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「ヤングケアラー」を知っていますか?子どもの「お手伝い」との違いは?

「ヤングケアラー」を知っていますか?子どもの「お手伝い」との違いは?

年上の子どもに家事や子育ての協力をお願いするのはいけないこと?高知県立大学の講演会から紹介します

「ヤングケアラー」を知っていますか?日常的に家族の世話や家事などを担う子どもたちのことで、高知県内でも 2022 年度、初めて実態調査が行われる予定です。

まだまだ認知度が低いこの問題について、ココハレ編集部にも「年上のきょうだいに、下のきょうだいのお迎えやお世話をお願いすることはヤングケアラーに当たるの?」「子どもに家事や子育ての協力を求めることはいけないことなの?」という質問が寄せられました。

「ヤングケアラー」と「お手伝い」は何が違うのでしょうか。ヤングケアラーの定義やケアを担う子どもたちの状況について、高知県立大学がオンラインで開いた講演会から紹介します。

 

高知県立大のオンライン講演会「ヤングケアラーを知る」は 2022 年 3 月 4 日に開かれました。講師は高知大学医学部家庭医療学講座の特任助教・福留惠子さんです。

「家庭医療」とは「家庭医」「総合診療医」と呼ばれる医師が提供する医療のことです。「外科」「眼科」のように特定の病気・部位を専門にするのではなく、その地域で暮らす人々の健康問題全般に関わっています。患者の病気や健康問題の背景を理解するため、その家族にもアプローチしていきます。

今回の講演会では、福留さんが家庭医、総合診療医の立場から、ヤングケアラーについて説明しました。

ヤングケアラーは、年齢や成長の度合いに見合わない責任や負担を負っています

ヤングケアラーとはどういった子どもたちのことを指すのでしょうか。日本ケアラー連盟は以下のように定義しています。

【ヤングケアラーとは】

年齢や成長の度合いに見合わない重い責任や負担を負って、本来大人が担うような家族の介護やケア、身の回りの世話を担っている 18 歳未満の子ども

 

定義では「18 歳未満」とされていますが、「 18 歳になったらケアラーでなくなるというわけではない」と福留さん。18 歳から 30 代のケアラーは「若者ケアラー」「ヤング・アダルト・ケアラー」と呼ばれています。

具体的には次のような役割を担っています。

【ヤングケアラーが担う役割】

  • 家事全般…障害や病気のある家族に代わり、買い物、料理、掃除、洗濯など
  • きょうだいの世話…家族に代わり、幼いきょうだいの世話
  • 見守り、声掛け…障害や病気のあるきょうだい、目を離せない家族の見守りや声掛け
  • 通訳…日本語が第一言語ではない家族や障害のある家族のために通訳
  • 家計の支え(勤労)…病気や障害のある家族を助けるため、働いている
  • 依存症への対応…アルコール、薬物、ギャンブル問題を抱える家族に対応
  • 看護、介護…服薬、たんの吸入、体位交換などの看護、排泄や入浴の世話、清拭、食事、移動介助などの介護

 

いわゆる「お手伝い」との違いについて、福留さんは「状況の違い」「頻度や時間の違い」「責任の度合いの違い」を挙げました。

お手伝いは「子どもが子どもとしての生活ができる範囲内で行うこと」です。自分の年齢に合う作業や、年齢よりもちょっと上の作業をすることで、子どもは褒められ、達成感を味わえます。

一方で、ヤングケアリングの問題点は「子どもや若者として想定される生活ができない」ということ。

「自分がケアをしないと、家族の生命や生活に直結します。年齢や成熟度に合わない、重過ぎる責任や作業であり、お手伝いと違って『やらない』という選択肢がないんです」「成長しきっていない体での排泄や入浴の世話は、肉体的なきつさとともに、思春期の子どもへの精神的負担も心配です」

中学生の17人に1人がヤングケアラーです

では、実際に「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちはどれくらいいるのでしょうか。福留さんは、厚生労働省が 2021 年に行った実態調査を紹介しました。全国の公立中 1000 校と全日制高校 350 校を抽出し、2 年生にインターネットで調査を行い、約 1 万 3000 人が回答しました。

