「かんしゃく」をヒートアップさせないこつは?|「発達障害を知ろう⑥」かんしゃくへの対応
「かんしゃくは原因を探ることが大切です」高知県立療育福祉センターの心理判定員・野々宮京子さんに聞きました
泣いて叫んだり、怒って物を投げたり、床にひっくり返って手足をばたばたさせたり。幼児期の「かんしゃく」に手を焼いていませんか?
家でも外でもしょっちゅう起こされると、親も疲弊しますが、かんしゃく自体は悪いことではありません。「かんしゃくを起こす困った子」と捉えるのではなく、「どうしてかんしゃくを起こしたのか」と原因を探り、上手に気をそらすといいそうです。
かんしゃくをヒートアップさせないこつについて、高知県立療育福祉センターの心理判定員・野々宮京子さんに聞きました。
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目次
野々宮さんは高知県立療育福祉センター(高知市若草町)の心理判定員です。療育福祉センターの心理判定員は子どもたちに発達検査や知能検査などを行って発達について評価する、保護者の相談に乗るなどの役割を担っています。
野々宮さんは現在、療育福祉センター内にある「発達障害者支援センター」に所属し、市町村の乳幼児健診のサポートや、子育てのこつを学ぶ「ペアレント・トレーニング」「ペアレント・プログラム」の普及など地域支援に取り組んでいます。
かんしゃくで「イヤ」という気持ちを表現しています
「かんしゃく」と聞くと、「怒る」「泣く」「暴れる」「手が付けられなくなる」といったイメージが浮かびます。辞書では「欲求不満に対する感情の爆発的な反応」などと記されています。1 歳の終わり頃から 4 歳頃にかけて多くなるようです。
具体的な反応について、ココハレの「あの手この手教えて!」ではお父さん、お母さんからこんな意見が寄せられました。
・空腹と眠気が同時に来た時
・保育園に行く時、お風呂に入る時、おもちゃを片付ける時
・自分の要求が通らなかった時
・「自分でしたい」をさせてあげられなかった時
・まだ遊びたい時
・突然の出来事にあった時
・自分がミスをしてイライラが続いた時
いわゆる「イヤイヤ期」に当たる 2 ~ 3 歳が中心でした。「小学生になっても続いている」という声もありました。
野々宮さんは「『かんしゃく』と名前が付いているので、『これがかんしゃくだ』というイメージがあると思いますが、『子どもがイヤという気持ちを言葉の代わりに表現している状態』とシンプルに考えてください」と説明します。
赤ちゃんはしょっちゅう泣きます。「眠い」「おなかが空いた」「おむつを替えて」「寂しい」など、泣く理由はさまざま。言葉が話せないので、泣くことで大人の注意を引き、欲求を満たします。
かんしゃくは赤ちゃんが泣くのと同じこと。「おしゃべりができるようになっても、『○○だからイヤだ』『僕はお母さんにこうしてほしい』なんて上手に説明はできません。感情もまだ上手にコントロールできない結果、大人が『かんしゃく』と捉える行動を起こします」
発達障害の「パニック」では原因を探り、配慮を行います
発達障害の特性に「かんしゃくを起こす」はありませんが、「パニック」になった結果、かんしゃくを起こすことがあります。「パニック」とは感情や行動が調整できなくなり、混乱した状態のことです。
パニックでは急に大声で叫ぶ、暴言を吐く、暴れだす、物を壊す、自傷行為をするなどいろいろな行動が見られます。固まってしまう場合もあります。
「急に暴れて手が付けられなくなると周りはびっくりしますが、必ず原因があります」と野々宮さん。「急な予定変更に混乱した」といった比較的分かりやすい原因から、「感覚が過敏で周囲のざわざわした音をずっと我慢していたけれど、耐えきれなくなった」といった一見分かりにくい原因まで、その人の特性によってさまざまです。
発達障害の場合は、パニックを引き起こす原因を探り、その原因を取り除くなどの配慮を行います。
・急な予定変更に混乱する→見通しが持てるように、スケジュール表やイラストで説明する
・感覚が過敏で周囲の音に耐えられない→イヤーマフや耳栓で音を遮る、静かに過ごせる部屋に移動する
「かんしゃく自体は悪いことではありませんし、原因があって起こります」と野々宮さん。「まず、どうして起こるのかを考えてみましょう」
かんしゃくが起こりやすい状況を把握しましょう
行動には必ず、その行動を取る原因やきっかけがあります。「状況・きっかけ」「行動」「結果」の 3 段階に分けて考えると分かりやすく、心理学では「ABC分析」と呼ばれています。
「上着を羽織る」を例に考えてみます。
A:状況・きっかけ…今日は寒い
B:行動…上着を羽織る
