【つむサポ講座】「座る」という動作、意識していますか?おなかを使っていますか?|病気や障害のある子どもへの支援を考えました
高知の新しい子育て支援「みんなでつむサポ」から、「スマイル・サポートこうち」の第4回講座を紹介します
高知県の子育て支援「みんなでつむサポ」。2022 年度も県内各地で「つむサポ講座」が開かれています。
「Smile Support Kochi(スマイル・サポートこうち)」は「心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座」を 5 回シリーズで開催しています。4 回目は「座る」をテーマに考えました。
皆さんは普段、意識して座っていますか?「座る」という動作を丁寧につくっていくことは、病気や障害のある子どもへの支援ではとても大切です。しっかり座れるようになると、視線が変化し、興味が広がっていきます。
目次
スマイル・サポートこうちは、病気や障害のある子どもを育てる家族のサークルです。つむサポ講座「心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座」は、体からのメッセージをテーマにした 5 回連続のオンライン講座です。
【心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座】
- 9 月 18 日(日):「重力を感じる」ということ
- 10 月 16 日(日):「バランスをとる」ということ
- 11 月 20 日(日):「手で感じる」ということ
- 1 月 15 日(日):「座る」ということ
- 2 月 19 日(日):「移動する」ということ
講師は、訪問看護ステーション「おたすけまん」(高知市)の理学療法士・川上英里さん。「ボバース概念」というリハビリのアプローチ方法を用いて、患者の要望を取り入れながら、姿勢や動きを改善させています。
また、先天性の筋疾患で医療的ケアを受けている小学 6 年生・中越菫太(ぎんた)君の母・文枝さんがトークセッションパートナーとして参加しています。
第 4 回は「座る」という動作について考えました。
わが子のリハビリを振り返り 「『座る』という意味が分かっていませんでした」
まず、スマイル・サポートこうち代表の山下君江さんと中越さんが「座る」をキーワードに、わが子のリハビリを振り返りました。
山下さんの次男・皓義(こうき)さんは生まれてすぐに「脳性まひ」と診断されました。妊娠中の交通事故が原因でした。
皓義さんは体の緊張が強く、ベッドに下ろすと、のけぞって泣きました。
「体のいたる所にセンサーがありました。生後 6 カ月までは床やベッドで寝られず、家族が交代であぐらをかいて、その上で生活していました」
生後 9 カ月でバウンサーを取り入れ、やっと手が離せるようになった山下さん。食事は、床に座った山下さんに皓義さんがまたがり、山下さんの太ももを背もたれにして座るという方法で取り組みました。
皓義さんを座らせる際、山下さんは「頭を支える場所はどこだろう?」と感じたそうです。座っても唾液の嚥下(えんげ=飲み込み)が上手にできないという悩みもありました。
ですが、「本人にとって、座るのは楽しい刺激で、表情がよくなり、活動への興味も出てきました」と山下さん。そして、こう語りました。
「当時の私は経鼻・経管栄養を選ばず、スプーンで食べさせていました。あの頃、医療的ケアをもっと受け入れられていたらなと、今では思います」
「体の緊張が強かった」という皓義さんとは対照的だったのが中越菫太君。筋肉の病気のため、「体がだらっとゆるんで、操り人形みたいな状態でした」と中越さんは振り返りました。
低緊張に加え、第 1 子だったこともあり、難しかったのが抱っこでした。「体をお尻や骨盤に集めながら抱っこした」そうです。
菫太君を座らせると、しんどがって泣いたそうですが、中越さんは座らせることにこだわりました。
「まだリハビリの知識も病気予防の知識もなく、座る時間の長さのみに執着していました。長ささえあればどんどん座れるようになる。座れるって偉い、みたいな」
そんな中越さんを変えたのが、川上さんです。菫太君の様子を見て、中越さんに声を掛けました。
「菫太君、きちっと座れてないよ。どこで座ってるの?」
子どものサインを読み取るのが、支援者の役割です
川上さんがリハビリで大事にしているのが「抗重力性欲求」です。全ての子どもは赤ちゃんの頃から「自分で起きたい」「自分で動きたい」と望んでいます。障害の重い子どもも同じです。
子どもの気持ちを読み解く本質を「感じること」と川上さんは説明しました。
「自分で起きたい」「自分で動きたい」という気持ちを実現させていくために、川上さんは自らの手で、子どもに感覚を入力していきます。
「手を触っていくと、子どもは『あっ、この筋肉は動くんだ!』『自分の手ってこんなに軽いんだ!』と気付きます。認知することが発達につながります」
赤ちゃんが安定し、安心する抱っことは?
