絵本「あんぱんまん」が誕生50周年を迎えました|大人気・アンパンマンの原点は?やなせたかしさんの言葉から振り返ります
子どもたちに大人気のアンパンマン。お父さん、お母さんにとっては乳幼児の子育ての強い味方でもありますね。
2023 年は、アンパンマンの絵本が誕生して 50 周年という節目の年。アンパンマンが初めて登場したのは 1973 年、フレーベル館から刊行されている月刊絵本「キンダーおはなしえほん」10 月号でした。
当時のアンパンマンは、平仮名の「あんぱんまん」。顔も姿も、今とは印象が異なります。
フレーベル館は 50 周年を記念して、「やなせたかしのあんぱんまん 1973 」シリーズを刊行しました。長く読み継がれてきたアンパンマンシリーズの魅力について、作者・やなせたかしさんの言葉から振り返ります。
目次
おなかをすかせた人に顔を差し出す…誕生時から変わらないアンパンマン
アンパンマンの作者はご存じ、やなせたかしさん。1919 年(大正 8 年)に生まれ、高知県内で育ちました。
香美市立やなせたかし記念館アンパンマンミュージアムがある香美市香北町が、やなせさんの本籍地です。
やなせさんは高知新聞社勤務や三越百貨店のグラフィックデザイナーなどを経て、1953 年にフリーの漫画家となりました。
アンパンマンが誕生したのは 1973 年。フレーベル館の月刊絵本「キンダーおはなしえほん」10 月号で「あんぱんまん」が刊行されました。同じ「キンダーおはなしえほん」で「やさしいライオン」が刊行されてから 4 年後のことでした。
高知新聞で連載されたエッセー「人生なんて夢だけど」で、やなせさんが当時を振り返っています。
(タイトルを)平仮名にしたのは幼児用絵本だからで特別の意味はありません。
これまでに出した絵本は幼児用ではなく、この「あんぱんまん」が初体験でした。あまりかわいらしくなく、マントもぼろぼろです。(「人生なんて夢だけど」高知新聞 2004 年 6 月 29 日掲載より)
「あんぱんまん」には「あんぱんまん」「ぱんつくりのおじさん」が登場します。アンパンマンたちも、背景の絵も、今の絵本とは印象が異なります。
ストーリーは、アンパンマンがおなかをすかせた旅人や子どもに自分の顔を食べさせて助けるという、今に通じるものです。
おなかをすかせた人に自分の顔を差し出すというアンパンマンのヒーロー像は、やなせさんの戦争体験から生まれました。
「あんぱんまん」は「大悪評」?!「顔を食べさせるなんて残酷」「もう描かないで」
「あんぱんまん」は出版後、「大悪評だった」と、やなせさんは後につづっています。
本が出ると大悪評で、出版社からは「これ一冊限りにしておいて、もう描かないでください」と言われるし、幼稚園の先生からは「顔を食べさせるなんて残酷です」と手紙が来ました。
絵本評論家の「こんなくだらない絵本は図書館に置くべきではない。現代の子どもはこの絵本を読んでも少しも面白がらないはずだ」は良い方で、世間はほぼ完全に黙殺。誰も知らない絵本でした。(「人生なんて夢だけど」高知新聞 2004 年 6 月 29 日掲載より)
当時のやなせさんにも自信はなかったようで、絵本の後書きにこう記しました。
今では考えられないですね。
「あんぱんまん」の人気に火を付けたのは、子どもたちでした
そんな「あんぱんまん」の人気に火を付けたのは、絵本を手に取った子どもたちでした。
やなせさんは、最初の予兆をこう振り返っています。
子どもたちの思いは、大人たちに伝わります。フレーベル館アンパンマン室の宮本麻未さんは「少しずつ、幼稚園や保育所の先生方からも『子どもたちに人気で』『何度も読んでほしいと言われる』というようなお声をいただくようになったそうです」と語ります。
こうして、アンパンマンの絵本は次々と出版されるようになりました。読者の中心が 2~3 歳児だったので、アンパンマンの体形は 3 頭身の幼児体形に。しょくぱんまん、カレーパンマンと、仲間も増えていきました。
