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子育ても、子育て支援も「心の響き合い」が大事です|小児科医・沢田敬さんに聞きました

子育ても、子育て支援も「心の響き合い」が大事です|小児科医・沢田敬さんに聞きました

虐待を受けた経験、甘えられなかった経験が子育てに影響することがあります。高知県助産師会の乳幼児ケア研修会から紹介します

「子育て支援」では、子育てに不安やストレスを抱える親のSOSをどうキャッチし、支えていくかということが大きな課題の一つです。高知県内でも支援に携わる人向けの研修会や勉強会が開かれています。

高知県助産師会の乳幼児ケア研修会では、虐待予防に取り組む小児科医・沢田敬さんが講演しました。

幼い頃に虐待を受けた、甘えられないまま育った…。そんなつらい経験をして大人になる人がいます。親になった時、わが子にどう接していいか分からなくなり、混乱する場合もあります。

子育ても子育て支援も「心の響き合いが大事」と語る沢田さんに、子育て中のお父さん、お母さんが知っておきたいことを聞きました。

 

沢田敬さんは小児科医。高知県立西南病院の小児科部長や、高知県立中央児童相談所の医務主任などを務めました。現在は認定NPO法人「カンガルーの会」の理事長として、相談対応や人材育成など児童虐待を防ぐ活動をしています。また、いの町の「ぐりぐらひろば」などの支援センターを訪れ、お母さんからの相談に乗っています。著書に「子どもと生きる・あまえ子育てのすすめ」(童話館出版)などがあります。

高知県助産師会の乳幼児ケア研修会は 2022 年 1 月 23 日、オンラインで開かれました。この記事は研修会での講演と沢田さんへのインタビューを基に構成しました。

かわいがられた経験は五感を通して心に染み込みます

講演ではまず、赤ちゃんとお母さんのコミュニケーションについて触れました。

まだ話せない赤ちゃんとのコミュニケーションは、お母さんが赤ちゃんの様子を察して対応するという「非言語的コミュニケーション」になります。沢田さんは「間主観性(かんしゅかんせい)」「情緒応答性」という言葉を使って説明しました。

【赤ちゃんとお母さんのコミュニケーション】

  • 間主観性…心の奥底での響き合い
  • 情緒応答性…相手の気持ちに応じて対応すること

 

例えば、赤ちゃんの機嫌が悪くなった時。「眠いのかな?」と察するのが「間主観性」で、「すぐにおんぶして、赤ちゃんに手を添えて揺すりながら、子守歌を歌う」という対応が「情緒応答性」です。「『おなかがすいたのかな?』と感じて、目を見つめ、『おなかすいてたのね』と話しかけながらおっぱいを飲ませるというのも、よく響き合った応答」と沢田さんは説明します。

こうした心の響き合いは、お母さんから子どもへの一方通行ではありません。「赤ちゃんが激しく泣く」と訴えるお母さんに事情を聞くと、不安や悩みを抱えている場合があります。これは、子どもからお母さんへの心の響き合い。「お母さんが疲れて横になっていたら、子どもがバスタオルを引っ張ってきて掛ける」という行動も同様です。

「こうした行動は知識や理屈ではなく、感性によるものです」と沢田さん。脳の発達から見ると、経験を具体的に記憶するのは 4 歳ごろから。0~3 歳児は五感を通して感覚的に覚えているそうです。

「大人に甘えたり、かわいがられた経験は温かい物語として心に染み込むんですね。温かく育てられた経験が支えになり、自分の子どもにも同じように接することが自然にできるのです」

心の傷、すれ違いは積み重なっていきます

一方で、「温かい物語」が心に染み込む機会のないまま成長する場合があります。虐待を受けた経験もその一つ。「親に激しくたたかれたり、縛られたりといった経験は体の傷になるし、心の傷にもなる」と沢田さんは語ります。

