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「子どもをサポートし、認めるのが大人の役割」「子どもには『当たり前』を知る権利がある」|里親でファミリーホームを運営する廣瀬タカ子さんが子どもへの関わり方を語りました

「子どもをサポートし、認めるのが大人の役割」「子どもには『当たり前』を知る権利がある」|里親でファミリーホームを運営する廣瀬タカ子さんが子どもへの関わり方を語りました

さまざまな事情で、家族と一緒に暮らせない子どもたちがいます。高知県内では約 70 %が施設で、約 30 %が里親家庭やファミリーホームで暮らしています。

ファミリーホームとは「小規模住宅型児童養育事業」のこと。「里子たちに、大家族のように生活し、共に成長できる環境を」と制度の設立に尽力したのが、千葉県でファミリーホーム「ひろせホーム」を運営する廣瀬タカ子さんです。

これまでに約 70 人の子どもたちを迎え入れたという廣瀬さん。南国市内で開かれた講演会では「子どもをサポートし、認めるのが大人の役割」「子どもには『当たり前』を知る権利がある」と語りました。

 

廣瀬タカ子さんの講演会は、高知県の里親家庭サポートセンター「結いの実」が主催。「子ども目線で子どもから学ぼう」と題し、2024 年 9 月 28 日に南国市大埇甲の地域交流センター「MIARE!(みあーれ)」で開かれました。

ファミリーホームとは、養育者の家庭で育てる「家庭養護」です

廣瀬タカ子さんは千葉県君津市でファミリーホーム「ひろせホーム」を運営しています。

ファミリーホームとは、家族と暮らせない子どもたちを養育者の家庭に受け入れて養育する「家庭養護」のこと。正式名称は「小規模住居型児童養育事業」です。

養育者は里親や児童養護施設の職員など、養育経験の豊かな人が多いそう。その人の家庭に迎え入れるので、施設とは異なります。5~6 人の子どもを預かるホームが多いそうです。

「ひろせホーム」を運営する廣瀬タカ子さん
「ひろせホーム」を運営する廣瀬タカ子さん

廣瀬さんは現在、77 歳。40 代で里親になりました。父親が里親だったことから、廣瀬さんは里子たちと一緒に育ちました。

「戦後だから、避難してきた子もいて。掃除、洗濯、ご飯。大勢で育つのが私にとって普通でした」

時代が進み、「大家族」から「核家族」へと家族の形が変化していく中で、「これからの子どもたちは何を見て大きくなる?」と疑問を抱くようになります。

「家族と一緒に暮らせない子どもたちが、社会の一員となって生きていけるのか。施設ではないミニ社会集団で切磋琢磨(せっさたくま)したり、けんかしたり、仲良くしたりして暮らしていくことが、社会に出て大きな役に立つんじゃないかと考えました」

「保護された子どもは甲乙つけずに受け入れる」

里親になった廣瀬さんも父親と同じように、自分の子どもと里子を一緒に育てました。

「保護された子どもは甲乙つけずに、受け入れられるものなら受け入れてみよう」というスタンスで受け入れたのが、15 歳の少女。家出をしては異性の所で発見されることを繰り返していました。

受け入れ後、「何だか調子が悪そうだ」「ご飯を食べないのに太っている」と気づきました。

「産婦人科に連れて行って、おなかにエコーを当てたら、どっくん、どっくん。自分の血の気がさーっと引くのが分かった」

児童相談所の職員ら周囲の大人たちは、少女の妊娠に全く気づいていなかったそうです。

「保護された子どもは甲乙つけずに受け入れよう」と考えました
「保護された子どもは甲乙つけずに受け入れよう」と考えました

少女は無事出産しましたが、わが子を育てようとはしませんでした。

「おっぱいが出てるのに飲ませようとしないし、赤ちゃんが夜泣いても知らん顔。『重たいから抱っこできない』『眠いんだもん』って。私が赤ちゃんを抱っこしておっぱいまで持っていって、『子どもを育てるってこういうことだよ』と教えたんだけど、やっぱり家出を繰り返しちゃって…」

