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「あなたが大切」と伝えたい・16年目のポッケ⑤|繰り返し、何度でも伝える

「あなたが大切」と伝えたい・16年目のポッケ⑤|繰り返し、何度でも伝える

四万十町認定こども園「たのの」で16年続く命の学習「カンガルーのポッケ」に密着。命の大切さを伝え、自己肯定感を高めていくヒントを紹介します

高知県四万十町大正の認定こども園「たのの」で 16 年続く命の学習「カンガルーのポッケ」をココハレ編集部が 1 年間密着しました。子どもに命の大切さを伝え、自己肯定感を高めていくヒントを探る 5 回の連載です。

最終回は「繰り返し、何度でも伝える」。カンガルーのポッケでは年少児から 3 年間、同じプログラムで学習しています。命の話を繰り返し伝えていくことで、子どもたちにも変化が生まれています。

普段の生活でも、命について考えるようになりました

カンガルーのポッケは 2006 年度のスタート以降、プログラムの大枠を変えずに実施してきました。子どもたちは年少児から年長児までの 3 年間、同じ話を聞きます。「同じ話だからといって、『もう聞いたけん、えい』みたいな反応はないですよ」と小児科医の沢田由紀子さん。「子どもはその時で理解できることが違うし、何度でも新鮮な気持ちで聞いてくれています」

沢田さんが「たのの」を訪れ、園児たちを前に行う学習は年間 7 回ですが、普段の生活でも命について考える機会が芽生えています。「命のつながり」について学んだ夏にはこんな出来事がありました。

年中児のある男の子の家でゴキブリが出ました。お母さんが駆除しようとすると、男の子は「ゴキブリ殺したらいかん!お父さん、お母さんに会えんなる!」と必死に訴えたそう。沢田さんは「お母さんが『ゴキブリ殺せなくなりました』って」と笑いながら、「命のつながりをちゃんと理解してるんだなと感じました」。

カンガルーのポッケでは全体での学習後、クラスごとにその日の学びを振り返ります
カンガルーのポッケでは全体での学習後、クラスごとにその日の学びを振り返ります

園長の門田清子さんは「『命の学習ごっこ』が始まったんですよ」と教えてくれました。

子どもたちがある日、先生役、園児役に分かれて「今からカンガルーのポッケをします!」と遊んでいたそう。「遊びにも登場したことにびっくりしました。学習に協力してくださる皆さんが心を込めて話してくださるので、命の話を自分のこととして一生懸命聞くという姿勢が子どもたちに育ってきました」

学習を続けることで、子どもたちだけでなく、先生たちにも変化が生まれました。子どもへの声の掛け方、関わり方が変わったそうです。例えば、子ども同士でけんかをした時。「仲立ちをする中で、『心臓は大事だよね。お友達をたたいて心臓に当たったら、命がなくなるかもしれんよ』というふうに一歩踏み込んで伝えるようになった」と門田さんは語ります。

「カンガルーのポッケのおかげで、命の大切さや心臓は大事だよということを、大人から子どもに、言葉で伝えられているように思います」

友達のいいところを発表し合いながら、自尊感情を育みました

2 月、2021 年度のカンガルーのポッケがいよいよ最終回を迎えました。テーマは「いいところ」。自分のよさを再確認したり、友達のいいところを認め合ったりしながら、自尊感情を育むことを学習の目標に設定しました。

この日の絵本は「かみさまからのプレゼント」。子どもたちの個性を「神様からのプレゼント」として描いたお話を聞いた後、たいよう組の年長児たちが友達のいいところを考え、発表しました。

「○○ちゃんのいいところは、ドッジボールで逃げるのが上手」「△△ちゃんのいいところは、ピアノが上手」

お互いに褒め合い、ちょっと照れくさそうな子どもたち。面と向かって伝える機会をつくるのは、カンガルーのポッケならではです。

たいよう組はお互いのいいところを発表しました
たいよう組はお互いのいいところを発表しました

そら組の年中児、にじ組の年少児は進級後の目標を発表しました。

「みんなと仲良くします」「優しいたいよう組さん」「竹太鼓が上手になりたい」「ちゃんとパジャマを着替えるそら組さん」

一人一人の発表に、先生たちが拍手を送ります。「たいようさんがこの 1 年頑張ってきたことを、そらさん、にじさんはちゃんと見ていました」と門田さん。「たいようさんに憧れて、『あんなたいようさんになりたい』って言ってくれました。たいようさん、安心して 1 年生になってね」とエールを送りました。

