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【ココハレインタビュー】プレイアドバイザー・中市真帆さん|「この子は何を考えてる?」を大切に 

【ココハレインタビュー】プレイアドバイザー・中市真帆さん|「この子は何を考えてる?」を大切に 

読み聞かせ、ドラマワーク、ベイビーシアター…遊びを通して子どもの自己表現を受け取り、育ちを支えています

「プレイアドバイザー」として高知県内の幼稚園や保育園、子育て支援センターなどで活動している女性がいます。

2008 年から東京と高知を行き来する中市真帆さん。演劇の経験を生かし、読み聞かせや、子どもの自己表現を受け取る「ドラマワークショップ」、赤ちゃん向けの芸術体験「ベイビーシアター」など、遊び(プレイ)を通して子どもの育ちを支えています。

中市さんは「子どもの困った顔を見るのが好きじゃない」と語り、「この子は今、何を考えているかな?」と常に考えることを大切にしています。子どもへの上手な関わり方を聞きました。

赤ちゃんが前のめりに。親子で楽しめる「ベイビーシアター」

2021 年 7 月に高知市内で開かれた「ベイビーシアター」。児童家庭支援センター「高知みその」が企画し、0 歳児を中心に親子が参加しました。

「ベイビーシアター」とは赤ちゃんから楽しめる文化芸術体験を通じて、地域のつながりを創出し、子育てを支えていく事業。2002 年に首都圏で始まり、演劇や音楽などのプログラムを提供しています。

中市さんは今回、「ベイビーミニシアター」の中から「アル」(制作:日本児童・青少年演劇劇団協同組合)という演目を披露しました。会場は赤ちゃんが自由に動き回れる和室。中市さんの声が聞こえると、ハイハイをしていた赤ちゃんが止まり、声の主を探します。

歌を歌ったり、打楽器でリズムを刻んだり。肩に掛けたかばんから、不思議な物を取り出したり。「びっくり!」「あった!」「うれしい!」などの気持ちを、中市さんは豊かに表現していきます。

子どもたちの反応はさまざま。最初から近づいていく子どももいれば、お母さんにしがみついて様子を伺う子もいます。時間がたつにつれて前のめりになり、じーっと集中。「あれは何?」「何か面白そう」「行ってみよう」。そんな心の声が聞こえるようです。

演目を終えた中市さんは、参加したお父さん、お母さんにこう語りかけました。

「『うちの子は集中力がない』という悩みをよく聞きますが、子どもは集中しかしてないんですよ。考え方を変えると、子どもの見方が変わると思います」

遊びを否定されなかった子ども時代

中市さんは 1958 年、横浜市で生まれました。小学校に上がる前から「クレイジーキャッツ」に憧れ、「私は役者になる」と決めました。

両親は中市さんを型にはめずに育てました。「『面白くない。つまんない』と私が不満を言うと、母は『自分で面白いことを見つけなさい』と言うんです。『そうか、面白いものは自分で見つけるものなんだ』と幼いながらに思っていました」

雨の日に「外で遊びたい」と訴えると、「どうしたら遊べるか、考えてごらん」。悩んだ末に、物干しざおに傘を引っ掛けて、その下で遊ぶことに。傘からはみ出てぬれてしまいましたが、叱られることはありませんでした。

「何かしてくれることはないけれど、やってることには何も言わない。遊びを否定しない。そんな母でしたね」

「楽しんで生きてる大人なんて周りにいない!」ショックを受けた高校生の言葉

ミュージカルの役者を目指し、玉川大学で演劇を専攻。卒業後、24 歳で結婚し、2 人の子どもを出産。家庭に入り、子育てに専念しました。

再び演劇に関わるようになったのは 35 歳の時。「劇団ひまわり」の俳優養成所の講師となり、幼児から高校生までに演技技術や表現手法を指導する仕事を始めました。

ある時、高校生のクラスで 1 人の男の子に出会いました。「全く何もやらず、ぶーたれていた」という彼に、中市さんは尋ねました。

「ここに何しに来てるの?学校じゃないから、無理に来なくていいのよ。あなたのやり方だと、周りの人は不愉快な気持ちになるよ」

すると、彼は怒りだしました。

「親に勉強させられて、私立中に入って、また勉強させられて。だから、高 1 の今だけは自由にさせてくれって親に頼んだんだ」「高 2 からまた塾なんだから、ほっといてくれ!」「こんな人生、楽しくない!」

