【ココハレインタビュー】比島交通公園・山崎勇人さん|多世代をつなぐ場をつくりたい
東京ディズニーシーのキャストから交通公園の園長に。子どもたちに「山ちゃん」と親しまれています
高知市比島町 4 丁目の高知県立交通安全こどもセンター。「比島交通公園」の愛称で親しまれ、開園から 51 年たった今も子どもたちに人気の施設です。
園長は「山ちゃん」こと山崎勇人さん。東京ディズニーシーのキャストとして活躍した経験を生かし、遊びに来る子どもたちや親子と関わっています。
交通安全を学ぶ場として誕生した交通公園では最近、子どもの居場所や子育て親子の見守りなど、求められる役割が増えています。「楽しい企画を考え、交通公園を多世代が集う場にしていきたい」と語る山崎さんにお話を聞きました。
目次
乳幼児の親子、小学生、中学生…利用者を笑顔で迎えています
ゴーカートに蒸気機関車、バスに歩道橋に信号機。交通公園には、交通安全に関するさまざまな“本物”が置かれています。休日はもちろん、平日も朝から乳幼児の親子が訪れ、小学校や中学校が終わる時間になると、近所の子どもたちが三々五々やってきます。
利用者を笑顔で迎えるのが園長の山崎さん。2015 年から交通公園で働いています。交通公園のある江ノ口東地区の主任児童員も務めるなど人との関わりが多い毎日ですが、かつては引っ込み思案だったそう。これまでの歩みが人生を大きく変えました。
大好きなディズニーで働けるんだ!
山崎さんは 1990 年生まれ。安芸市で過ごし、小学 1 年で高知市に引っ越しました。江陽小学校、城東中学校に通い、交通公園は「放課後に遊ぶ場所」でした。
ディズニーとの出会いは幼少期。「母親の影響で好きになり、『ピーターパン』『メリーポピンズ』はビデオがすり切れるくらい見ました。ディズニーランドにはなかなか行けなかったけれど、『ディズニーオンアイス』には毎年通いました」
岡豊高校に進み、「将来は大学か専門学校か」と考えていた 2 年生の時、キャリア教育の一環で一冊の本に出合います。「働くことの喜びはみんなディズニーストアで教わった」というタイトルで、著者は東京ディズニーランドやアメリカのディズニーワールドで働いた「伝説のディズニーキャスト」として知られる加賀屋克美さんです。
「全く考えたことがなかったんですが、『そうか、ディズニーで働けるんだ』と」。その後、加賀屋さんともう 1 人のキャストの講演が高知市内で行われ、「進学なんて吹っ飛びました」。採用面接を受け、東京ディズニーシーのキャストとして採用されました。
ディズニーリゾートではお客さんが「ゲスト」、スタッフが「キャスト」と呼ばれます。キャストの目標は、ゲストにハピネス(幸せ)を提供することです。
「笑顔やお客さんとのコミュニケーションが大事なんですが、よく考えたら自分は引っ込み思案。ディズニーが好きだというだけで就職したので、人前でしゃべるなんてとても…」
研修を受け、配属されたのは「トランジットスチーマーライン」。蒸気船で遊覧するアトラクションで、担当は何と操船。「自分がディズニーで船を操るなんて…人生って分からないですね」
ゲストにハピネスを提供するには「人を見る力」や「察する力」が必要でした。山崎さんは経験を重ねてコミュニケーション能力を磨き、さらにディズニーリゾートをより理解するために休みの日も通うという徹底ぶり。
「単にディズニーが好きっていうのもあるんですけど(笑)。ゲストが求める情報を提供できるように、園内をくまなく散歩し、お店ごとに違うチュロスの味を実際に食べて覚えました」
「交通公園ってまだあるんや」からの園長就任!