子育てをしていると、親が「何か違う」と感じる場面があります。ですが、その原因に気付いて改善するのが難しい場合もあります。
赤ちゃんの頃の泣きもその一つ。「ずっと抱っこしているのに泣きやんでくれなかった」という経験はありませんか?
「赤ちゃんは欲求が充足しないと、泣いて訴えます。親は原因が分からないから困惑するし、睡眠不足になるし、『何で私だけ…』と冷静に子どもを見られなくなる。抱っこに力が入り、赤ちゃんが余計に緊張するという負のスパイラルに陥ります」
負のスパイラルを防ぐのが川上さんたち支援者の役割です。「子どものサインをキャッチし、親御さんに伝えていきます」
赤ちゃんの情緒が安定する抱っこの仕方は、次の通りです。
【赤ちゃんの抱っこ】
- 赤ちゃんが屈曲姿勢になるように包み込む
- 柔らかい素材で包む
- 後頭部を屈曲させる
- 肩が後ろに下がらないようにする
- 腰が反らないように丸くする
- 保護者に触れる接触面を多くする
こちらの抱っこは屈曲姿勢が取られています。
「抱っこする側が緊張していますね。子どもを抱っこする際は、おなかを意識してください。もう少し接触面を多くすると、より安心、安全に抱っこでき、赤ちゃんが落ち着くと思います」
病気や障害があると、「体が反り返りやすい」「体が緊張している」「低緊張で支えにくい」など、悩みが増えます。川上さんがポイントを紹介しました。
【子どもの体の特徴に会わせた対応】
- 反り返りやすい…脇の下から抱え上げると、急に空中に体が浮き上がったような感覚になり、反り返ります。両足を曲げて、お尻に体重を移してから体を起こしましょう
- 低緊張…背中がぐらぐらして、お尻も落ちやすいです。両手をおなかの前で合わせ、骨盤部をしっかり支えましょう。足を曲げて体に寄せてまとめると、体が安定しやすいです
- 屈曲優位の緊張…急に手足を伸ばすと、余計に緊張します。抱っこする前にベッドにあおむけにして体の緊張を緩ませると、抱っこしやすいです
「きちんと座る」とは?自分の体で考えてみましょう
抱っこを見直したところで、今回のテーマ「座る」。川上さんは参加者にこう問い掛けました。
「皆さん、きちんと座っていますか?」「おなかを使って座っていますか?」
「座る」という動作も、普段何も意識せずに行っています。意識していない分、実は何かに頼っているといるのだそうです。
「私も気付いたらそうなのですが、デスクにもたれかかって、顎を上げて、ずっこけ姿勢で座ってしまっています。本当はしっかり筋肉を使わないといけないのですが」
リハビリでは、支援者や介護者がその動作に必要な筋肉や動きを自分の体で感じ、理解することが大切だそうです。
「きちんと座れてないよ」で始まった菫太君のリハビリでは、「体はつま先から頭の先までつながっている」という考え方に基づき、体に感覚を少しずつ入力していきました。
「座る」という動作では、座骨を認識していくことを繰り返しました。菫太君は自分が体のどの部位を使って座っているか、どうすれば安定するかを体験していきました。「姿勢が安定すると、活動できる」ということにも気付きました。
今では「ちょっとずれてるな」という状態を自分で認識し、「ずれている」と周囲に伝えているそうです。
座れるようになると、興味や活動が広がります
人は座ることで、両手を自由に動かせます。寝ている姿勢よりも周りがよく見渡せます。
第 4 回では、菫太君に長年関わってきた作業療法士、言語聴覚士の皆さんも登場し、リハビリを振り返りました。
言葉やコミュニケーション、嚥下も体の安定が基本になるそうです。言語聴覚士さんはこう語りました。
「座ると、視野が広がり、いろんな物が見え、興味が広がります。表情筋の活動もよくなります」
「人間は常に発達していきたいんです。姿勢が安定することで、『発達していきたい』という思いがどんどん実現していきます」
第 4 回には脳性まひの当事者の方が「自分の体のことを知りたい」と参加していました。リハビリ中に「力を抜いて」と言われるそうですが、「力を抜く感覚が分からない」と話していました。
その人がどんな体の状態なのか、何を感じているのかを完全に理解するのは難しい中で、理学療法士さん、作業療法士さん、言語聴覚士さんはそれぞれの専門性を生かし、その人のサインを読み取り、「発達したい」という思いに応えています。
相手を理解し、支えていくには、多角的な視点や専門性が必要だと感じた講座でした。
最終回のテーマは「移動する」です。2 月 19 日(日)に開かれます。
「心をそだてる・生きる力をはぐくむ講座」の記事はこちら
①病気や障害のある子どもの生きる力を育むには?「重力」から考えました