「スクールセクハラ」を知っていますか?|学校で起こる性被害…わが子がもし遭ってしまったら。親が知っておきたい対応を紹介します
NPO法人「SSHP全国ネットワーク」の代表・亀井明子さんが児童生徒への性暴力、スクールセクハラの実態を語りました
「スクールセクハラ」を知っていますか?
学校で起きる性被害のこと。先生から子どもへのわいせつ行為やセクハラがたびたび報道されています。子ども間での性被害も起きています。
子どもへの性暴力の実態と支援を考える講演会が高知市で開かれ、スクールセクハラの問題に取り組むNPO法人「SSHP(スクール・セクシュアル・ハラスメント防止)全国ネットワーク」の代表・亀井明子さんが登壇。県内の支援者らも意見交換しました。
わが子がもし性被害に遭ってしまったら…。考えたくはないですが、親が知っておきたいことを紹介します。
目次
ココハレ編集部が取材したのは、NPO法人「こうち被害者支援センター」が主催した「犯罪被害者週間講演会」。2024 年 10 月 29 日に高知市本町 5 丁目の高知会館で開かれました。
講師に招かれたのは亀井明子さん。体育教諭として大阪市内の中学校に勤務していた 1995 年、スクールセクハラに直面しました。
1998 年にSSHP(スクール・セクシュアル・ハラスメント防止)全国ネットワークを立ち上げ、スクールセクハラの被害者支援と防止・啓発に取り組んでいます。
初めて直面したスクール・セクハラ。支援に動き、孤立しました
スクールセクハラは次のように定義されています。
相手の意に反した、性的な性質の言動を行い、就労上または就学上の不利益を与えたり、またはそれを繰り返すことによって職場環境・教育環境を著しく悪化させること
小学校、中学校、高校、大学、専門学校などの教育機関で行われるセクシュアル・ハラスメントがスクールセクハラで、性暴力も含まれます。園や塾、スポーツクラブなどの習い事で起きるものも含まれます。
亀井さんは「子ども」「相手の意に反する」がキーワードだと語りました。
亀井さんが初めて、スクールセクハラに直面したのは 1995 年 12 月。勤務していた学校で、先生から生徒へのセクハラ被害について相談を受けました。
「明日は終業式という日で、冬休みどころではなくなりました。校長は受け止めてくれると思って伝えましたが、『うーん』と腕を組み、言葉を発しませんでした」
年が明け、3 学期の始業式。朝の職員朝礼で、亀井さんは衝撃を受けました。
「教頭が私の名前を出し、『仲間である先生を売ろうとした』と話しました。加害者の教員はごみ缶を思い切り蹴飛ばした。すごく怖くて、一緒に校長に直談判してくれた先生たちも離れていきました」
亀井さんは孤立し、学校に出勤できなくなりました。
「正門まで行くけど、入れない。子どもの不登校ってこういうことかと思いました」
その後、被害に遭った生徒やその保護者は何とか支援できましたが、加害教員はうやむやのまま、転勤することに。
「他の生徒たちは事情を知りませんので、離任式では加害教員の功績が語られ、花束も渡されました。その場には被害を受けた生徒もいるのに。被害者の 1 人はその場で座り込みました。スクールセクハラはひとたび起こると、大変な事態になると知りました」
スクールセクハラを受け、学校に行けなくなった子ども、被害を思い出して苦しむ子ども、思い描いていた進路を諦めざるを得なかった子どもがいます。
先生は子どもを守る立場なのに…なぜ繰り返される?
