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【つむサポ講座】「発達って面白い」と思えていますか?|「移動」から、病気や障害のある子どもへの支援を考えました

【つむサポ講座】「発達って面白い」と思えていますか?|「移動」から、病気や障害のある子どもへの支援を考えました

高知の新しい子育て支援「みんなでつむサポ」から、「スマイル・サポートこうち」の第5回講座を紹介します

高知県の子育て支援「みんなでつむサポ」。2022 年度も県内各地で「つむサポ講座」が開かれています。

「Smile Support Kochi(スマイル・サポートこうち)」は「心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座」を 5 回シリーズで開催しました。5 回目は「移動する」をテーマに考えました。

小学 6 年の中越菫太君は現在、電動車いすで登校しています。「自分で操作して登校できるのでは」と提案したのは菫太君自身でした。

菫太君の母・文枝さんは「発達って面白い」と感じています。菫太君と文枝さんの気持ちを変えたこれまでの支援を振り返ります。

 

スマイル・サポートこうちは、病気や障害のある子どもを育てる家族のサークルです。つむサポ講座「心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座」は、体からのメッセージをテーマにした 5 回連続のオンライン講座です。

【心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座】

講師は、訪問看護ステーション「おたすけまん」(高知市)の理学療法士・川上英里さん。「ボバース概念」というリハビリのアプローチ方法を用いて、患者の要望を取り入れながら、姿勢や動きを改善させています。

また、先天性の筋疾患で医療的ケアを受けている小学 6 年生・中越菫太(ぎんた)君の母・文枝さんがトークセッションパートナーとして参加しています。

理学療法士の川上英里さん(左)と中越文枝さん
理学療法士の川上英里さん(左)と中越文枝さん

最終回の第 5 回は「移動する」をテーマに考えました。

「リハビリ」って何のためにするもの?

菫太君は筋肉の病気のため、生まれてすぐに人工呼吸器を着けました。第 4 回で中越さんが紹介したように「体がだらっとゆるんで、操り人形みたいな状態」。低緊張の状態で、寝たきりで過ごしてきました。

2歳4カ月頃の菫太君
2歳4カ月頃の菫太君

川上さんと出会う前の中越さんは「リハビリって、何に向かってするんだろう」と感じていました。

「私には『生後 3~4 カ月で首が据わる』『 8 カ月頃からハイハイする』といった定型発達の知識しかなかったですし、菫太も定型発達に向かわないといけないと、とらわれていました」

中越さんにとって、リハビリの意味や目標が見いだせない日々が続きました
中越さんにとって、リハビリの意味や目標が見いだせない日々が続きました

川上さんと出会ったのは菫太君が 2 歳 4 カ月の頃。リハビリを嫌がって泣く菫太君と、リハビリの意味をきちんと伝えられていなかった中越さんに「菫太君はもっといろんな感覚を探索していける」と提案します。

川上さんと二人三脚で歩み始めた当時を笑顔で振り返ります
川上さんと二人三脚で歩み始めた当時を笑顔で振り返ります

当時、こんなやりとりがありました。川上さんの前で、中越さんは菫太君を座らせました。

川上さん:手!菫太君、手が育ってないですよ

中越さん:手?手ですか?(座るのに、手が関係ある…?!)

動きたいのに動けない…ストレスになります

川上さんがリハビリで大事にしているのが「抗重力性欲求」です。全ての子どもは赤ちゃんの頃から「自分で起きたい」「自分で動きたい」と望んでいます。障害の重い子どもも同じです。

欲求が満たされないと、赤ちゃんは泣いて訴えます。親は困惑し、冷静に子どもを見られなくなり、赤ちゃんが余計に緊張するという負のスパイラルに陥ります。

「二足直立に進化したヒトには『空間への動きの欲求』があります。動きたいのに動けない。歩きたいのに歩けないと、そのストレスから、興奮や過緊張が起こります」

『起きたい』『立ちたい』『動きたい』という願いを、子どもの発達を見ながらかなえていくのが、私たちセラピストの役割です」

子どもが感じていることを、親や支援者に伝えます

子どもの願いをかなえるために、理学療法士さんは具体的にどんな支援をしていくのでしょうか。

菫太君のリハビリでは、菫太君の筋肉や動きを見ながら、そこから感じ取った菫太君の気持ちや、一つ一つのリハビリを行う意味を中越さんに伝えていきました。

「こうしたら、手の動きが変わるんじゃない?」「こうしたら、体幹がしっかりするんじゃない?」

具体的なやり取りと並行して、川上さんは中越さんにこう伝えました。

「菫太君はヒトとして発達したがっているんですよ」

第3回講座より、手のリハビリの様子
第3回講座より、手のリハビリの様子

この言葉で、中越さんのリハビリに対する思いが変化しました。

「それまでは、定型発達の子と比べて、『あれができない』『これができない』と菫太の発達をネガティブに捉えていました。表面でしか見えていなかったものの奥が見え、『発達って面白いな』と思えるようになりました

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士。セラピストはそれぞれの専門領域での知識や経験を踏まえ、目の前の子どもが感じていることを親や支援者に伝えています。

セラピストが子どもの思いをキャッチし、親や支援者に伝えていく。子どもは思いを表出することを受け入れる。三者がつながることで、リハビリは「子どもの願いをかなえるためのリハビリ」になるんですね。

寝たきりだった菫太君、「移動する」という願いをどうかなえた?

