不機嫌な態度、無視…家庭内のモラルハラスメントから自分を守って|カウンセラー・高山直子さんが講演しました
精神的DV「モラハラ」とは。こうち男女共同参画センター「ソーレ」のDV防止啓発講演会から紹介します
「モラルハラスメント」「モラハラ」という言葉を聞いたことがありますか?
言葉や態度などで相手の人格や尊厳を傷つけたり、精神的に追い詰めたりする行為です。家庭内で繰り返されるモラハラは「精神的DV」とも言われています。「DV」は「ドメスティック・バイオレンス」で、配偶者や恋人など親密な関係にあるパートナーから振るわれる暴力です。
外からは見えづらい家庭内のモラハラをテーマにしたDV防止啓発講演会がこうち男女共同参画センター「ソーレ」で開かれ、女性問題を専門に扱うカウンセラー・高山直子さんが講演しました。
モラハラは被害者の努力で改善できる問題ではないそうです。モラハラの被害から自分を守るポイント、そしてモラハラの加害者にならないために気を付けたいことを紹介します。
目次
高山さんは、セクハラなどの性的被害やDV、女性の労働問題を専門にするカウンセラーです。東京都内で「カウンセリング&サポートサービスN」を開設しています。
著書に「働く人のための『読む』カウンセリング ピープル・スキルを磨く」(研究社)があります。
講演会は 2022 年 11 月 13 日、「外では見せない内の顔~家庭内のモラル・ハラスメント~」と題し、高知市旭町 3 丁目のソーレで開かれました。四万十市社会福祉センターでもライブ配信されました。
ハラスメントの意味は?被害者と加害者が交わることはありません
セクハラ、パワハラに代表される「ハラスメント」という言葉は英語です。日本語では「嫌がらせ」と訳されますが、この訳では正確な意味が表されていないと、高山さんは問題提起しました。
英語の意味を正確に日本語に訳すと、こうなります。
【ハラスメント(harassment)とは】
執拗(しつよう)に(継続的に)、相手を不快にしたり、尊厳を傷付けたり、不利益を与えたり、脅威を与える言動・行為
「嫌がらせ」という日本語は「『執拗に』という意味が抜けがちになる」と高山さん。
「相手が嫌がるのを把握できず、失敗することは誰にでもあります。相手が嫌がっているのに繰り返すと、ハラスメントになる可能性が高くなります」
もちろん、言動や行為がひどい場合は、1 回でもハラスメントになります。
講演ではさらに、ハラスメントの構造を掘り下げていきました。
高山さんが挙げたのはこんな例です。
○○さんにランチに誘われたけれど、行きたくない。何とか遠回しに断りたい。
「今ダイエット中なので…」と伝えると、「ダイエットが終わったら行こう」。
「お弁当を持ってくるので…」と伝えると、「じゃあ、私もお弁当を持ってくるね」。
なかなか分かってもらえません。
「嫌だ」と直接伝えると角が立つので、不快にさせないように説明しているのに、こちらの気持ちがなかなか伝わらない…という場面です。
高山さんによると、ハラスメントでは「被害者の目的」と「加害者の目的」が全く異なるそうです。
【ハラスメントの構造】
- 加害者の目的:攻撃、支配…相手が何かを言えば言うほど高揚し、エスカレートする
- 被害者の目的:意思の疎通…相手に分かってほしいと思い、あの手この手で意思の疎通を図ろうとする
「あなたが相手に分かってもらおうと説明すればするほど、相手に『攻撃』や『支配』として利用される材料を与えてしまいます。ハラスメントの加害者と被害者は目的が違うので、交わることがない。つまり、被害者が自分でコントロールしたり、努力したりして改善できる問題ではないのです」
「エアコンを勝手に切るな」「切るかどうか自分で判断できないの?」…何をやっても被害者は不利に
講演ではハラスメントの構造を理解した上で、モラハラの話に入っていきました。
モラハラの定義はこちらです。
【モラルハラスメントとは】
言葉や態度、身ぶりや文書などで、人格や尊厳を傷付けたり、精神的に追い詰めたり、雰囲気を悪化させる行為
典型例としては「無視」「何をしても不利」「あめとむち(時に優しく、時に怖い)」「しつこさ」などが挙がります。
こんな経験はありませんか?