C:結果…体が温まる
かんしゃくは行動なので、Bに当たります。「かんしゃくが起こった時の対応も大事ですが、Aを把握してかんしゃくが起こらないようにすることも同じように大事です」と野々宮さんは話します。
Bを「スーパーでひっくり返って怒る」で考えてみましょう。
B:行動…スーパーでひっくり返って怒る →C:結果…引っ張られてその場から引き離される
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A:状況・きっかけ…お菓子売り場で「お菓子はダメ」と言われた
特に人前でかんしゃくを起こされると、親の中では「恥ずかしい」「迷惑を掛ける」という思いが先行し、「何とか対処しなければ」と焦ります。ですが、かんしゃくを起こす状況やきっかけが分かると、「原因を取り除く」という新たな対処法が生まれます。
【スーパーでのかんしゃくを回避する方法・例】
・「おうちにアイスがあるから、今日はお菓子を買わないよ」と予告する
・「帰ったらアイスを食べようね」と代替案を用意する
・お菓子売り場を通らないルートで買い物をする
・子どものいない時間に買い物をすませる
「子どもの行動の原因を探っていくと、かんしゃくが起こりやすい場所、時間帯、相手、状況が見えてきます」と野々宮さん。「原因が分かれば回避する方法を考えればいいですし、回避できなかったとしても、『あー、これはかんしゃくが来るな』と分かります。心の準備ができるだけでも全然違うと思います」
かんしゃくは「状況・きっかけ」「行動」「結果」の 3 段階で考えると、回避する方法が見えてきます
かんしゃくが起こりやすい場所、時間帯、相手、状況を把握しましょう
起きたら、次の行動に誘うタイミングまで待ちます
とはいえ、毎日全ての原因を回避してかんしゃくを防ぐことはできませんし、成長に従って新たな「状況・きっかけ」も生まれます。
かんしゃくが起きた時にまず大切なのが、危険を取り除くことです。「物を投げる、相手や自分をたたく、傷つけるといった『危険な行動』は止めましょう」
「わーっとなってる時に怒っても聞き入れることはできませんし、大人もつられてわーっとなって互いにエネルギーを消耗します」。危険がない場合は、無理に止めずに見守りながら、トーンダウンするのを待ちます。
見守りながら待つこつは次の通りです。
・叫ぶ、ばたばたするなどの行動に対して、いちいち「やめなさい」と反応せずにスルーしながら見守る
・「いつになったらトーンダウンするかな」と子どもの行動にアンテナを張り、「トーンダウンした瞬間に何て声を掛けようかな」と考えながら待つ
・何もせずにスルーすることがしんどい場合は、子どもの行動にアンテナは立てつつ、テーブルを片付けるなど他のことをする(自分が別のことに注意を向けると、感情をコントロールしやすくなります)
・トーンダウンしたら次の活動に誘う
「叫び続ける、暴れ続けるのは疲れるので、どこかでふっと落ち着いたり、力が抜けたりします」と野々宮さん。「そのタイミングで『レジに行くよ』『カートを押してくれる?』『おうちに帰ったらアイスを食べようね』などと次の活動に誘うと、気持ちも切り替えやすくなります」
かんしゃくに対しては「叱るのではなく、待ってみる」「トーンダウンした時に肯定的な声掛けをする」という対応を取ると、親も子もヒートアップしなくてすむそうです。
かんしゃくは危険がない限り、無理に止めずに、収まるのを待ってみましょう
トーンダウンしたタイミングで、次の行動に誘いましょう
分かっていても待つのは難しい…自分を褒めてください!
かんしゃくをしょっちゅう起こされると、親は疲れます。「うちの子はすぐかんしゃくを起こす困った子」と捉えてしまいがちですが、「かんしゃくを『性格』として捉えないでほしい」と野々宮さんは話します。
「子どもは自分のペースで成長し、気持ちをコントロールできるようになります。かんしゃくを起こす原因を回避し、起こった時は大人がまともにぶつからず、少し待ってみてください」
かんしゃくへの対応のこつを理解しても、いざわが子を前にすると「なかなかうまく対応できない」ということはよく起こるそうです。「『ぶつからずに待とう』と心掛けたことだけでも『私、頑張ってる!』と自分を褒めてください。少しでも意識していくことが上手に対応できる大切な一歩になります」
「かんしゃくの頻度が多い」「対応の仕方が分からない」という場合は保健師さんに相談するといいそうです。高知県内のほとんどの市町村に「子育て世代包括支援センター」がありますので、ぜひ相談してみてください。
子どもの行動を捉えるこつを「ペアレント・プログラムを受けてみた」で紹介しています。