その結果、中学生の 17 人に 1 人( 5.7 %)、高校生の 24 人に 1 人( 4.1 %)が「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話をしている」と答えました。

ケアを始めた時期は、中学生が平均 9.9 歳、高校生は平均 12.2 歳。「調査が行われた時点で、ケアを始めて既に何年もたっている」と福留さん。「子ども時代の 1 日、1 カ月、1 年は、大人の何倍も成長の機会があります。その長さ、重さを大人は知っておくべきではないでしょうか」

ケアをする相手のトップは「きょうだい」です

ヤングケアラーがケアをする相手で最も多いのは「きょうだい」で、中学生が 61.8 %、高校生が 44.3 %でした。理由は「きょうだいが幼いから」が約 7 割を占めています。

続いて多いのが「父母」で、中学生が 23.5 %、高校生が 29.6 %。父母にケアが必要な理由は多い順に「身体障害」「精神疾患・依存症」となっています。

平日の 1 日あたり、世話に費やす時間は中学生が平均 4 時間、高校生が 3.8 時間。福留さんは「子どもがケアに 1 日 4 時間割いているとした場合のスケジュール」を作成しました。

 

「学校の後で部活に行くとすると、家に帰ったらほとんど時間がありません。休みなしで走り続け、自分の時間は夜中になりますね」

自分の時間を確保するために睡眠を削った結果、遅刻や授業中に居眠りするケースや、介護で夜中に起こされて終始疲れているといったケースがあるそう。

他にも、「ケアでお弁当が作れないから、お弁当が必要な行事は休む。コンビニ弁当で済ませる」「部活に入れず、放課後や休日に友人と遊べず、友達付き合いに影響する」といったことが実際に起きています。ヤングケアラーの問題が子どもの健康状態の悪化や社会からの孤立に発展していくのはこのためです。

「普通の学生」でいたいから、「助けて」が言えません

一方で、実態調査では中学生の 60.5 %、高校生の 52.1 %が「世話をすることに、特にきつさは感じていない」と答えました。世話について相談した経験についても、中学生と高校生のそれぞれ 6 割が「ない」と答えています。

「ヤングケアラーは『しんどいセンサー』が故障中だと言われます。『相談するほどの悩みではない』『相談しても状況は変わらない』と思っていて、『助けて』がなかなか言えないんですね」

福留さんは、あるヤングケアラーの言葉を紹介しました。

  • 勉強や部活を頑張り、友達同士の話題にもついていける、それが“普通の学生”。周囲から、あの子の両親には障害があるせいで家のことをしなければならないから、普通の学生でいられないのだと思われることは避けたいと考えていました
  • 学校の同世代の人たちと歯車が合わず、無理に合わせようとすることをとてもみじめに感じていました。学校という場所で「異物」のようになっていく感覚がありました

(渋谷智子編「ヤングケアラーわたしの語り 子どもや若者が経験した家族のケア・介護」より引用)

 

「仮に子ども本人が何らかの障害を抱えることになった場合などは、周囲が気付いて介入しやすい」と福留さんは話します。しかし、ヤングケアラーの場合、ケアが必要なのは本人ではないため、気付きにくいという現状があります。

「毎日、目の前のことに対応していると、少しずつ社会から引きはがされ、自分の健康も崩していきます。ふと気付いた時には親しい友人も少なくなっていて、友人たちも自分のことで精いっぱい。ヤングケアラーのクラスメイトの存在は教室の中で少しずつ薄れていきます」

それでも、子どもが登校することで、子どもはケアの場から離れ、周囲の大人たちも子どもの様子から“異変”を感じることができていました。「コロナ禍で授業がオンラインになり、家庭の様子がさらに見えづらくなっています。ヤングケアラーもケアの場から逃れられなくなっています」

大人ができることは?

