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命の大切さ、子どもにどう伝える?妊娠・育児の24時間相談窓口「小さないのちのドア」永原郁子さんが講演しました

命の大切さ、子どもにどう伝える?妊娠・育児の24時間相談窓口「小さないのちのドア」永原郁子さんが講演しました

思いがけない妊娠を防ぐために…「命と性」について「にんしんSOS高知みそのらんぷ」のセミナーから紹介します

命の大切さについて、お子さんにどう伝えていますか?

思いがけない妊娠で悩む人に向けた相談窓口「にんしんSOS高知 みそのらんぷ」のセミナーが開かれ、神戸市の助産師・永原郁子さんが「命と性の大切さ」をテーマに講演しました。

永原さんは妊娠や子育てに悩む人が 24 時間アクセスできる相談窓口「小さないのちのドア」を運営。子どもたちへの性教育も 20 年以上続けています。

「生きることを、大人が子どもに真剣に語る必要がある」と永原さんは語ります。親から子へ伝えておきたいことを、講演から考えました。

 

「にんしんSOS高知 みそのらんぷ」のセミナー「若者に伝えるいのちと性の大切さ~小さないのちのドアの働きを通して~」は 2022 年 8 月 6 日、高知市の市立自由民権記念館で開かれました。講師の永原さんはオンラインで登場しました。

性教育、24時間窓口、生活支援…命を守る活動を続けています

永原さんは 1993 年、神戸市北区にマナ助産院を開業。2000 年に性教育グループ「いのち語り隊」を立ち上げました。

性教育で命の大切さを語りながら、「命を守るには、網の目の細かいセーフティーネットが必要」と考えるようになりました。

2018 年、マナ助産院の一角で「小さないのちのドア」をスタートさせました。「思いがけない妊娠をした」「育てられない」と悩む女性のための相談窓口です。電話、メール、SNS、来所での 24 時間対応は、日本で初めてのことでした。

さらに、2020 年には社会的にハイリスクな妊産婦のための生活支援の場「マタニティホームMusubi(むすび)」を開設しました。子どもたちへの性教育から妊産婦の生活支援まで、女性や赤ちゃんの命を守る活動を続けています。

講師の永原郁子さん。母子保健に携わってきた助産師さんです
講師の永原郁子さん。母子保健に携わってきた助産師さんです

「妊娠しているか心配」「彼と連絡が取れない」…さまざまな相談が寄せられています

「小さないのちのドア」には、開設した 2018 年 9 月から 2022 年 3 月までに 2 万 8558 件の相談が寄せられました。講演では相談内容が紹介されました。

【小さないのちのドアに寄せられた相談】

  • 妊娠しているか心配…消えてしまいたいです
  • 妊娠反応が陽性でした。でも、彼と連絡が取れません
  • 中学生です。妊娠していることをお母さんには言えません
  • 赤ちゃんを産む状況ではないのですが、中絶はしたくありません
  • 妊婦です。職を失って住む家がありません
  • おなかに赤ちゃんがいるのに、毎日 1 食しか食べていません
  • 夫から暴力を受けてはだしで家を出ました。妊娠 14 週です

 

さまざまな相談の中でも、未受診の妊婦や生まれた直後の相談など、緊急性の高い内容があります。永原さんがその割合を紹介しました。

【小さないのちのドア・緊急性のある相談の割合】

  • 妊娠後期で未受診の妊婦からの相談…月に 3.6 人
  • 未受診で陣痛が起こってからの相談… 3.5 カ月に 1 人
  • 未受診で赤ちゃんが生まれた直後の相談…年に 1.7 人
  • 特別養子縁組…月に 1 人

 

相談を受けながら、「 24 時間 SOS を聞くことができてよかったと思うことはいっぱいあります」と永原さん。「思いがけない妊娠や出産で本当に困ってほしくないし、自己実現をしてほしい」という思いで、子どもたちに語り続けています。

性教育は子どもにとって嫌なもの?「生きること」と絡めて話しています

学校などからの性教育の依頼では「命の話をしてください」「性の話をしてください」という内容が多いそうです。「性の延長線上に命があります。命とリンクさせることで効果が上がります」と永原さんは語ります。

そもそも子どもたちにとって、性教育は「嫌なもの」というイメージ。「恥ずかしい」「聞きづらい」と感じるそうです。

「自分の体の中で、命のもとが赤ちゃんになる」、2 次性徴は「大人になるための準備で、それは生きるということにつながる」という話をしていくと、「性の話を『恥ずかしい』と言っている場合じゃない、となりますね」。

講演では中絶についての説明もありました
講演では中絶についての説明もありました

性教育では、性の問題として性感染症や思いがけない妊娠、人工妊娠中絶について触れることがあります。永原さんは「脅しでは子どもの行動変容はない」と語ります。事実は淡々と伝えています。

さらに、「聞いていてつらい思いをする人が一人もいない性教育」が大前提。例えば「異性を好きになる」という説明では、「多くの人が異性を好きになる」と言い換え、LGBTQの子どもたちに配慮しています。

誕生時の話から、子どもの自己肯定感を高めていきます

子どもたちに性と命の大切さをどう伝えていくのでしょうか。永原さんは次の七つの項目を中心に、子どもの発達段階に応じて話を構成しています。

【子どもたちに性と命の大切さをどう伝えるか】

  • 誕生の喜びを伝える
  • 思春期を支える
  • 愛すること
  • セックスについて
  • 受精の神秘と驚くべき胎児の成長、能力
  • 性感染症と人工妊娠中絶
  • 生きること

