「療育」ってどんな所?|「発達障害を知ろう③」高知県立療育福祉センターに行ってみた
「療育」と呼ばれている高知県立療育福祉センターの役割・機能を紹介します
シリーズ「発達障害を知ろう」では、子育てで気になる子どもの成長や発達について、高知県内の専門家にインタビューしています。この記事では「療育」と呼ばれている高知県立療育福祉センターを取材しました。
療育福祉センターは心身の発達に障害がある、またはその心配がある子どもと家族のために支援を行う施設です。発達障害では、診療やリハビリのほか、自閉スペクトラム症(ASD。この記事では「自閉症」と呼びます)の子どもが利用する通所支援を行っています。2017 年に建て替えられた施設の内部と、役割・機能を紹介します。
「発達障害を知ろう」①②はこちら
目次
子どもの心身の発達を支援する施設です
高知県立療育福祉センターは 1999 年に肢体不自由児施設「子鹿園」や難聴幼児通園センターなど六つの機関を統合して誕生しました。その後、発達障害者支援センターや、自閉症の子どもたちが通う施設などが加わりました。2019 年には中央児童相談所と一体の建物に建て変わり、子どものさまざまな相談に対応しています。
場所は国立病院機構高知病院の近く。子育て支援の場や保育園・幼稚園、学校では「療育」と縮めて呼ばれることが多いです。発達障害だけではなく、子どもの心身の発達全般について必要な支援に取り組んでいます。
主な業務は大きく五つに分かれています。
- 医療
- 障害児の在宅支援
- 障害児の訪問・通所支援
- 障害者の相談・判定・支援
- 発達障害児・者の支援
このうち、発達障害に関わる部署を紹介していきます。
医療…小児科、精神科で診療。診察待ちは「3~4カ月ほど」
療育福祉センターには「医療」として診療所の機能があります。6 診療科の外来に加えて、入院機能とリハビリテーション機能を備えています。
- 整形外科
- リハビリテーション科
- 精神科
- 小児科
- 耳鼻咽喉科(難聴)
- 唇裂・口蓋裂矯正歯科
発達障害を診療するのは小児科と精神科です。
診療は全て予約制です。初診の受け付けなどの窓口になる「地域連携室」によると、1 歳 6 カ月児健診、3 歳児健診で「発達が気になる」として紹介された子どものほか、地域の保健師や小学校の先生を通じて紹介されるケースが多いとのことです。保護者から直接、受診の予約が入る場合もあります。
発達障害の特性の現れ方はさまざまで、幼い頃にしっかりと診断名がつくことはあまりないそうです。診断名がどれか一つということもあまりなく、医師は例えば「自閉症とADHD両方の特性がある」というふうに見立てをして、子どもに合った対応の仕方を考えていきます。
数年前までは電話予約から初診までの「診察待ち」の期間が 1 年以上という状況でした。その後、診察の枠を増やしたり、市町村が医療につなぐ前の支援を工夫したりして、期間は徐々に短くなっています。現在は「初診まで 3 ~ 4 カ月待ち」とのことです。
リハビリ…運動発達、手先の不器用さ、言葉の遅れなどに対応します
発達障害の子どもには、運動が極端に苦手、手先の不器用さが目立つという特性のある人が多いそうです。リハビリテーションでは、日常生活での不自由さを軽減するため、医師の診察に基づいて理学療法、作業療法、言語聴覚療法を行っています。具体的には次のように分かれています。
【理学療法】
人の基本的な運動機能は、赤ちゃん時代から寝返り、座る、ハイハイ、つかまり立ち、歩くという発達段階を経て獲得されます。適切な時期に適切な経験ができていないと、体の使い方や筋肉の動かし方を習得できないということがあります。例えば、「歩けるし、走れるのに、緩急がつけられない」「足と手が連動しない」といったことが起こります。
理学療法ではストレッチや遊びなどを通して、立つ、歩く、座るといった基本的な運動の発達を促します。理学療法士が担当します。
【作業療法】
朝起きてから家を出るまでを思い浮かべてください。着替える、食事をする、歯を磨く…意識せず、当たり前に行う作業が多いですね。
