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【ココハレインタビュー】「いるかひろば」理事長・土居寿美子さん|しんどい気持ち、安心して話して

【ココハレインタビュー】「いるかひろば」理事長・土居寿美子さん|しんどい気持ち、安心して話して

子どもの裏側には家庭がある。親子に寄り添う子育て支援センター「いるかひろば」理事長・土居寿美子さん

乳幼児とその家族に遊び場を提供し、子育ての情報提供や子育て相談を行う地域子育て支援センター。高知県内には 48 カ所あり、高知市六泉寺町の港孕保育園にある「いるかひろば」もその一つ。親子に寄り添い、じっくりと話を聞くことで知られています。

いるかひろばを運営する特定非営利活動法人の理事長で保育士の土居寿美子さんは「子どもの様子には裏側がある。子どもの裏側には家庭がある」と考え、支援に取り組んでいます。土居さんの生い立ちや子育てのこと、いるかひろばでの親子への関わりについて聞きました。

ココハレの「コラム」で、土居さんのコラム「こころのとびら」を掲載しています。

「自分が嫌い」。それはなぜ?

土居さんは 1961 年、高岡郡梼原町で生まれました。子ども時代は「常にビクビクしていた」そう。理由は父親にありました。

「父親は寡黙な人で、人とのコミュニケーションが苦手でした。気持ちの揺れが激しくて、私がテレビの前を横切るだけで怒鳴るような人。お酒を飲むと暴力を振るい、言葉で相手の気持ちをずたずたにするんです。虐待ですね。父親に怒られないように、怒られないように緊張しながら暮らす毎日でした」

「お母さんはどうしてこんな人と結婚したがやろ」と子ども心に疑問を感じていましたが、母親が父親の悪口を言うことはありませんでした。

中学 2 年生の頃、父親が自殺未遂を起こします。後遺症のため、家族への虐待はなくなりました。「これで怒られることがなくなった!」と土居さんはほっとしましたが、しんどさは続きました。「何でしんどいの?もうビクビクしなくていいのに」「私は何でこんな家に生まれてきたのか」。長い間抱えてきた思いは、ストレスへと変わりました。

「自分のしんどさを部活のバレーボールにぶつけていました。チームメートに嫌な思いをさせたかもしれないと今でも思います」

「しんどさを人のせいにしてしまった」という土居さんは「自分が嫌い。消えてしまいたい」と考えるようになります。そんな自分を変えるため、嫌いである理由を考えました。「人のせいにする自分が嫌い」「周りの目を気にする自分が嫌い」「一人にならないために、人の陰口を言う場にいる自分が嫌い」。

自分が嫌いな理由とは逆の行動をすれば、自分を変えることができるのではないか。「何があっても人のせいにしない」「人の目を気にせず行動する」「陰口を言わず、言いたいことは本人に言う」。この三つが土居さんの人生の目標となりました。

息子も夫も「超個性的」

「私のことを知らない場所で、目標に向かって進みたい」と考え、高校を卒業後は県外へ。昼間働き、夜間学びながら、保育士の資格を取りました。卒業後は、母親の求めで梼原町に帰ります。町内の介護施設で働き、24 歳で結婚。翌年、長男を出産しました。

「長男はよく動くし、よく泣くし、全く寝ないし。ずっと抱っこしっぱなしでした。2年後に生まれた次男は育てやすいし、床に転がしても大丈夫。『あぁ、これは子どもによって育て方を変えないといけないんだ』と感じました」

長男はみんなと一緒にいるのが嫌で、ぽつんと一人でいることを好みました。近所の人から「弟はあいさつできるのに、お兄ちゃんはできんかね」と言われることも。「親の育て方が悪い」「育児ノイローゼ」。必死になって育てる土居さんは周囲からそんな言葉を掛けられました。

「長男の子育ては手がかかりましたが、思春期を過ぎた頃から彼の個性が開花し、彼を気に入ってくれる友達もできました。今は世間の物差しを持たず、自分のしたいことを貫いていて、私が教えられることもしばしばです」

ちなみに、「夫もこだわりが強く、超個性的」だそう。「個性って何だろう」と考え、悩みながら家族に向き合ってきた日々が、後の仕事につながります。

37歳で誘われ、保育士に

子育てで必死だった土居さんにこの頃、「保育士として働きませんか」という声が掛かります。資格は取っていたものの、保育士のキャリアはほぼゼロ。「できません」と固辞しましたが、何度も誘われ、働くことを決意。37 歳で「保育士 1 年生」となりました。