ヤングケアラーたちは「助けて」がなかなか言えない状況ですが、実態調査では「学校や大人に助けてほしいこと、必要な支援」について答えています。

【ヤングケアラーたちが望む支援】

  • 学校の勉強や受験勉強など、学習のサポート
  • 自由に使える時間が欲しい
  • 進路や就職など将来の相談に乗ってほしい
  • 自分の今の状況について話を聞いてほしい

 

学校や医療機関それぞれで、発見や支援のために役割が期待されています。医療、教育関係者でない人たちにも向けて、福留さんは大人たちがヤングケアラーに掛けがちな言葉を挙げました。

【ヤングケアラーの子どもたちが「悲しかった」と感じた言葉】

  • 「○○の面倒をみてあげて偉いね」…褒められてしまうと弱音が吐けませんし、「褒められ続ける存在であり続けなければ」というプレッシャーにもなりかねません
  • 「(障害のある)○○の分まで頑張ってね」…ヤングケアラーはもう十分頑張っています
  • 「家族だから、みてあげるのが当たり前でしょう」…もう「家族がみる」という時代ではありません
  • 「介護はあなたがやるべきことではないでしょ?」…あなたのジャッジは要りません

 

あるヤングケアラーは「自分が一人ぼっちではないということを確認したかった。話をちゃんと聞いてもらえればそれで十分だった」と話しました。

福留さんは「あなたは今、○○な状況にあって、今までずっと頑張ってきたんだね」「あなたのことを話してくれて、私はうれしかった」という声掛けを提案しました。「親を非難しないこと」も大事な点です。

子どもらしく生きる権利を回復できるように

福留さんは「ヤングケアラーはなくさなければならないものではありません」と話します。「子どもをラベリングするものでもありませんし、ケアを担っていることそのものはかわいそうなことではありません」。しかし、一方で、「子どもにとって大き過ぎる負担や責任が、子どもたち本来のしなやかでのびのびとした成長を奪ってしまっている」と危惧します。

ヤングケアラーの存在に早く気付き、子どもたちがケアについて安心して話せる場をつくること、家庭で担っているケアの作業や責任を減らしていくこと、そしてヤングケアラーについて社会の意識を高めていくことで、「ケアしながらであっても、子どもらしく生きる権利を回復し、子どもが自分の持つ能力を最大限発揮できるようにしていける」と語ります。

「私たちはお互いをケアし、ケアされる存在です。ケアの経験を彼らの『強み』にしていけるように、私たち大人が動きだしていきましょう」

きょうだいにお手伝いをお願いするのはいけないこと?

講演会の後、ココハレの読者から寄せられた質問について福留さんに聞きました。

【読者からの質問】

  • 年上のきょうだいに、下のきょうだいのお迎えやお世話をお願いすることはヤングケアラーに当たるの?
  • 子どもに家事や子育ての協力を求めることはいけないことなの?

 

【福留さんからの回答】

お手伝いをお願いすることはいけないことではありません。ただ、親として上のきょうだいへの配慮やケアは必要です

 

「ヤングケアラー」という言葉が普及するにつれて、「わが子をヤングケアラーにしてしまっているのでは」と感じる保護者も出てきています。福留さんは「結論から言えば、子どもにお手伝いをお願いすることはいけないことではない」と語ります。

ここで気を付けておかなければならないのが、きょうだいの生活や心理的な負担が大きくなっていないかどうか。「お迎えについても、年上のきょうだいが負担に感じていない、きょうだいに用事がある時には代われる人がいるといった状況であれば、家族が家族としての生活を心地よく回していくための術であって、責められるようなことではありません」

そのためにも大切なのが、上のきょうだいの思いを聞くことです。「子どもが常々我慢しているような状況になっていないか、親として配慮やケアを行ってください」

 

ヤングケアラーについていかがでしたか?家族の在り方は多様ですし、家族の仕事や病気、障害などさまざまな理由で、わが子の助けが必要な家庭もあります。福留さんのお話の中で「子どもは子どもらしく生きる権利がある」という言葉が心に残りました。のびのびと成長する時期にいる子どもたちの様子に気付き、必要な声掛けや支えができる大人でありたいと感じました。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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