少女が赤ちゃんの元に戻ることはなく、赤ちゃんは養子に出されました。

「行政、警察、病院、児相、地域。子どもの命を守るため、大人が一体となる必要があると分かりました」

乳幼児期は「肌身離さず育てる」

乳幼児期に大事な「愛着」は、特定の大人との関わりから形成されると言われています。廣瀬さんが里親やファミリーホームの活動に力を入れてきたのは「特定の大人との関わり」を一人でも多くの子どもにつくってあげたいという思いからでした。

当時の施設では、たくさんの子どもたちを養育するため、養育は職員が分担して行うのが普通でした。

「お風呂だったら、子どもの服を脱がせる人、洗う人、服を着せる人という感じでオートメーション。洗う人も服を着てるから、子どもは大人の裸を見たことがない。ホームに受け入れて初めて一緒にお風呂に入ると、ぎゃーっと泣いちゃったりね。小学生や中学生でもありましたよ」

講演には夫の正さんも登場。二人三脚で歩んできました
講演には夫の正さんも登場。二人三脚で歩んできました

受け入れる際には、あえて子どもの生い立ちを聞かないのも、廣瀬さん流。「試し行動から素が出てくる」と考えています。

子どもの「試し行動」とは、大人が自分をどれほど受け止めてくれるかを試す行為です。わざと物を壊したり、いたずらしたり、悪態をついたり、大人を困らせながら反応を伺います。

「虐待を受けてきた子どもは、自分がやられてきたことをやります。中高生になると、刃物を向けてきたり、壁に打ちつけられたこともあった。身の危険はもちろんあるんだけど、その子の体験だから。逃げずに受け止めなきゃと思ってやってきました」

子どもには「あなたの気持ちが済むんならやってみなさい」と向き合い、終わったら抱きしめる。そうやって信頼関係を築き、ひろせホームを安心できる場所にしてきました。

子育ては悩みながら…実りや希望は必ずあります

これまでに受け入れてきた里子は約 70 人。養育経験の豊かな廣瀬さんでも、「育てている最中はやっぱり悩む」と打ち明けました。

「すごく手のかかる子もいるし、『どうすればいい?』『私たちの育て方が悪い?』と悩みます。『児相にお返しした方がいいかな』と思うこともありました。でも、自分も親を困らせたし、逆に喜ばせもしてきた。子どもたちも同じと思った方がいい」

「子どもにも相性がある。私がいい子もいれば、お父さんがいい子もいますよ」
「子どもにも相性がある。私がいい子もいれば、お父さんがいい子もいますよ」

どんな子どもも「自分の気持ちをちゃんと表現している」と、廣瀬さんは語ります。

「赤ちゃんはおなかが空いたら泣くし、赤ちゃんでも『こうしてほしい』『これはイヤ』と発しています。里子に対して『何をしてあげようか』とこっちが考えるんじゃなくて、子どもが発していることをしてあげる。子どもをサポートして認めるのが大人の役割です」

ひろせホームを巣立った子どもたちは、折に触れて“帰省”するそうです。

「試験に受かったとか、仕事がうまくいったとか。いいことがあったら必ず来るけど、ネガティブな時には来ない。育ててもらった人に自慢したい、認めてもらいたいというのがあるのかしらね」

「子どもは自分の気持ちをちゃんと表現しています」
「子どもは自分の気持ちをちゃんと表現しています」

子どもを背中におんぶして、前で抱っこして…。長年の生活の影響で腰を痛めた廣瀬さんを、今では子どもたちが支えるようになったそうです。

「子どもたちが私から学んだことなんでしょうね。命があれば次の世代ににつながるし、誰かに優しくされたら、今度は自分が次の世代に優しくできる」

「私は自分の子からも里子からも学び、助けられながらここまで来ました。子育てはかならずどこかで実りがある。希望を持ってやっていきましょう」

 

里親家庭サポートセンター「結いの実」では、里親に関する相談などに対応しています。

里親家庭サポートセンター結いの実

  • 住所:高知県高知市新本町 1 丁目 7-30
  • 電話:088-872-1012
  • メール:info@satooya-yuinomi.jp
  • ウェブサイト:https://satooya-yuinomi.jp/

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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