ちなみに、ばいきんまんの誕生はさらに後。「悪役が欠けている」と気付いたやなせさんは、「アンパンマンは食品だから、食品の敵はバイキン」と思いつきました。
フレーベル館によると、アンパンマンの絵本は全部で約 950 タイトルだそうです。このうち、やなせさんが描き下ろした絵本が約 200 タイトルで、アニメイラスト絵本が約 750 タイトル。累計発行部数は 2018 年に 8000 万部を突破しています。
子どもの頃の思い出に、子育ての思い出も加えて…大人になっても楽しめるアンパンマン
今の子どもたちにとって、アンパンマンはアニメのイラストがおなじみですが、やなせさん描き下ろしのアンパンマンからは手描きならではの温かさが伝わってきます。
フレーベル館の担当者は、やなせさんのイラストを扱う時、思わず笑顔になってしまうことが多いそう。アンパンマン室の宮本さんは、こう説明します。
「同じアンパンマンのイラストでも、その時の自分の気持ちによっては頼もしく見えたり、優しくほほ笑んでいるように見えたり、とてもユーモアのあるお顔に見えたりします。やなせ先生の作品やイラストが、読む人、見る人に寄り添ってくれるような存在だからではないかと思います」
高知市の金高堂書店本店の店長・亥角理絵さんも、描き下ろし絵本の魅力を語りました。
「初期の絵本では、アンパンマンの顔が半分欠けたり、全部なくなったまま飛んでいたり。結構シュールなんですけど、何とも言えない温かさがあります。パンが焼き上がる場面は、パンの香りがしてきそうなくらい、おいしそうなんですよね」
そんな描き下ろし絵本の良さを再び楽しんでもらおうと、フレーベル館から刊行されたのが「やなせたかしのあんぱんまん 1973 」シリーズです。
次の 6 タイトルが収められています。
- あんぱんまんとごりらまん… 1978 年初版刊行
- アンパンマンとムシバラス… 1987 年初版刊行
- あんぱんまん… 1973 年に月刊誌版、1976 年に初版刊行
- それいけ!アンパンマン… 1975 年初版刊行。アンパンマンの初めての市販絵本
- あんぱんまんとばいきんまん… 1979 年初版刊行
- アンパンマンともえるほし… 1987 年初版刊行
シリーズを担当したフレーベル館コンテンツ本部編集部の上総糸恵さんによると、「アンパンマンの原点となる作品を、装丁を新たにして一つのシリーズにまとめた」そう。「今の子どもたちにも手に取りやすくし、これからも長く読み続けてもらいたいと考えました」
1970 年代、80 年代の絵本ということで、今のお父さん、お母さんが子どもの頃に読んでもらった絵本かもしれませんね。
アンパンマン室の宮本さんは「 50 年前に 1 冊の絵本から始まったアンパンマンが、今もこうして多くの方に愛されていることは、アンパンマンに携わる者として本当にありがたく、うれしいです」。
そして、アンパンマンに助けられながら子育てを頑張っているお父さん、お母さんに向けて、こう語りました。
「アンパンマンの絵本は大人が読んでも、はっとするような気付きがあります。ご自身の子どもの時の思い出に、今度はお子さまとの思い出をプラスして、一冊の絵本に幾重にも思い出を重ねていただけたら、とてもうれしいです」
【「やなせたかしのあんぱんまん 1973」シリーズ】
- 定価:各 1397 円
- セット定価:8382 円( 6 巻セット、セットケース付き)
- サイズ:各絵本は 27×21cm、平均 32 ページ
- 発行所:フレーベル館
金高堂書店でセットを購入すると、オリジナルバッグがプレゼントされます。
50 周年を記念し、香美市立やなせたかし記念館詩とメルヘン絵本館では 9 月 30 日(土)~ 12 月 17 日(日)、「絵本『あんぱんまん』展~はじまりのアンパンマン~」が開かれます。
ココハレからもすてきなお知らせがあります。近日公開です。お楽しみに!