 

講演では、実際に性教育で語っている内容に触れながら、大人から子どもに伝えたいことを紹介していきました。

誕生時の話は子どもの自己肯定感を高めていくことにつながるそうです。

「へその緒のついた赤ちゃんの写真を見せて、『おへそは今は役に立っていないけれど、生まれる前は一番大切だったんだよ』と話します。胎盤、へその緒、子宮、羊水、赤ちゃんの通り道を説明し、『お母さんから必要なものを全部もらって、赤ちゃんは大きくなるんだよ。あなたのために…という愛をお母さんからもらってるんだよ』と話しています」

生まれたばかりの赤ちゃんの写真。へその緒から自己肯定感へ、話が進みます
生まれたばかりの赤ちゃんの写真。へその緒から自己肯定感へ、話が進みます

赤ちゃんが誕生する際には、自然分娩と帝王切開があるという話もしています。ある時、小学 4 年の男の子が授業でこんな質問をしました。

「僕は帝王切開で生まれました。なぜ?」

男の子は仁王立ちしていました。「理由として考えられることを医学的に説明はできますが、彼が聞きたいのはそうではないと感じました」と永原さん。こう答えました。

「赤ちゃんは一番いい方法で生まれてきます。帝王切開で生まれたということは、『僕は産道を通らない方がいいよ』とあなたがお母さんにサインを出したからだよ。素晴らしいことだね」

男の子は笑顔で、席に座りました。「帝王切開に対して『子どもが産道を通らずに生まれたから、我慢強くない』などという声ががいまだにあります。傷ついているお母さんもたくさんいます。否定的な考え方も変えていきたいです」

「命を大切にする」とは?自立を支えていきましょう

10 代の中絶について、永原さんはある女の子からの相談を紹介しました。

「親から強制的に中絶させられました。自殺したいです」

「赤ちゃんを見るとつらい」「眠れない」「こんなにしんどい思いをするなんて知らなかった」「中絶したことを友達に言ったら、人殺しと言われた」…「小さないのちのドア」にはさまざまな声が寄せられています。

10 代の妊娠では中絶を選ぶ場合が少なくありません。「大人は中絶したら元に戻れると思っていますが、子どもたちは本当に傷つきます。こういう経験を子どもたちにさせたくないし、中絶した子がつらい思いをしないようにもしていきたいですよね」

子どもたちには「赤ちゃんは簡単にできてはいけないんだよ」と伝えています。

【赤ちゃんを迎えるために必要なこと】

  • 収入があること…肌着、おむつ、ベビーカーなど育てるにはお金がかかるよね
  • 赤ちゃんを迎える家、部屋があること
  • 赤ちゃんを迎える心の準備ができていること…ママだけじゃなく、パパもだよ
  • あなたがしっかりと自立していること
  • ベストパートナーに出会うこと

 

「セックスはいけないことではなく、愛し合う男女にとって素晴らしいものです。でも、時期を間違えると負の部分があります。新しい命を生み出す可能性があるということは伝えないといけません」

講演では人を愛することについても考えました。「男性の性衝動、女性の孤独解消を『愛』と錯覚しないで」
講演では人を愛することについても考えました。「男性の性衝動、女性の孤独解消を『愛』と錯覚しないで」

思春期になり、異性を好きになると、自然と性にも興味がわいてきます。永原さんは「『何で付き合ってるのにセックスせえへんの?』と友達が言っていたら、『赤ちゃんできたらどうするの?考えようよ』と言える人になってほしい」と子どもたちに語り掛けています。

「誕生から自立までの期間よりも、自立してからの人生の方が長いですよね。子どもがどのように自立するか、どのようなパートナーを選ぶかで人生の幸せ度は変わります。自立する前に妊娠すると、その後の自立がうまくいかない場合もあります」

「命を大切にするということは、自分の使命を見つけること。人を愛するということは、自分の気持ちや衝動を抑えて、その人を心から大切にできるということです。『自分を愛してくれる人にいつの日か巡り会えるよ』『その日まで自分磨きをしていこうね』と伝えてあげてください」

 

講演ではOECD(経済協力開発機構)が 186 カ国の中学生に行った調査が紹介されました。「親や先生を尊敬していますか?」という質問で「はい」と答えた割合が、日本では 25.2 %。50 %を切ったのは日本だけだったそうです。

「親や先生を尊敬できないということは、将来に希望が持てていないということなんです」と永原さんは話していました。子どもに命の大切さを伝え、自己肯定感を育みながら、生きる土台をつくっていく。親としての大切な役割を再認識したセミナーでした。

 

 

セミナーを主催した「にんしんSOS高知 みそのらんぷ」は、思いがけなく妊娠し、戸惑い、悩んでいる人に向けた相談窓口です。乳児院の高知聖園(みその)ベビーホーム(高知市新本町 1 丁目)が運営し、電話とメールで相談に対応しています。

にんしんSOS高知 みそのらんぷ

  • 運営:社会福祉法人みその児童福祉会 高知聖園ベビーホーム(高知県高知市新本町 1 丁目 7-30 )
  • 電話:0120-620-331(毎日 8:30~20:00 )
  • メール:misonolampsos@gaea.ocn.ne.jp( 24 時間以内に返信します)
  • 無料で相談できます
  • 匿名でも大丈夫です

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 2 と年中児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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