教員から子どもへの性暴力やセクハラは後を絶ちません。2022 年度の文部科学省の調査では、性暴力や性犯罪などを理由に懲戒処分や訓告を受けた教員は 242 人。このうち、児童生徒に対する行為は 119 人だったと報告されています。
学校以外の場所でも、塾講師や保育士らによる性暴力が起き、報道もされています。
重大な人権侵害行為であるセクハラが、子どもを守る立場の先生によってなぜ繰り返されるのでしょうか。被害者支援を長く続けてきた亀井さんは次の点を挙げました。
- 教師が「指導」という名のもとに強い力を持つ学校だから起きる
- 保身による隠ぺい体質が次の事件を生む…「なかったことにしよう」となる
- 同僚の様子がおかしいと気づいても、傍観者になってしまう
- 「一部の不心得者の行為」「どこの組織にもそういう人間はいる」と捉えられている
「保身」の例として語られたのが広島県内の小学校で起きた事件。加害教員が問題を起こすたびに職場を異動したため、被害者が増えました。最初の小学校で同僚が気づきましたが、校長から加害教員に伝えられたのは「誤解されるようなことをするな」だったそうです。
「何のために先生になったのでしょうか。まだまだ伸びていこうとする子どもの芽を、教師が摘んでいいのでしょうか」
「スクールセクハラが起きた時、校長がどう受け止めるかで変わります。管理職、トップの責任はとても重いという自覚を持ってほしいと思います」
「男の子は性被害に遭わない」は間違い。子ども同士でも起きています
セクハラと聞くと、「被害者は女性」という印象がありますが、男性も被害を受けています。
ある時、亀井さんのもとに男性から電話がありました。
「男性は『息子が小学校で先生にこんなことをされたって言うんです。ありえないでしょ?』と話しました。『子どもさんの話を信じて、聞いてあげて』と伝えると、男性は電話口で号泣しました」
その後、男性は息子のために動き、加害教員は懲戒免職となりました。
「加害者が懲戒免職となっても、裁判で勝訴しても、解決しないのが性暴力。時間がたつほどに、フラッシュバックが起き、本人や家族は苦しみます」
子ども間でもスクールセクハラは起きています。
「ある学校の運動部で、子ども同士で相手のジャージをずらす行為が行われました。やられた子は、自分より弱い子のジャージをずらした。ずらされた子はさらに弱い子へと続き、ある男の子の性器が見えました。一瞬の沈黙後、その場は『わーっ!』となりました」
一昔前なら「悪ふざけ」で片付けられたであろう出来事。2 週間後、その男の子は自死したそうです。
「密室に子どもを呼び、手を握り、髪の毛を触り…と聞いて、『それだけ?』と受け止める人もいます。子どもたちにはプライベートゾーンの大切さが教えられていますが、大切なのはそれだけじゃない。私の体は私のもの。髪の毛 1 本たりとも、他の人が勝手に触れてはいけないんです」
スクールセクハラで知っておきたい「初動対応」
講演会では、高知県内で被害者支援に取り組む 4 人がパネルディスカッションを行いました。登壇者はこちら。
- 殿村健さん…県警生活安全部少年課・課長補佐
- 佐々木美紀さん…県警生活安全部少年課・少年サポートセンター副所長
- 中島香織さん…弁護士。高知弁護士会犯罪被害者支援委員会
- 齋藤慶子さん…こうち被害者支援センター・犯罪被害相談員
齋藤さんによると、こうち被害者支援センターが 2019 年 4 月~ 2024 年 9 月に支援した子どもへの性被害は 54 件。電話相談や面接相談のみで終了した件数は含まれていません。
加害者は友人、知人、交際相手のほか、教育者もいました。センターにつながらないケースも考えられ、「実際にはより多くの被害が高知県内でも起きている」とのことです。
子どもが被害が受けた場合、近くにいる大人である保護者や先生が対応する場合が多いとのこと。その「初動対応」で知っておきたいポイントがこちら。
「オープン質問」をする
性被害の多くは密室で行われ、目撃者がいません。このため、被害者の証言が大事になります。
人の記憶はどんどん薄れ、時には書き換えられることもあるため、「事件にするなら、本人から話を聞くのは極力控えてほしい」と殿村さん。
