乳幼児の中毒は9割が「誤飲・誤食」。薬、洗剤、保冷剤からヘビまで、子育て世代が知っておきたい注意点とは
「中毒」は私たちの身近にある!日本中毒学会学術集会の市民公開講座から、子どもにまつわる事例を紹介します
「中毒」と聞いて、皆さんはどんなことを思い浮かべるでしょうか?薬を間違って飲んだり、薬剤の使い方を間違ったり、多くが家庭内など私たちに身近な場所で起きています。
乳幼児では「誤飲・誤食」が 9 割を占めています。子どもからちょっと目を離した隙に、薬や洗剤、保冷剤などを口に入れていた…という事例が多いそうです。ヘビにかまれたという事例もあります。
子どもの中毒は「大人が注意すれば防げる」と言われています。高知市内で開かれた日本中毒学会学術集会の市民公開講座から、お父さん、お母さんが知っておきたい知識を紹介します。
目次
日本中毒学会学術集会の市民公開講座は 2022 年 7 月 16 日、高知市本町 4 丁目の高知県立県民文化ホールで開かれました。
高知大学医学部災害・救急医療学講座教授の西山謹吾さんが司会を務め、5 人が講演しました。
- 「救急救命士教育」:田辺晴山さん(救急救命東京研修所教授)
- 「家庭内の中毒、身近な中毒」:波多野弥生さん(日本中毒情報センター大阪中毒110番)
- 「小児の医薬品誤飲」:寺内真理子さん(JAとりで総合医療センター小児科医師)
- 「身近な毒ヘビとその被害について」:堺淳さん(日本蛇族学術研究所)
- 「高知県の中毒状況」:盛実篤史(高知医療センター救命救急センター副センター長)
5 人の皆さんの講演から、子育てに関わる情報を中心にご紹介します。
乳幼児の中毒は、どの家にでもある物で起きています
日本中毒情報センター大阪中毒 110 番の波多野弥生さんは、家庭内の中毒について語りました。
「中毒 110 番」とは、中毒に関する問い合わせに薬剤師らが対応する電話相談窓口です。受診の必要性と対応に関してアドバイスをしています。「つくば中毒 110 番」と「大阪中毒 110 番」があり、2021 年は 2 万 6000 件以上の相談が寄せられました。
相談のうち、半数が 1~5 歳に関することで、9 割が家庭内(居住内)で起きています。
中毒が起きる状況は年齢によって違います。乳幼児の場合は 9 割が「誤飲・誤食」です。講演ではよくある事例が紹介されました。
【乳児の誤飲・誤食】
- ソファの上に置いていた父親の加熱式たばこをつかまり立ちして手に取り、口に入れていた( 8 カ月)
- 母親が子どもに塗り薬を塗った後、ふたを閉めたチューブを持たせていた。口でふたを外したらしく、気付いたらふたが口の中にあった( 11 カ月)
- テレビ台に置いてあったポトスの葉をちぎって、3センチほど食べてしまった。取ろうとしたら、飲み込んでしまった( 7 カ月)
幼児になると、行動範囲が広がります。
【幼児の誤飲・誤食】
- 高さ 1 メートル以下の戸棚に置いてあった洗剤の箱を子どもが取り、ふたを明けてパック型洗剤を取り出した。なめたようだ( 2 歳)
- 子どもが頭を打ったので、保冷剤で冷やした。「自分で持つ」と言うので持たせていたら、保冷剤をかみ始め、出てきた中身を少量飲み込んでしまった( 2 歳)
- 母親のかばんに入れていたポーチから市販の鎮痛薬のシートを取り出し、かじりながら中身を取り出したようだ。2錠分入れていたが、1 錠しか残っていない( 2 歳)
「子どもは何にでも興味があります。化粧品、文具、クレヨンも大好きで、わざわざ口に入れます」と波多野さんは説明しました。
大人になると、子どものような誤飲・誤食は減りますが、「ついうっかり」で中毒が起きます。
【大人の中毒…ついうっかり】
- ぼーっとしていて、ジュースと間違えて食器用洗剤をコップに入れ、炭酸水で割って飲んだ。喉がヒリヒリして、2 回嘔吐(おうと)した( 34 歳)
- ペットボトルに入れて分けてもらった手指消毒用のアルコール剤を水と間違えて口に入れた( 23 歳)
- 窓を開けた部屋でレインコートに防水スプレーをかけたら、臭いが家中に漂い、子どもがせき込んだ。屋外で使用するものだと後から知った( 3 歳児の家族)
どの事例もちょっとした不注意や誤解から起きています。「中毒は決して人ごとではありません」と波多野さん。「もし起こった場合は、場合によっては受診が必要です。中毒 110 番にぜひ問い合わせてください」