ヒトは生まれてから亡くなるまで、発達し続けると言われています。川上さんは「目的行動を達成するたびに機能を高めていく」と語り、赤ちゃんのミルクで説明しました。

「ミルクが飲みたい」という意思を泣いて訴える→哺乳瓶でミルクを飲む

「コップで飲みたい」という気持ちになる→コップで飲ませてもらう

「自分でコップを持って飲みたい」という気持ちになる→コップを用意してもらい、助けてもらいながら自分で飲む→手が発達し、ミルクをこぼしながらも自分で飲み始める→唇や舌、下顎を使ってこぼさずに飲めるようになる

菫太君の「移動」も、赤ちゃんのミルクのように少しずつ過程を経て、電動車いすの操作に到達しました。

1 歳前から座位保持装置を使って、「座る」という動きに慣れていきました。

転機は 3 歳で参加した福祉機器展。電動モーターを装着したバギーを操作し、「自分で動く」ということを初めて体験しました。表情がきらっと変わったそうです。

3歳で参加した福祉機器展。「移動する」の初体験です
3歳で参加した福祉機器展。「移動する」の初体験です

菫太君をずっと担当してきた作業療法士さんが工夫を凝らし、専用の肘置きを使って電動車いすにチャレンジしたのが 4 歳の頃。

ショッピングセンター内を電動車いすで回りました。

ショッピングセンター内を初めて、自分の意思で探索する菫太君。向かった先は…?
ショッピングセンター内を初めて、自分の意思で探索する菫太君。向かった先は…?

菫太君は大好きなおもちゃ売り場に直行すると思いきや、向かった先は何と紳士服売り場!「そんなのに興味あったんだ!本人の表現を感じた瞬間でした」と中越さん。

川上さんも「『呼吸が苦しくても、自分が行きたい所に行きたい!』『そこに向かいたいんだ!』という意思を感じました」と笑顔で振り返りました。

中越さんはこれまでずっと、菫太君が乗ったバギーを後ろから押してきました。この日は、親子で初めて並んで歩いた日にもなりました。

親子で並んで歩く。中越さんにとっても、初めての体験でした
親子で並んで歩く。中越さんにとっても、初めての体験でした

菫太君が本格的に電動車いすを使い始めたのは小学校入学のタイミングでした。

菫太君の体の状態で電動車いすを導入するのは、難しいことだったそうです。菫太君本人、中越さん、川上さんら支援者が力を合わせて実現させました。

移動は、コミュニケーションを助ける手段にもなります
移動は、コミュニケーションを助ける手段にもなります

自分で移動することは、主体的な学習活動や、同級生や先生とのコミュニケーションを助ける手段にもなり、菫太君の学校生活を豊かにしました。

「自分で通学できるんじゃないかな?」
「自分で通学できるんじゃないかな?」

校内のみだった移動について、「通学もいけるんじゃないかな」と提案したのは菫太君自身でした。

菫太君の思いを専門家がそれぞれの方法でキャッチし、みんなで考えながら地道に取り組んできた成果が実を結びました。

子どもの訴えを受け取りながら関わることを、当たり前に

第 5 回講座では、菫太君のおなかや顔のリハビリを川上さんが実演しました。菫太君の体に触れ、「ここは痛くない?」「硬くない?」と尋ね、反応を見ながら進めていきます。

リハビリは「純粋同調」と「相互誘導」なのだそうです。体の機能を回復させたり、高めていくだけが目的ではないのだと伝わってきました。

講座ではリハビリの様子も紹介しました
講座ではリハビリの様子も紹介しました

川上さんは最後に、こんな話をしました。

「感覚は見えてきます。見えないものを見るのがプロフェッショナルです」

病気や障害によって、思うように動けない子どもたち、自分の気持ちを言葉で訴えることができない子どもたちがいます。誰もが理解できる形で表現はされていないけれど、訴えたい気持ち――。それを受け取り、周囲に伝え、生活しやすい心と体を育んでいくのが川上さんたちの仕事です。

今を生きることが、成長につながります
今を生きることが、成長につながります

参加者からは「子どもの訴えを受け取って関わっていくことを当たり前にしていきたい」という感想が寄せられました。

「心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座」は病気や障害のある子どもへの支援を考える講座でしたが、子育て全般に通じるメッセージがたくさん発信されました。

病気や障害の有無にかかわらず、全ての子どもに対して、私たち大人が子どもの状態や気持ちを把握し、子どもの思いをかなえるために関わっていくことが、子どもたちの笑顔につながっていくのだと思います。

 

 

「心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座」の記事はこちら

病気や障害のある子どもの生きる力を育むには?「重力」から考えました

体の「バランス」はどう取っている?病気や障害のある子どもの関わり、支援から考えました

「手」がうまく使えるようになるには?|赤ちゃんの発達から、病気や障害のある子どもへの支援を考えました

「座る」という動作、意識していますか?おなかを使っていますか?|病気や障害のある子どもへの支援を考えました

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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