夏の暑い日、部屋で夫とDVDを見ていました。
エアコンが効き過ぎて寒かったので、私が消しました。
夫に「何で勝手に切るんだよ」と言われました。
1 週間後、またエアコンが効き過ぎていたので、夫に「寒いから切っていい?」と尋ねました。
すると、夫に「お前はエアコンを切るかどうかも自分で判断できないの?大丈夫?」と言われました。
「この間は『勝手に切るな』と言ったのに…」と困惑してしまいますね。
夫は、妻がエアコンを切ったら不機嫌になり、妻が切っていいかどうか尋ねると、今度は妻をばかにしたような言葉を返しています。これが「何をしても不利」の典型。「二重基準」とも呼ばれています。
モラハラの脅威として、「操作性」があると、高山さんは説明します。この場合の「操作性」とは、ある出来事があった時に、被害者に「自分に非があったのかな」と思わせることです。
例えば、昨日まで仲良くおしゃべりしていた人に突然無視されたら、「あれ?私、何か気に障ることを言ったかな」と昨日のおしゃべりを振り返りませんか?
加害者はこの「操作性」を巧みに使います。モラハラがいろんなパターンで繰り返されると、被害者は「自分がおかしいんじゃないか」と思うようになります。
「被害者は他の人に通じていたコミュニケーションが加害者には通じなくて、価値観を揺るがされます。常に自分が悪者。正解が分からない迷路は、本当に苦しいんです」
加害者は「いい人」。だから、被害者は「自分が悪い」と思い込んでしまいます
モラハラの被害について耳にした第三者が「あの人がそんなことをする?とてもいい人なのに」と疑問に思うことは珍しくありません。
高山さんによると、モラハラの加害者の多くは、ターゲットにした人以外にはとてもいい人だそうです。
「完全なうそだとバレるのでつきませんが、加害者は自分に都合がいいように脚色したり、話をすり替えたりします。自己愛が強く、罪悪感がなく、自己防衛のために息を吐くように話をすり替えて、誰かのせいにします」
被害者にとっても、最初から「ハラッサー」(ハラスメント行為をする人)の顔をしていません。「最初は『いい人』に感じますし、この人と関係をよくしていた方が徳だと感じさせられます」
モラハラが外から見えづらく、加害者も被害者も無自覚なまま深刻になるのはこのためです。
こんないい人が不機嫌になるのは私のせいだ…。そう思ってしまうと、自分を責める負のスパイラルから抜け出せなくなります。
撤退は「負け」ではない!「相手を変えよう」から「自分を守る」へ、意識を変えましょう
ハラスメントの構造や加害者の心理を知ると、相手にこちらの気持ちを分かってもらい、変わってもらおうとするのは無理だ…と分かってきました。
高山さんは「自分でコントロールできることとできないことを見極める意識が重要。『相手を変えよう』とする意識から、『自分を守る』意識へと変えてほしい」と語ります。
配偶者や恋人など、パートナーとは本来、「対等」の関係であるべきです。しかし、モラハラに陥った場合、「支配と服従」の関係になります。
相手に支配されている状態では、安心や安全が脅かされています。安心感、安全感を取り戻すため、「おかしい」と感じたら、その勘を信じること。ハラスメントやDVに理解のある人に相談してください。
自分を守るため、相手から撤退する、つまり別居や離婚を選ぶケースは少なくありません。
「モラハラは『魂の殺人』とも言われています。撤退は『泣き寝入り』『逃げる』『負ける』ではありません。自分の健康や将来の可能性を守る選択肢であると知っていてほしいのです」
「不機嫌」を自覚できてる?あなたが加害者になる可能性もあります
モラハラの被害者の心理や対応のポイントを語ってきた高山さん。さらに、「誰しも、ハラスメントの加害者の心理に陥る可能性はある」と投げ掛けました。
「不機嫌は暴力か」という問いがあります。私たちが加害者にならないために必要なのは「葛藤」や「自覚」だそうでうす。
【モラハラの加害者にならないために意識すること】
- 言葉にせずに察してもらうため、不機嫌な態度を取る自分に葛藤はありますか?
- 自分の言動が相手を支配(コントロール)、操作していることに自覚はありますか?
- 相手に理解を求めるだけでなく、相手を変えようとしていませんか?
- 全部言わなくても察してくれることを期待していませんか?
- 相手の意思を確認していますか?「積極的なYes」でなければ「No」だと解釈できていますか?
- モラハラにモラハラで対抗していませんか?