虐待まではいかなくても、小さな「心の傷」が積み重なっていくことがあります。「親にかまってもらえなかった」「抱っこしてもらえなかった」といったケース。心のすれ違いが成長とともに、精神的な混乱や非行などの社会的問題につながっていくことがあります。

沢田さんは「抱っこしないお母さん」として、ある事例を紹介しました。

生後、しばらく入院した赤ちゃんがいました。点滴はしていますが、抱っこは可能。看護師がお母さんに「大丈夫だから抱っこして遊んでやってください」と促しました。お母さんは「そうですね」と抱っこしたものの、すぐに赤ちゃんをベッドに置きました。ベッドの上につるしたおもちゃを揺すって赤ちゃんと遊びますが、声掛けはありません。詳しく聞くと、お母さんは「親がすごく忙しくて、抱っこされなかった」と打ち明けました。

「間主観的子育て、情緒応答的子育てをしながら、ほっとする雰囲気で子どもを包み込むことを『ホールディング』と言います。ホールディングも世代間伝達されていきます」

激しい泣き声で起こる「赤ちゃん部屋のお化け現象」

赤ちゃんへの虐待で最も深刻なものの一つに「乳児揺さぶられ症候群(SBS)」があります。赤ちゃんは首の筋肉が発達していないため、激しく揺さぶられると脳が損傷します。重い障害を負い、場合によっては命を落とします。

揺さぶってしまった親は「赤ちゃんが泣きやまず、イライラした」と打ち明けることが多いそう。これを沢田さんは「赤ちゃん部屋のお化け現象」と紹介しました。

【赤ちゃん部屋のお化け現象】

親が赤ちゃんと 2 人だけでいる時に赤ちゃんが激しく泣き、親が混乱を起こしてしまうこと。赤ちゃんがお化けになって襲いかかってくるような恐怖を感じることから名付けられました

 

「あやしても泣きやまず、『もう嫌!』と思ってしまうことは、親子の間ではしょっちゅう起こります。ただ、通常はある程度でブレーキがかかります」

ですが、親自身に虐待された経験があると、激しい泣き声や泣いている姿から、つらい過去や心理的葛藤が無意識のうちに浮かび上がります。この「トラウマの表出」によって大混乱を起こし、ブレーキをかけられないまま揺さぶってしまうのだそうです。

こうした悲劇を防ぐためにも、虐待予防は重要です。「『赤ちゃんを揺さぶったら駄目』『赤ちゃんは泣くのが仕事』『イライラしたら赤ちゃんから少し離れて』と妊娠前から伝えられていますが、トラウマがある場合はそれだけでは防げません」。沢田さんは保健師や保育士らと連携し、お母さんを温かく包みながら心を整理することに取り組んでいます。

ちょっと傷つく「マイクロ・トラウマ」は消していきましょう

先ほど、子どもの「心の傷」について説明しました。親が子どもを傷つけるつもりはなくても、「特に乳幼児期の子どもの心は毎日ちょっとずつ傷ついている」と沢田さんは語ります。

例えば、お母さんに「抱っこして」とお願いしたのに、「今は忙しいから」と抱っこしてもらえなかった時。お父さんと朝、遊びたいのに「今から仕事。帰ってからね」と言われ、夜帰ってくるのが遅かった時。お母さんがトイレに入るだけで子どもが泣くことがありますが、これも「お母さんが目の前からいなくなった」という傷つきの一種なのだそうです。

「子どもがちょっと傷つくことを『マイクロ・トラウマ』と呼びます。これは全てのお父さん、お母さんに当てはまりますし、忙しい中でゼロにすることは不可能ですね」

マイクロ・トラウマは避けられませんが、時間ができた時に抱っこしたり、子どもと遊んだりすることで、心が癒やされ、傷は消えていきます。「消されないまま積み重なると、『マイクロ・トラウマの累積外傷』と呼ばれる大きな心の傷になり、心のすれ違いにつながります。意識しておいてください」