当初から「 5 年が一つの区切り」と考えていた山崎さんは、「ディズニーで働いた経験を地元で生かしたい」とUターンを決めました。求人情報で見つけたのがNPO法人の職員募集。指定管理で交通公園を運営していると紹介されていました。
「最初は『交通公園ってまだあるんやな。昔遊んだな』ぐらい。そんなに思いが深いわけではなかったですが、今思えば、引き寄せられたんでしょうね」
2015 年、25 歳で就職。その年に「交通公園で遊ぼう」という企画が始まりました。ボランティアの専門学校生や高校生らが「ちょっと年上のお兄さん・お姉さん」として地域の子どもたちと交流するというもので、延べ 600 人以上の子どもたちが参加。「ちょっと年上のお兄さん・お姉さん」よりちょっと年上の山崎さんにとっても、子どもたちとの距離を縮めるきっかけになりました。
働き始めて 3 年目、「代替わりを」という前園長の意向を受けて園長に抜てきされました。まだ 28 歳。「高校卒業して、ディズニーで働いて、高知に帰って、交通公園の園長です。人生は本当に分からないです」
園長に就任すると、地域からも声を掛けられるようになりました。地区の見守りを担当する福祉委員を務め、2019 年には主任児童委員に就任。主任児童委員の役割は、妊産婦から中学 3 年生まで、地域の子どもたちを見守り、SOSをキャッチして支援につなげることです。子育てを終えた世代の委員が多い中、高知県内で最年少の就任となりました。
その後、山崎さんが就職したNPO法人は交通公園の指定管理から撤退しました。山崎さんは一般社団法人「オフィスポラリス」を立ち上げ、代表理事として引き続き運営を担っています。
子どもの話をよく聞き、否定せず受け入れる
現在 31 歳の山崎さん。交通公園での仕事に加えて、地域での活動や会合、学校での講演活動など忙しい毎日を送っていますが、遊びに来た子どもたちとはできる限り関わるようにしています。
「仕事してたら、『あっ、おったおった』みたいな感じで近づいてきて、周りでわちゃわちゃしていますよ。『ちょっといつもと違うな』とか『何かしゃべりたいことあるんかな』とか、普段から接していると伝わってきます」
子どもたちとの関わりで心掛けているのが、話をよく聞き、否定せず受け入れることです。
「例えば、中学生から『テストの点が悪かった』と言われたとします。話を聞いて『そりゃ、勉強足りてないよ』というような状況でも、『大変だよね、中学生になったらテスト範囲も広いしね』とまずは認めます。その上で、アドバイスが必要だったら『もっとこうしたら?』と言ってみたり」
「今日はお母さんとけんかした」という愚痴もあれば、中には「家出したい」といったつぶやきもあるそう。
「僕に話してくれることがありがたいですよね」と山崎さん。核家族化が進み、口には出さなくても寂しい思いをしている子どもがいます。山崎さんは関わりを通して、「君たちは大事な存在だよ」「地域で見守っているよ」というメッセージを伝えています。
子育て支援の場としても
「見守り」は乳幼児の親子にも必要です。交通公園に子どもを連れてくるお母さんたちは、山崎さんと同世代が中心。「実家が遠くて子育てが大変」「転勤族なので知り合いがいない」といった話をそれとなく耳にするそうです。
交通公園では「お母さんたちに気を使わないで楽しんでもらえるように」と、さりげない気づかいを続けてきました。砂場で暑そうな様子だったら、テントを張る。乳幼児用のプールを出して水遊びを楽しんでもらう…。
「職員同士で気付いたことを話し合い、いい提案はすぐに取り入れています。子育て経験のある職員もいるので心強いですよ」
普段はお母さんの利用が多い交通公園で、お父さん同士の交流の場もつくろうと、今年 8 月にはお父さんと子どもを対象にしたミニ四駆作りのイベントを高知市社会福祉協議会と企画しました。
「交通公園は交通安全を学ぶ場として始まりましたが、時は流れて、求められる機能が増えています。親子で楽しめる施設という強みを生かし、子育て支援の場にもなればと思っています」
人を大事にするバトンを受け継いでいきたい
交通公園の園長として、そして江ノ口東地区の主任児童委員として。山崎さんが目指すのは「多世代をつなぐこと」です。
「他の地域と同じように、江ノ口東地区でも独居老人が増えてきました。『孫が県外にいて、コロナで会えない』というおじいちゃん、おばあちゃんがいます。一方で、地区の子どもたちは祖父母が県外にいます。お互いをつなぐことができれば」
そんな思いを形にしたのが、10 月に開いたハロウィンイベント。仮装した子どもたちが地域の高齢者からお菓子をもらって楽しみました。
「大人に大事にされた子どもは、大人になったらその次の子どもを大事にしていくのだと、自分の人生を振り返り、実感しています。交通公園を世代間交流の場として盛り上げていくことで、人が人を大事にしていくといういいバトンを手渡していければと思います」
2022年3月、交通公園に大型複合遊具が登場します!
交通公園では現在、園内の改修工事が進められています。多目的トイレを備えた新しいトイレが 2022 年 1 月から使用できます。
遊具も一部リニューアルされます。複数のすべり台を備えた大型複合遊具やスイング遊具を設置。ブランコや砂場も新しくなります。
「大型複合遊具は交通公園をイメージしたデザインです」と山崎さん。柵などもあり、より安全に遊べるようになるそうです。遊具のオープンは 3 月を予定しています。
年末年始は 12 月 27 日(月)~1 月 1 日(土)が休園。1 月 2 日(日)は「新春福引大会 2022 」が開かれます。