「産後クライシス」を上手に回避するには?夫婦のすれ違いを埋めるには?|産前産後に知っておきたい「子育てのパートナーシップ」を紹介します
産後、生活はどう変わる?すれ違いの解消は今からでも遅くない!「いのち育みサポート はぐあす」で開かれた高知銀行のセミナーに密着しました
皆さん、毎日の子育てや家事は順調でしょうか。パートナーとのすれ違いはないでしょうか。
産後は赤ちゃん中心の生活になります。夫婦の愛情が冷え込む「産後クライシス」を上手に回避するには、産後の生活や女性の心身の変化を知っておくことが大事だそうです。
高知市の女性のためのケア拠点「いのち育みサポート はぐあす」で、子育てのパートナーシップを考える高知銀行のセミナーが開かれ、ココハレ編集部員が密着しました。
今からでも遅くない、パートナーとのすれ違い解消法をご紹介します。
目次
企業も子育て支援!高知銀行では育児セミナーを開いています
高知銀行は仕事と子育ての両立支援に取り組む企業として、厚生労働省の「プラチナくるみん」に認定されています。育児支援のための柔軟な勤務体系や、結婚や育児で退職した行員が復職できる「キャリアリターン制度」などを導入しています。
2012 年からは行員や家族を対象に「育児セミナー」を続けています。今回は 2023 年 2 月 18 日、高知市朝倉甲の「いのち育みサポート はぐあす」で開かれました。
妊娠中の人、産後間もない人も対象にしたセミナーは初めてだそう。赤ちゃんを連れた夫婦のほか、「単身赴任中で平日は家にいないので、今日は妻に 1 人でゆっくりしてほしい」と子どもを 2 人連れて参加したお父さんもいました。
参加者を前に、藤原さんはこう投げ掛けました。「産後クライシスを知っていますか?」
参加者は「聞いたことはあるけど…」という反応。定義はこちらです。2012 年にNHKで特集され、話題になりました。
産後クライシスについて、藤原さんはある調査を紹介しました。質問は「配偶者を『愛している』と実感していますか?」。
妊娠期には男女ともに 7 割が「愛している」と回答しましたが、出産後は徐々に減少。子どもが 2 歳の時には、夫は 5 割、妻は 3 割だったそうです。男女差がありますね。
パートナーに対する女性の愛情曲線は、出産後に一度下がります。男性も下がるそうで、「男女ともに子どもに愛情が行くから」というのが理由です。
その後、女性は「回復グループ」と「低迷グループ」に分かれるそうです。
「夫への愛情は『夫婦で子育てした』と実感できたら、回復します。反対に、夫が家にいるのに『ワンオペ育児だ』と感じた場合は低迷したままです」
「夫婦で一緒に子育てをしている」と実感していますか?
男女の意識の差は、はぐあすのアンケートからも伺えます。
「夫婦で一緒に子育てをしているという感覚は、今ありますか?」という質問に「はい」と答えた割合は、男性が 92.9 %、女性は 60.9 %。「どちらともいえない」という女性は 32.8 %でした。
具体的に、どこに不満があるのでしょうか。お互いのトップ 3 がこちら。
【妻が回答「産後の夫に対しての不満で、当てはまることは?」】
- 夫が自分ペースの生活を変えない
- 夫が言わないと動いてくれない
- 自分の時間が持てない
【夫が回答「産後の妻に対しての不満で、当てはまることは?」】
- 妻がよく不機嫌になる
- 妻に何をしてあげたらいいか分からない
- 妻の言葉に傷つく
「妻は夫に『もっと分かってほしい、察してほしい』と感じていて、夫は妻に『もっと具体的に言ってほしい』と感じています」と藤原さん。
こういったすれ違いには、本能的な男女の違いも影響しているそうです。
「女性は他愛のない話をするのが好きだし、話が長いですよね。男性は結果や結論を求めがちなので、『で、何が言いたいの?』『結論は何?』と言ってしまいます」
取材をしているココハレ編集部員にも身に覚えが…。
お母さんの産後の変化は劇的!お父さんは戸惑いの日々
産後クライシスに陥らないために、藤原さんが紹介したのが次の三つです。
【産後クライシスに陥らないためにできること】
- 男女ともに、産後の女性の心身の変化を知る
- 男女のすれ違いパターンを知る
- 男女協働できるコツを知る
産後、女性に訪れる変化は劇的です。
【産後の女性の変化】
- 身体的変化…胎盤が出た後は内臓損傷と同じことが子宮内で起こっています。無理をすると、慢性的な不調の原因になります
- 精神的変化…ホルモンの変化で不安定になります。イライラしたり、わけもなく涙が出たりします。誰にでも起こり得ます
- 時間的変化…完全に赤ちゃんペースの生活になります。寝不足に悩まされます
- 社会的変化…出産したら赤ちゃんが主人公になります。人間関係の変化や、収入・仕事復帰への不安も抱きます
ちょっとしたことに腹を立てたり、「私ってなんて駄目な母親なんだろう」と落ち込んだり…。寝不足で正常な判断ができていなかった日々を、ココハレ編集部員も思い出しました。
最近は母親だけでなく、父親の産後うつも問題になっています。