「マイクロ・トラウマ」はゼロにはできませんが、意識して消していきましょう

 

しつけは抱きしめてあげましょう

しつけについて、沢田さんは「抱きしめる」ことを提案しています。「子どもが小学生、中学生になって手に負えなくなり、困っているお父さん、お母さん、先生が数多くいます。幼児初期からしつけはきちっとしてください」

【幼児期からのしつけ】

  • よいことをした時…「こんなにおりこうさん、大好き」と抱きしめる
  • 転んで痛い時…「大丈夫、大丈夫!偉かった!」と抱きしめる
  • 悲しい時、怖い時…「お母さん(お父さん)がいるから大丈夫」とぎゅっと抱きしめる
  • 悪いことをした時、いじわるした時…優しく説明しながら抱きしめる

 

「のびのび育ち、甘えで満たされると、わがままがひどくなる」と沢田さん。子どもは「お母さんを困らせよう」と思って悪いことをするのではなく、自主性や探究心からいろいろないたずらをします。「お母さんに止められると、自主性、自尊心が傷つけられ、駄々をこね、ひっくり返って怒ります」

こんな時は優しく説明しながら抱きしめ、行動を止めるのがいいそう。「『お母さんにとってあなたは大切な子どもだから、あなたを捨てることはできない』というメッセージも伝えてください」。暴れている時は後ろから子どもの肘の高さで抱きしめると、大人にけががないそうです。

言うことを聞かないからと言って、たたく、怒鳴る、鬼やお化けで怖がらせるなどして「恐怖」を植え付けたり、「お母さんの子ではない」「お外に行きなさい」など切り捨てたりするのは避けましょう。「『言うことを聞かない時は、無視せよ』と言う人がいますが、無視は精神的に捨てることに通じますので、しない方がいいと思います」。怖がらせるのではなく、抱きしめる。「機械的にではなく、ぎゅっと心を抱きしめてあげてください」

 

しつけは「恐怖」「切り捨て」で行うのではなく、「優しさ」「受け入れ」を意識して行いましょう

「この子は世界一かわいい」という気持ちを忘れないで

沢田さんは小児科医として、赤ちゃんの健診に携わってきました。「診察の間、赤ちゃんが大泣きするでしょう?診察を終えてお母さんに赤ちゃんを手渡すと、ぱっと泣きやみます。ものすごい恐怖が一瞬で消え、安心感に包まれるのが分かります」

この安心感を育む原点は「この子に恵まれてよかった」「この子は世界一かわいい」という、お父さん、お母さんの感性だと、沢田さんは考えています。

「生まれた時には理屈抜きでそう感じ、知識ではなく、『この子がかわいい』という感性で赤ちゃんを育てます。親の養育行動が赤ちゃんの要望にぴったり合っていると、赤ちゃんは満足し、安心感を味わい、親を信頼します」

「成長するにつれてイライラさせられたり、『この子に恵まれてよかった』という気持ちを忘れてしまうこともあるでしょう。時々は原点に戻り、お子さんの甘えを『かわいい』と受け止めてあげてください」

一方で、「子育てを楽しいと思えない」「子どものことをかわいいと思えない」「小さい頃に親に甘えた経験がない」という人もいます。沢田さんたちの調査では 1 割程度はいるそうです。「これはそう思う人が悪いのではなく、子どもの頃のびのびと親に甘えた経験がなかったり、DVや離婚、経済的な問題などで今つらいことを抱えたりという背景があります」

こうした感情や経験は決して恥ずかしいことではありません。沢田さんは「信頼できる人に相談してほしい」と呼び掛けています。

「職種は保健師さんでも保育士さんでもいいし、友達でも近所の人でもいい。『何でも話してよ』とあなたに温かく声を掛けてくれて、思いをじっくり聞いてくれる人に気持ちを話してみてください」

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小1と年少児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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