命と健康を守るため、防災を「日常化」させましょう|「女性防災プロジェクト」講座を受けてみた⑤
「災害に備えなきゃ」と思うだけでは…。こうち男女共同参画センター「ソーレ」の5回講座をココハレ編集部員がレポートします
南海トラフ地震、台風、豪雨…ご家庭で災害への備えはできていますか?子育て中は毎日忙しく、「しなきゃいけない」と思いつつ十分にできていないという人もいるのではないでしょうか。
こうち男女共同参画センター「ソーレ」で毎年開催されている「女性防災プロジェクト」講座。備えたい気持ちに行動が伴っていないココハレ編集部員で 2 児の母・門田が全 5 回を受講し、感じたこと、学んだことをレポートします。
最終回の第 5 回講座は 2022 年 9 月 10 日に開かれました。テーマは「私たちにできること」。災害時に個人、ご近所、地域に起きることを想定。防災を日常化させることが、最大の備えになると学びました。
目次
仮設トイレが透けて見える?!女性が声を上げ、改善できることがあります
「女性防災プロジェクト」の第 5 回講座は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、会場とオンラインを組み合わせた講義となりました。
講師は、保健師の畠山典子さん。大阪公立大学大学院看護学研究科・看護学部で講師を務めています。高知県立大学の元教員で、高知で暮らした経験もあるそうです。
東日本大震災では、千葉県内で保健師として活動。液状化現象でライフラインが 2 週間止まる中、帰宅困難者ら 1000 人が集まった避難所を担当しました。
東日本大震災の頃は、避難所に「女性の視点」はまだなく、備蓄もほとんどない状況でした。
「避難所では被災者が床に敷いた毛布にじかで寝る状況でした。生理用品もなくて、それぞれが持っていたものを出し合って必要な人に配りました」と畠山さん。「当時は女性が声を上げづらかったのですが、この 10 年で大きく変わり、課題も整理されてきた」と語ります。2018 年の西日本豪雨の際には、段ボールベッドが用いられました。
他にも改善や工夫はたくさんあるそうです。例えば、仮設トイレ。ある自治体で実際に使ってみて、問題に気付きました。「仮設トイレは白い布状のもので覆われているタイプ。夜、中で電気を付けると、シルエットが透けて見えました。女性職員が気付いて声を上げ、改良されました」
家事や育児、介護を主に担う割合は女性が多いという現状から、避難所の運営や備蓄では、男性には気付けない点がどうしても存在します。「今は女性が声を上げられるムードが高まっています。好事例を広め、男性が理解し、受け入れていくことが大事です」
清潔な衣食住が突然なくなる!健康を害する要因になります
女性防災プロジェクトでは、命と健康を守るということを繰り返し考えてきました。畠山さんも「病気やけがの処置を考えることは大切ですが、『水がない』『1 週間同じ食べ物が続く』といった状況が健康を害すると知ってほしい」と呼び掛けました。
病気やけがへの対応は「キュア」と呼ばれます。対して、衣食住など清潔な環境を整えることは「ケア」の領域。「ケアの視点が不足すると、災害関連死が起きてくる」と言われています。キュアとケアを融合させることで、災害時のリスクは低くなります。
必要なケアは、災害によって変わります。「近年の水害では、適切な避難によって命は助かったものの、家が浸水し、安全や衛生、衣食住に問題が生じ、平時の日常を送れないことによるストレスから健康を害してしまうケースも増えています」と畠山さん。
看護の世界では、命と健康を守るために必要なことを「基本的ニード(欲求)」と呼んでいます。平時からの備えを考える上で参考になりそうです。
【人間の基本的ニードの構成要素】誰が、いつ、どのようにケアする?
- 正常な呼吸
- 適切な飲食
- 老廃物の排泄(はいせつ)
- 体を動かし、姿勢を維持する
- 睡眠と休息
- 衣類の選択と着脱
- 正常な体温の保持
- 体の清潔の保持と身だしなみ
- 環境内の危険因子を避ける
- 他者とのコミュニケーション
- 自己の信仰に基づく生活
- 達成感のある仕事
- レクリエーション活動に参加する
- 学習を満たす
個人、ご近所、地域…災害時に起きる困りごとは?
講義の後は、個人ワークに移りました。「南海トラフ地震が発生し、大きい揺れと津波が来る可能性がある」という設定で、起こり得る困りごとと対策を考えます。「個人に起きること=自助」「ご近所に起きること=共助」「地域に起きること=公助」と範囲を広げていくと、平時の備えが見えてくるそうです。
私の自宅は津波被害は免れる想定ですが、主要道路は浸水し、地域が“陸の孤島”になる恐れがあります。住民は高齢者が多く、同世代で顔と名前が一致している人は数えるほど…。
少し考えるだけで、壁にぶつかりました。
【個人に起こること】
- 発生直後…突然の揺れに驚く。泣き叫ぶ子どもを守りながら、揺れに耐える
- 揺れが収まった…津波浸水地域ではないが、坂の上の一時避難場所に逃げる→一時避難所でいつまで過ごせばいいの?避難解除の目安はあるの?
- 一時避難終了…自宅に帰る。避難所(小学校)には多分行けない→近くの公民館でどんな活動をする?周囲の道路の水が引くめどは?
- 水、食料の問題…ローリングストックを始める。水は備蓄したものの賞味期限が切れることを繰り返してきたので、普段から「飲み水」として使うように生活を変える
- トイレの問題…自宅のトイレが使用OKとなる条件は?仮設トイレは地域のどこに設置予定?
赤字で書いたのが「壁」。これはいくら机上で考えても、答えは出ません。
これまでなら、ここで「まぁ、そのうちに…」と止まっていました。女性防災プロジェクトで得た発想の転換や考え方をもとに、地域の自主防災活動に参加していかねばと決意を新たにできました。
参加者それぞれが“決意表明”しました
個人ワークの後、参加者それぞれが発表しました。
【私たちにできること】
- 防災用品になりそうなものを日頃から使っていく。体を鍛え、メンタルも強くしておきたい
- ハザードマップや避難経路について、家族で話しておく
- 車のガソリンは減るまで使っていたけど、小まめに入れるようにする
- 一人暮らしでコロナにかかり、食料がなく、支援が届かないことを体験した。ストック買いをしておきたい
- 避難バッグに生理用品は入れているが、持病の薬を入れてないことに気付いた。お薬手帳のコピーと一緒に入れておく
- 学校には津波が確実に来るけれど、避難場所に逃げ切った後、どうするんだろう。公助に頼り過ぎてはいけないと感じた
- 子育てが終わり、夫と 2 人暮らしになり、身軽に動けるようになった。井戸水を使えるようにしたり、バッテリーを整備したりして、近所の人の役に立てるように準備したい
毎日の生活は、当たり前過ぎて気付かないようなケアや配慮で、何でもないことのように成り立っています。一人一人の“決意表明”を聞いた講師の神原咲子さんは、最後に参加者にこう語り掛けました。
「皆さんのように、日常のこまごまとしたこと、生活の癖みたいなものに気付くのがすごく大事で、不安を安心に変えていくことが備えになります。『防災の日常化』にぜひ取り組んでください」