子育て
アイコン:子育て

しんどい思いを話し、気持ちを整理しませんか?|土居寿美子さんコラム「こころのとびら」⑤

しんどい思いを話し、気持ちを整理しませんか?|土居寿美子さんコラム「こころのとびら」⑤

利用者の気持ちに寄り添う支援を。高知市の地域子育て支援センター「いるかひろば」理事長、土居寿美子さんのコラムです

わが子との毎日。穏やかに、楽しく過ぎる日もあれば、うまくいかず、イライラしてしまう日もありますね。子育てで困った時、悩んだ時、相談に乗ってくれるのが地域子育て支援センターです。

ココハレのコラム「こころのとびら」では、高知市の地域子育て支援センター「いるかひろば」を運営する特定非営利活動法人の理事長、土居寿美子さんが執筆を担当します。土居さんはいるかひろばで 10 年以上にわたり、たくさんの親子に寄り添ってきました。「ご飯を食べてくれない」「おむつが外れない」「また怒り過ぎてしまった」…。そんな悩みを打ち明ける保護者とのエピソードをもとに、わが子への関わり方を紹介します。

これまでのコラムはこちら

「親に甘える」って…?

いるかひろばは、平日は午前 9 時半から午後 3 時半まで。親子が思い思いの時間にやって来ます。子どもと一緒に遊んだり、子どもの様子を見ながら利用者同士が情報交換をしたり、愚痴をこぼしたり、職員と話をしたり…。それぞれが過ごしたいように利用されています。

その中で、お母さんが本音を出してくださる時があります。そういうお母さんの気持ちをしっかりと受け止め、一人一人に合わせた対応を心掛けて関わっています。

成長し、大人になり、結婚して親になる。子育てをするにつれて、自分の振り返りをする機会が増えてくると思います。子どものころに「親にガミガミ言われて嫌だった」と思いながら、ふと気が付くと、自分が同じことを子どもにしていて落ち込んでしまう…。そういうことを何げなくつぶやかれる利用者がいます。利用者のつぶやきは、SOSのサインである時があります。Aさんの場合もそうでした。

 

■Aさん…30代、2児のお母さん

いつも穏やかな表情で来園されていたAさん。一見すると、子どもとおしゃべりをしながら遊びを楽しんでいる様子。でも私は、ふとした時の表情が何となく気になり、Aさんが来園されるとさりげなく傍らに座っていました。そういう日常のある日のこと、Aさんはいつもよりも早く来園しました。その日はほかにまだ誰も来ていませんでした。いつものように傍らに座ると、Aさんはすぐさま話を始めました。

「先生、実は私、先生と同じような経験…虐待された経験があるんです…」

Aさんは静かに、時には涙を流しながら、そして、母親に対する怒りを出しながら、今までの彼女の生い立ちを語り始めました。母親から罵倒された、いい子でいるように強要された…。私は、彼女の話したいペースを大事にしながらひたすら傾聴していきました。話に区切りがつくと、彼女はまたいつもの穏やかな表情に戻り、「聞いてくれてありがとうございました」とお礼を言われました。「私の方こそ、しんどい話を私に話してくれてありがとうございました」と伝えました。

その日から、Aさんは話したい時に、しんどい思いを語るようになりました。「もしかしたら、自分もわが子に同じことをするのではないか…」という不安な思いも出すようになりました。私は「しんどいことがある時には一緒に考えて行きましょう」と伝え、これまで以上に彼女のささいな変化にも気を配りました。

気になる様子があると、「大丈夫ですか?」の言葉掛けをして彼女の傍に座り、傾聴していく…。この繰り返しが何カ月か続いたある日、Aさんはこう言いました。

「私、先生に自分の事を話すようになって気付いたことがあります。『親に甘える』ってこういうことなんだろうなって思うようになりました。先生に話すことができてよかったなぁと思います」

初めてのお友達と(写真と本文は関係ありません)
初めてのお友達と(写真と本文は関係ありません)

Aさんは子どもの時から、母親の言いなりで育ち、逆らうことはできませんでした。誰にも相談することなく、大人になりました。夫には全てを話し、理解してもらっているようです。それでもやっぱり、しんどい気持ちになる時があり、気持ちが乱れてしまう。そういう時に「しんどい思い」「愚痴」「母への怒り」「イライラする自分の抑えきれない感情」「母との現状」など話してくれるようになりました。

話をすることで、自分の気持ちを整理し、また前を向いて生活する。その繰り返しでした。感情の起伏を受け止めながら、どうしたらよいかを一緒に考えながら数年がたちました。2人のお子さんは成長し、小学生になりました。今でも時々、子どもたちの様子を報告してくれます。しんどくなった時にはつぶやいたり、相談したりしてくれています。ありがたいことに、いるかひろばを“第二の実家”のように思ってくださっています。

Aさんのように心の中にため込んでいた思いをいるかひろばで出し、気持ちの整理を一緒にすることで、「しんどい思い」を軽くされていく方もいます。医師やカウンセラーなど専門家の力をお借りして、一緒に解決策を見つける場合もあります。

いずれにしても、「しんどい思い」はため込まず、出せることができる場所で伝えていただきたいと思います。いるかひろばでよろしければ、いつでもお話を聞かせてください。一緒に考えていきたいなと思っています。

 

 

土居さんに相談したい場合は、「いるかひろば」に問い合わせをしてください。

高知市地域子育て支援センター「いるかひろば」はこちら

土居さんへのインタビューはこちら

この記事の著者

門田朋三

土居寿美子

高岡郡梼原町出身。保育士として2005年から高知市の港孕保育園に勤務。07年から、港孕保育園内にある地域子育て支援センター「いるかひろば」の常勤スタッフとして、親子に寄り添った支援に取り組んできました。2019年11月に特定非営利活動法人いるかひろばを立ち上げ、理事長に。2020年から、いるかひろばをNPOとして運営しています。趣味はバレーボール。洋服やケーキなど何かを作ることも好きです。好きな言葉は「一所懸命」。

関連するキーワード

LINE公式アカウントで
最新情報をチェック!

  • 週に2回程度、ココハレ編集部のおすすめ情報をLINEでお知らせします。

上に戻る