなバニーでも大好きよと伝えます。
子育てをしていると思うようにいくことばかりでなく、親も悩んだり、怒ったりすることもあります。この絵本を自分の声で読んであげるだけで、お子さんへあなたは大切な存在だよと愛情をたくさん伝えることができます。そして、また肩の力を抜いて子育てをしていこうと思わせてくれる絵本です。
絵本選びを助けてくれる一つに、出版社のSNSがあります。おすすめの絵本や季節に合った絵本が紹介されています。「図書館で借りたり、ネットで試し読みをしたりしてから購入するといいですよ」
花房さんが担当しているRKCラジオ「笑ジオ」月曜日では、15 時 05 分ごろから始まるコーナー「こうち子育て応援団」で高知県内の子育ての情報を紹介しています。花房さんが月 1 回のペースでおすすめ絵本を紹介しています。