作業療法では日常生活を送る上で必要な活動ができるように、例えば手や指先を使うおもちゃを取り入れながら発達を促していきます。子どもの特性に合わせて、スプーンや鉛筆、はさみの使い方なども教えていきます。作業療法士が担当します。
【言語聴覚療法】
言語聴覚療法では「食べる」「話す」「理解する」といった食事やコミュニケーションの発達を促します。読み書きの支援を行うこともあります。言語聴覚士が担当します。
児童発達支援センター…子どもたちの生活を支援します
療育福祉センターには、障害のある子どもたちが通う「児童発達支援センター」があります。肢体不自由の子どもたちが通う「こじか」、聞こえに問題がある子どもたちが通う「ポニー」、そして自閉症の子どもたちが通う「える」の三つがあります。
「える」は主に就学前の子どもが対象で、親子で利用します。「TEACCHプログラム」という米国で開発された支援システムの考え方を取り入れ、子どもの特性に応じながら、自立した日常生活や社会生活を送れるように支援していきます。行政から「通所受給者証」を支給された子どもが利用します。
自閉症の人には「視覚認知や視覚記憶が強い」という特性があります。「える」の室内は「これから自分が何をするのか」が目で見て理解できるように工夫されています。
子どもたちは月に 2 回通い、個別に 1 時間ほどのセッションを受けます。子どもたちが見通しを持って行動できるように、実物やカードを使ってセッションの流れを提示します。カードには実物の写真、イラスト、文字があり、子どもの理解に合わせて変えていきます。
「える」の目的は、子どもが家庭や園で落ち着いて、安心して生活できるようにするための支援です。スタッフは子どもとやりとりしながら、コミュニケーション能力を引き出していきます。その様子を保護者に見てもらい、子どもの特性や関わり方、声掛けの仕方を伝えています。子どもが集中して取り組めるように、仕切りを置く、必要でない物は見えないように布を掛けるといった環境づくりも提案しています。
「自閉症の場合、小さい時に必要な支援もあれば、その子の将来にわたって必要な支援もある」とのこと。「保護者には『える』でのやり方を家に持って帰って実践してもらい、子どもの代弁者にもなってほしいと思います」
このほか、子どもが集団生活に適応することができるように保育園などを訪問する支援や、発達が気になる段階の子どもを育てる家族への支援も行っています。
発達障害者支援センター…大人の相談にも対応しています
「発達障害者支援センター」は各都道府県にある施設で、高知県では 2006 年に発達障害者支援センター「きらっと」が療育福祉センター内に設置されました。対象は「発達障害児・者」、つまり子どもから大人まで幅広く相談を受けています。
発達障害では早期発見・支援が進められていますが、これは最近の話。子どもの頃に診断や支援を受けないまま大きくなり、学校や職場でなじめない、周囲の人とトラブルになるということが「大人の発達障害」として知られるようになりました。
センターでは本人や家族、支援者から相談を受け、助言や情報提供を行いながら、必要な支援につなげています。職場を訪問して本人の特性を伝え、環境を整えるということも行っています。
このほか、「地域支援」として市町村の乳幼児健診のサポートや、子育てのこつを学ぶ「ペアレント・トレーニング」や「ペアレント・プログラム」の普及、医療につながる前の子どもたちへの支援の仕方を市町村の担当者に伝えるといったことにも取り組んでいます。
今回は療育福祉センターについて紹介しました。主に医療や福祉サービスを受けている子どものための施設ですが、「子どもの発達が気になる」「医師に診てもらいたいけど、どうしたらいい?」「市町村にはどんな支援がある?」といった疑問や困りごとを相談できる窓口もあります。ぜひ知っておいてください。
「発達障害を知ろう④」では子育ての困りごとと子どもの発達との関係について、保健師さんにインタビューします。
- 住所:高知県高知市若草町10-5
- 電話:088-844-1921(総務課)、088-843-6831(地域連携室・初診受け付け)、088-844-1247(発達障害者支援センター、月~金曜日 8:30~17:15 )