話を聞く場合は、質問者が余計な情報を与えないようにします。被害者に質問をする場合は、「はい」「いいえ」で応えられる「クローズ質問」ではなく、本人から発言を引き出す「オープン質問」をしていきます。
×クローズ質問…「犯人は車で逃げたの?」(記憶が書き換えられるおそれがあるため)
○オープン質問…「犯人はどうやって逃げたの?」
被害について詳しく聞き出すことで、子どもをさらに傷つけてしまう恐れがあります。早く専門家につなげましょう。
「誰にも言わないで」に同意しない
性被害を打ち明ける際、子どもが「誰にも言わないで」と頼んでくる場合があります。
スクールセクハラの場合、安心、安全であるはずの学校で信頼していた先生から被害を受けるため、「大人への信頼がなくなっている」と佐々木さんは語ります。
子どもは「この人なら話を聞いてくれる」と考えて、信頼します。だからこそ、「誰にも言わないから話して」と返すべきではないそう。
「大人への信頼をこれ以上損なわないために、『できない約束はしない』『子どもに誠実に向き合う』を大事にしてほしい」と佐々木さん。
「あなたのことを守りたいから、必要なことは周りの大人に伝えるからね」と返し、話を聞いた後は「話してくれてありがとう」と伝えましょう。
深刻な2次被害…根拠のないうわさには乗らないで
性被害では、被害者はその後の 2 次被害にも苦しめられます。齋藤さんは「 2 次被害は決して『 2 次』ではない。『 1 次被害よりきつかった』と話す被害者は多い」と語りました。
スクールセクハラの 2 次被害は主に二つあります。
- 加害教諭やその取り巻きが意図的に流す…保身のため。「被害生徒が誘った」「先生は反省している」「先生には妻も子もいる」など
- 周囲がうわさに乗って広める…「先生がそんなことするはずがない」「あなたのせいで先生がいなくなった」
周囲の人は、性被害について聞いた時に「被害者に落ち度があれば、すっきり理解できる」と判断してしまうことがあるそうです。「うそなんでしょ?」「先生がかわいそうだから撤回して」と被害生徒に迫る大人もいます。
齋藤さんは「先生が 2 次被害を与えてしまうこともある。根拠のないことは流布しないでほしい」と訴えました。
家庭を安全基地に…被害の話はしないでください
わが子が性被害を受けた場合、保護者は自分自身を責めます。「どうして気づいてあげられなかったのか」と考え、怒りがわいたり、涙が出たり、精神的につらい状態になります。
保護者がつらくなると、子どもはさらにつらくなります。
「おうちの中を安全基地にしてほしい」と中島さん。「家庭では被害の話をしないでください。親御さんがつらくなった時には抱え込まず、被害者支援センターにぜひ連絡してください」
パネルディスカッションで 4 人が繰り返し訴えたのがこちらの言葉でした。
「悪いのは加害者です」「被害を受けた子どもも、その家族も悪くありません」
「子どもの話を信じてあげてください」
中島さんは「今の世界は『こんなことなら言わなきゃよかった』という思いを子どもに味わわせ過ぎ」とも語りました。
楽しい生活が送れるはずだった学校で、信じていた先生から裏切られ、傷つけられるスクールセクハラ。身近で起きた時の対応を覚えておくとともに、苦しんでいる子どもたちがいることも知っておかねばと思いました。
性被害に遭った時は…24時間対応の相談窓口「CORAL CALL」があります
こうち被害者センターでは犯罪や事故の被害に遭った人やその家族を支援しています。
高知県には「性暴力被害者サポートセンターこうち」という仕組みがあり、こうち被害者センターと県、県警、県産婦人科医会が協定を結んでいます。
「CORAL CALL(コーラル・コール)」という無料の相談窓口が設けられています。24 時間対応です。
性暴力を受けた被害者が 2 次被害を受けずに 1 カ所で法的、医学的、心理学的、社会的支援を受けられるワンストップ支援センターです。
病院、警察、裁判所などへの付き添いや、医療費の助成を受けられる場合があります。専門的な研修を受けた相談員・支援員が対応します。
- 相談電話「CORAL CALL(コーラル・コール)」…フリーダイヤル 0120-835-350。24 時間対応です。月~土曜 9:00~17:00 は性暴力被害者サポートセンターこうちの支援員が対応します。秘密は守られます。