「不機嫌になったことのない人はおそらくいないでしょう。不機嫌でいる自分に葛藤がないのなら、加害者に足を突っ込んでいるかもしれませんよ」
「『察する』は日本文化では美徳とされていますが、『言わなくても分かってくれ』はモラハラのリスクが高まります。言葉できちんと伝えましょう」
家庭内では特に、「相手を傷付けても許してもらえるし、相手は離れない」という“幻想”を抱きがちだそうです。
「家族に対しても言い過ぎ、やり過ぎはあります。迷ったら、『初対面の人にも同じように接するか』を考えてみてください。同じようにしないなら、家族にもしないのが安全です」
相手から「傷付いた」「不快だった」と指摘された時は、その言葉を受け止め、同じような言動をしないように心掛けましょう。
「どんな理由があったとしても、『傷付いた』『不快だった』という事実も過去も変わりません。『そんなつもりじゃなかった』では許してもらえないと分かっておいてください」
加害者からモラハラを学ばないことも大切です。
無視や不機嫌などで相手を支配する「受動的攻撃」を頻繁に使う人が周りいると、その相手に対抗する、つまり身を守る手段として、受動的攻撃を学ぶ傾向があるそうです。
「無視も受動的反応・攻撃なので、相手の言動を無視すると、相手のゲームに乗ることになります。反応しないように、その場から離れたり、視界から外したりを意識してください」
パートナーとの関係だけでなく、親子関係にも当てはまるそうです。「弱者である幼い子どもは自分を守るために受動的行動を身に付ける可能性がありますので、注意してください」
「気にし過ぎ」「なんで『嫌だ』って言わなかったの?」「忘れた方がいい」…全てNGです
モラハラの被害者が周囲によく言われる言葉があります。
ハラスメントの構造からも分かるように、モラハラの加害者に「嫌だ」と伝えるのは大きなリスクを伴います。加害者に攻撃の材料を与え、行為をエスカレートさせる恐れがあるからです。
また、被害者はこの言葉を「『嫌だ』と言わなかった私が悪いんだ」と捉えるそうです。
高山さんが被害者から話を聞く際には、こう尋ねています。
理由を問うと、被害者はその時の自分の気持ちに向き合い、「嫌だ」と言えなかった自分を責めるのではなく、理由について考えることに意識が向きやすくなります。
ハラスメント被害の場合、相手に「嫌だ」と伝えるかどうかは「究極の選択」だと、高山さんは説明します。どちらの選択でも、被害者本人が決めたのなら、周囲が責める材料にはなりません。
被害者へのNGワードは他にもあります。
- 「気にし過ぎ」「うまくやればいいのよ」「そんなに騒ぐことじゃないでしょ」…モラハラ被害を見逃す要因になります
- 「忘れた方がいい」「もう1年もたってるのに、まだそんなこと言ってるの?」…忘れられるわけはなく、非現実的な要求です
- 「あの人がそんなことする人だなんて信じられない」「私にはそんなことしないけど…」…被害者を孤立させてしまいます
高山さんは被害者の支援に携わる人から、「ただ見守っているだけでいいんでしょうか」と質問されるそうです。
「介入したとして、被害者を救えるでしょうか。専門家の力が必要な場合もあります。被害者がいざという時にあたなに助けを求めようと思える関係を築く、『話を聞いてもらえてよかった』と思ってもらえるように接する。それが今あなたにできることかもしれません」
モラハラの被害者は自分や他者、社会を信じられなくなっています。モラハラに早く気付き、安心感・安全感を取り戻しながら、「信じる力」を回復させていくことが大切です。
こうち男女共同参画センター「ソーレ」は、「男女共同参画社会」を進めるため、情報発信や相談事業に取り組んでいます。
女性のための相談を受け付けており、子育て、仕事、夫婦関係などの悩みに相談員が応じています。モラハラやDVについても相談できます。無料で、電話でも来所でも相談できます。
男性のための相談窓口もあります。
- 住所:高知県高知市旭町 3 丁目 115
- 開館時間:火曜から金曜日は 9:00 ~ 21:00 。土、日、月曜は 9:00 ~ 17:00
- 休館日:毎月第 2 水曜日、祝日、年末年始( 12 月 29 日~ 1 月 3 日)
- 電話:088-873-9100(代表)、相談員直通は088-873-9555
- 駐車場:建物の 1 階部分に 35 台あり、無料で利用できます。周辺に有料駐車場はありません