「初めての育児に戸惑うのはお父さんも同じ。出産後の妻の変化にどう対応していいか分からず、悩んでいます」と藤原さん。
お母さんに比べると、お父さんの育児の悩みを聞いてもらえる場や、交流の場が少ないのが現状です。
夫婦のすれ違いを防ぐために…NGワードを知り、怒りのポイントカードをリセットしましょう
子育ての仕方は、親になるまで教えてもらう機会がありません。お母さんは産後の入院期間に授乳や沐浴(もくよく)を教わりますが、十分ではありません。お父さんはセミナーを自ら受講しないと、教わる機会はゼロ。
藤原さんは子育てを自転車の練習に例えて、こう紹介しました。
「入院中は補助輪を付けて練習できます。何かあったら、スタッフに助けてもらえます。でも、退院したとたん、補助輪なしの自転車に 1 人で乗らないといけません」
「うまく乗れなくて、何度も転んで、『自転車に乗るのをワクワクして待っていたのに、もう嫌だ…』となってしまいます」
赤ちゃんが生まれると男女ともに大変ですが、何とか乗り切っていきたい!男女のすれ違いを防ぐために見直したい一つが、何げない一言です。
例えば、家事や育児をしようと考えた夫が妻に向かって言う「何かすることある?」。言った側と言われた側で、言葉の印象が全く違います。
【夫から妻へ、「何かすることある?」】
- 男性の気持ち…時間ができた!何をしていいか分からないので教えて!(悪気なし)
- 女性の気持ち…私に聞かないで自分で考えて動いて!当事者意識が全くない!(怒り)
この場合は「何かできることある?」と聞くと、受け取る女性も印象がだいぶ変わります。
「仕事で疲れて帰ってきたら、妻も疲れ切っていて家の中もぐちゃぐちゃということはよくあります。育児や家事を軽視せず、『お互い、今日もお疲れさま』『今日も一日大変だったんだね、ベビーのお風呂入れようか』と声を掛けてください。『ずっと家にいるんだから片付けぐらいしとけよ』とか『何か手伝うことない?』は禁句です」
「あんまり無理しなくていいよ」も実は禁句です。「妻は『無理しないで、どうやって家事や育児を回すのよ!』となっちゃいます」
女性側は「察してほしい」という気持ちを抱きたいところを抑え、自分の気持ちや夫にやってもらいたいことを具体的に伝えます。
「『私のしんどさなんてどうせ分かってくれないんでしょ!』よりも、『あなたも遅くまでお仕事大変だったね。でも、私も今日は赤ちゃんが寝てくれなくて大変だったの』と伝えた方が、男性には伝わります」
加えて、気を付けたいのが不満をためこまないこと。不満はポイントカードのようにたまっていきます。
「私も数カ月でポイントをいっぱいにしては、爆発していました。不満はためないように、不満がたまってきたら妻は伝える努力、夫は分かる努力をしてリセットしてくださいね」
「名もなき家事」に気付いていますか?夫婦で家事を因数分解してみましょう
男女協働を目指すためにやってみたいのが「家事の因数分解」です。「掃除」「洗濯」など日々の家事の行程を細かく見直していきます。
「ごみ出し」がこちら。
【ごみ出しの因数分解】
- ごみの日を覚えておく
- 室内のごみ箱を回り、ごみを袋に入れていく
- ごみ箱に新しいごみ袋を装着する
- ごみを捨てに行く
一言で片付けられる家事には、たくさんの行程があるとあらためて気付かされます。「『ごみを出してるから、自分は家事をやっている』となるでしょうか。『名もなき家事』がたくさんあります」と藤原さん。
「家事を因数分解して、夫婦ですり合わせて、6 割できたらOK」だそう。完璧を目指して疲れる、追い詰められてしまうのを防ぎましょう。
「家族の始まり」を企業、社会で支える仕組みが求められています
セミナー終了後、赤ちゃんを抱っこしていたお父さんは「産後の男女のすれ違いは思い当たることばかりでした」。妊婦さんは「産後の心身の変化を産む前に知れてよかった。夫に話してみます」と感想を話していました。
はぐあすは女性のためのケア拠点として、産後ケア事業に取り組んでいます。産後ケアには通所(日帰り)型と宿泊型があり、「ママが心身を充電している間に、パパも休息したり、仕事に集中してほしい」と呼び掛けています。
藤原さんはさらに、「お父さんの支援にも力を入れていきたい」と話していました。お父さんとお母さんを対象にしたセミナー「産前産後はぐあすくらぶ」では、赤ちゃんとの生活をイメージできるように、抱っこやおむつ交換の練習をしています。
「家族は社会の核。家族の始まりを支援することで健全な家族が増え、健康に働き続けられる男女が増えていきます。子育て中の男女を支える取り組みが、高知県内の企業にも広まってほしいと思っています」
「産後クライシス」は産後から子どもが 2 歳になるぐらいまでとされていますが、子育てはその後も続きます。
「子育ては大変だけど、楽しい」と感じられるように、わが子に笑顔で向き合えるように、男女の違いを受け入れ、その家庭に合った「子育てのパートナーシップ」を考えていきたいと感じたセミナーでした。