配属された保育所では、一人の親として想像していたものとは違う保育の現実がありました。

「例えば、お友達の頭をたたいたり、ぺっと唾を吐きかけたり。そんな行動を取る子どもに対し、『そんなことをしたら駄目』と、その行動だけを怒っていたんですね。『なぜお友達の頭をたたくのか』『どうして唾を吐きかけるのか』と、行動の理由を考慮していないことに驚きました」

それでも、「子どもの気持ちを分かりたい」と取り組む先輩保育士に出会い、土居さんもその道を歩み始めます。数年後、年少児クラスの担任に。「やんちゃなクラス」「けんかが多い」「大変」とマイナス評価をされていた子どもたち。その中でも、マコト君(仮名)は「すぐ手が出る」と言われていました。

「けんかをするたびに、私の膝に抱っこして話を聞くことを繰り返しました。『しんどいよねぇ。そういう時は土居先生に言うて』『お友達をたたきたくなったら、先に土居先生の所に来て』って」

ある時、イライラが募ったマコト君は土居さんの前で叫びます。「マコトは寂しいがやき!」

翌日、マコト君の家を訪問した土居さんは、マコト君の両親が不仲で、お母さんがそのストレスを子どもにぶつけてしまうことがあることを知りました。「子どもの行動の理由には家庭の状況がある」と知り、保育において「家庭」を意識するようになりました。

2005 年から港孕保育園で勤務。07 年、いるかひろばの立ち上げとともに担当になりました。保育園と違って、支援センターで親子が一緒に過ごす様子を見るようになり、確信しました。

「子どもの様子には裏側がある」「子どもの裏側には家庭がある」

大人も泣いていい

いるかひろばのスタートから 13 年。現在は運営が特定非営利活動法人に移り、土居さんはその理事長を務めています。体制は変わりましたが、「しんどい思いを聞くことで、気持ちを整理してもらう」といういるかひろばのスタンスは変わりません。

「例えば、近寄りがたい雰囲気のお母さんが子どもを連れてやってきます。『私に話しかけないで』というオーラが出ていますが、いるかひろばに来ている。そんな時は、さりげなく横に座ります。すると、『いや、実は…』とお話してくださいます。『夫婦げんかをしてイライラして、子どもに手を出してしまったんです』。お母さんの気持ちを反復しながら聞いていたら、『あー、スッキリした!』と、ニコニコしながら帰られます」

時には泣きながら話すお母さんもいます。土居さんは背中をさすりながら、うんうんと話を聞きます。「泣くということは、思いを出しているということ。『安心して泣いてください』と伝えています」。泣いているお母さんがいれば、他のお母さんたちは干渉することなく、「あのお母さん、どうしたの?」とひそひそ話すこともなく、そっとしています。大人も泣いていいんだ、ここで泣くのは普通のことなんだ、という環境。

「私も子育てがしんどい時、自分の気持ちを周囲に話したことがあるんです。『誰にでもある』『病んじゅうね』と流されて受け止めてもらえず、話すのをやめました。でも、しんどい気持ちを打ち明けないことが自分の首を絞めました。お母さんたちに私のような気持ちになってほしくない。気持ちを 100 パーセント出してもらって大丈夫です」

全ての経験が私の財産

土居さんは自分の子ども時代を振り返り、「父のことを嫌いにならなかったのは、母のおかげ」と考えるようになりました。

「家族のこと、子育てのこと、保育士としての経験。全てが私の財産になっています。父と母がいたおかげで、今の私がいる。全てが必要な経験で、何一つ欠けても、今の私にはなっていなかったと感じています。この思いに到達するまでに、時間はずいぶんかかりました」

子育てで悩むお母さんの中には、虐待やそれに近い経験をした人もいます。自分が親にされて嫌だったこと、言われて嫌だったことをわが子にしてしまう人もいます。土居さんは「時間はかかるかもしれませんが、ゆっくり考えていきましょう」と呼び掛けています。

「子どもの心を育てるには、いいことも悪いことも経験させていかないといけない。その様子を見守るのがしんどいんですね。だから、『一緒に見守りましょう』という場所がいるかひろばです。ここに来たら子育ての悩みがすぐに解決するというわけではありませんが、しんどい思いは共有できます。『子育てはこうあるべきだ』と私たちの思いを押しつけるのではなく、お母さん、お父さんがどういう子育てをしたいのかを大切にしています。愚痴を言いながら、あの手この手を一緒に考えていきたいです」

いるかひろばで毎月発行しているお便りには、最後に必ずこう記されています。「いるかひろばは みなさんの子育てを 応援しています」

土居さんに相談したい場合は、高知市地域子育て支援センター「いるかひろば」に問い合わせてください。

地域子育て支援センターいるかひろば

  • 住所:高知県高知市六泉寺町22
  • 電話:088-834-1484

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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