驚いた中市さんは、彼にこう語りかけました。「今日より明日が楽しい。それが人生だし、私はそう生きてる」。すると、言い返されました。「人生を楽しんでる大人なんて、周りにいないじゃないか!」

「私たち大人は子どもにこう見られているのか」とショックを受けた中市さん。同じ頃、幼児クラスのお母さんからも子育ての悩みを打ち明けられ、「親子で楽しめる場」の必要性を感じました。ひとまず、教会を借りて読み聞かせを始めました。

活動は広がり、取り壊し予定の一軒家を借りて拠点にしました。「屋根に登ったり、壁に絵を描いたり。どうせ壊すんだから、何でもやっちゃえって。楽しかったですよ」

この頃、高知との縁ができました。大学の後輩に誘われ、高知で子ども向けにドラマワークショップ(ドラマワーク)を開催。その様子を見た日高村の保健師に誘われ、2008 年に日高村へ。発達障害の子どもたちを対象にした児童デイサービス事業の立ち上げに携わりました。

その後、拠点を田野町に移し、高知市、中芸地域、いの町の保育園・幼稚園を訪問し、遊びを通して子どもたちの育ちを支えています。田野町の地域子育て支援センター「遊分舎(あそぶんじゃ)」にはスタートから関わっています。

「自分の言うことを受け取ってくれる人だ」

中市さんが取り組むドラマワークとは、集団遊びに焦点を当て、自己表現を練習していく場です。

「実際にやってるのは遊びだけで、私は子どもの反応や自己表現を『それいいね』『それやってみよう』と受け取っていきます。そうすると、子どもは『この人は自分の言うことを受け取ってくれる人だ』と認識するんですね」

例えば、子どもが嫌がるお片付けも、強制はせず、自己表現を大事にします。「『片付けるよ』と言うと、怒ったり、泣いたりすると悩む親がいます。それを『親を困らせる反応だ』と受け止めず、『何かを表現している』と捉えると、見方が変わってきます」

子どもは大人のように冷静に「あと 10 分遊びたいから、片付けはその後で」とは言えません。「もっと遊びたいんだね」という気持ちを肯定することがまずは大事だそう。

その上で、「あとは『物は言いよう』です」。「片付けなさい」ではなく、「お片付けの時間になったよ。真帆さんは片付けるけど、どうする?」と子どもの気持ちを確認します。「『片付け』という言葉をあえて使わず、大きな布を出して、『大事な宝物をここに置いてもらいたいな』と遊びの延長にしてしまうこともありますよ」

子どもの困った顔は、何かが分かっていないサイン

「ドラマ」「自己表現」と聞くと特別な印象を受けますが、「自分の気持ちを外に出すこと。赤ちゃんでもやっています。息をしていれば、それはもう自己表現なんです」と中市さんは話します。

何をやっても『ダメ』と叱られ続けてきた子どもがいます。ドラマワークでそんな子どもたちの自己表現を受け取っていくと、子どもたちの背筋が伸びていきます。

「『雲の形が滴みたいだね』とか『風が気持ちいいね』とか、何でもいいんです。自分の気持ちを誰かに伝え、受け取ってもらえることで、生きていくのがとても楽しくなる。それは子どもも大人も一緒」

中市さんは子どもの困った顔を「何かが分かってない」というサインと捉え、「今、この子は何を考えているのかな?」と考えます。「誰かが自分を見ててくれるということが安心感につながります」「子どもの表情をよく見てください」と保護者や保育園・幼稚園の先生たちに伝え続けています。

これまでは東京と高知を往復し、毎月 2 週間ほど高知に滞在する生活を続けてきました。現在は新型コロナウイルスの影響で田野町を引き上げ、東京へ。高知を訪れる回数を減らし、オンラインも取り入れて活動を続けています。

「コロナで活動が全部ストップした時期は『もう何もやらなくていいかな』と気持ちが落ちました。でも、やっぱり生きていく楽しさを親子に伝えていきたい。制約がある中で、今できることをやっていこうと思います」

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 2 と年中児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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