そら組さんはいよいよ年長さんになります
そら組さんはいよいよ年長さんになります
年少のにじ組さんもしっかり発表できました
年少のにじ組さんもしっかり発表できました

「自分は大切な存在」と分かってもらうことを一番に

最後に沢田さんが「どんなお勉強したか覚えてる?」と問い掛け、1 年の学習を振り返りました。

「みんな、命のバトンはお父さん、お母さんからもらったね。みんなの心臓はどこにある?」「ここ!」

「心臓には何をしたらいかんかった?」「たたく!」

「よう覚えちょうねー!」と沢田さんは褒めながら、さらに続けます。

「みんながおなかの中におる時、お母さんと何でつながってた?」「へその緒!」

「へその緒の先には何がある?」「胎盤!」

「胎盤からお母さんに何をもらいよった?」「空気!」「栄養!」「生きる力!」

1年の学習の締めくくり。沢田さんの質問に答える形で振り返りました
1年の学習の締めくくり。沢田さんの質問に答える形で振り返りました

3 回学んだたいよう組を中心に、子どもたちはすらすら答えていきます。ですが、幼児期の記憶は成長するにつれて薄れていきます。「カンガルーのポッケは学んだ知識を覚えていることを目的にしているわけじゃない」と沢田さん。「『自分が大切な存在なんだ』と分かってほしいのが一番です」

門田さんは長年の経験から、「命の学習は大事なことですが、特別なことじゃない」と感じています。「『命のお勉強をしようね』というのは、子どもたちにとっては、初めてかけっこをする、給食を食べるといったことと同じ『経験』の一つだと思います。肩肘を張らずに、大切なことを子どもたちに伝えていけばいいのではないでしょうか」

根幹は変えずに、時代の変化に対応していきます

2022 年度、カンガルーのポッケは 17 年目を迎えます。スタートした頃と比べると、共働き家庭の増加、母子家庭、父子家庭、祖父母に育てられる家庭など、家族の多様化が進みました。

日々の園生活の中で、「この間、お母さんの家に行っちょった。来週はお父さんの家に行く」という発言が子どもから出ることがあります。沢田さんは「お父さんとお母さんがそろっているのが当たり前ではないことを、子どもは割とフラットに受け入れていますが、やはり配慮は必要ですね」。「あなたは大切な存在だと子どもたちに伝える」という命の学習の根幹は変えずに、その年の子どもたちの家庭環境や時代の変化に合わせていくことがこれからの課題の一つです。

最後に「ありがとうの花」を歌い、2021年度の「カンガルーのポッケ」は終わりました
最後に「ありがとうの花」を歌い、2021年度の「カンガルーのポッケ」は終わりました

最後に、沢田さんは子どもたちにこう語り掛けました。

「みんな、命が 2 個ある人はいる?心臓が 5 個ある人はいる?」「おらんよね?一つしかないみんなの命を大事にしてほしいなと思って、命の授業をしました。たいようさん、忘れんといてね。そらさん、にじさん、来年もまたお勉強しようね」

子どもたちはにこにこしながら聞いています。

「みんな、いい顔してたでしょ?」。子どもたちが部屋に帰った後、沢田さんと門田さんは笑顔で語りました。「『自分が大事にされている』ということが伝わってるから、いい顔をして聞いてくれているのかな」

幼児期に大人から大切にされた経験は、子どもたちの人生を支えていきます。「あなたは大切な存在なんだよ」とは、全ての子どもたちに必要なメッセージです。家庭でも言葉にして、子どもたちに伝えていきませんか?

カンガルーのポッケで使った絵本はこちら

最後に、カンガルーのポッケで読み聞かせをした絵本を紹介します。

【第 7 回 いいところ】

かみさまからのおくりもの」(作:ひぐちみちこ、こぐま社)…「赤ちゃんが生まれてくる時には、神さまが贈り物をくれるんだよ」というお話。「よくわらう」「ちからもち」といった子どもの個性を描いています。一緒に読みながら、子どものいいところについて話してみてはいかがでしょうか。

 

この連載はココハレの「性教育」で紹介しています。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小1と年少児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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