【日本中毒情報センター】一般の人は無料で相談できます
- 大阪中毒 110 番( 24 時間対応):072-727-2499
- つくば中毒 110 番( 9:00~21:00 ):029-852-9999
医薬品の誤飲を防ぐには?薬を子どもの視界に入れないこと
小児科医の寺内真理子さんは、子どもの医薬品誤飲について解説しました。
「誤飲は子どもによくある事故の一つ」と寺内さん。どの誤飲も気を付けなければいけませんが、医薬品の場合は「たった 1 錠で子どもを死に至らしめる可能性がある薬物があります」。こういった医薬品は「one pill can kill a child(1-pick)」と呼ばれています。
寺内さんは以前勤めていた病院での症例を分析しました。1-pick薬として挙げたのは、循環器系の薬や抗うつ薬。親や祖父母など、大人が処方されたものを飲んでしまうという事例が大半です。
医薬品の誤飲のほとんどが家庭内で起きています。例えば次のような状況です。
【子どもの医薬品誤飲】
- おじいちゃんが薬を飲んでいるのを見た。手の届かないテーブルに置いていた薬を、わざわざ踏み台を持ってきて手に取って飲んだ
- 親が薬を飲もうと思って準備したら、電話が鳴った。対応している隙に、子どもが口に入れていた
- 食品用のファスナー付き保存袋に入れていた薬を、お菓子と間違って飲んでしまった
帰省やパーティーなど、非日常のイベントの際は特に注意が必要だそうです。誤飲の予防法は「シンプルに、薬を子どもの視界に入れないこと」と寺内さん。
「何でも手に取って口に入れて確かめるのが子どもですし、親が薬を飲んでいると、まねしたがります。子どもに薬を飲ませる際は、準備したらすぐに飲ませて、手の届かない所や鍵の掛かる所に片付ける。大人が飲んでいる姿を見せないことも大事です」
マムシ、ヤマカガシ…ヘビの中毒にも注意。素人判断で近づくのは危険です!
屋外で起こる中毒の一つに「毒ヘビにかまれる」があります。日本では毎年、少なくとも 3000 人ほどがヘビにかまれ、5 人ほどが亡くなっているそうです。
毒ヘビの研究で知られる日本蛇族学術研究所の堺淳さんは、身近な毒ヘビについて語りました。
国内で中毒被害を引き起こす毒ヘビの多くがマムシです。ヤマカガシによる被害も報告されています。
一目見て、「これはマムシだ」と分かればいいのですが、「同じ『ニホンマムシ』という種類でも、色が全く違います。私たちでもぱっと見て分からない時があります」。「素人判断が最も危険」だそうで、「本当はマムシなのに、毒のないアオダイショウだと判断したため、治療が遅れるという事例も起きています」。
ニホンマムシが活発に活動するのは 7~9 月。「農家が農作業中にかまれるというイメージがあると思いますが、一般の人も意外にかまれています。郊外ならどこにでもいます。玄関先、庭でという事例もあります」
マムシの牙は 5 ミリほど。かまれても気付かないぐらいのちくっとした痛みですが、「牙には注射針のような機能あり、一瞬で体内に毒が入る」そうです。
子どもの場合は、虫取りで草むらに入った際にかまれた事例が報告されています。最近は危険生物や有毒動物に興味を持つ子どもが多く、「わざわざ自分で捕まえに行ってかまれた」というケースもあります。
予防法としては「ヘビに手を出さないことが一番」と堺さん。次の注意点を挙げました。
【ヘビにかまれない対策】
- 昆虫採集、ホタル観察などの際は必ず靴(できれば長靴)と長ズボンで
- 昆虫採集の際に、倒れた木の下や石の下などに直接手を入れないで
- ヘビは水辺にやって来るので、川や池の近くではサンダルで草むらに入らないで
- キノコや山菜採りでは、手を出す前に棒などでマムシがいないことを確かめて
- 郊外では夏の夜間、庭や駐車場などにもマムシが出ます。周囲を明るくして確認を
救急搬送の現場から…原因不明の中毒症状が2人以上ならば2次被害にアンテナを
救急救命東京研修所の田辺晴山さんは救急救命士を教育する立場から、2 次被害を起こす中毒について語りました。
2 次被害とは、助けに向かった人にも中毒被害が起きてしまうこと。例えば以下のような事例です。
【中毒の2次被害事例】
「女性が苦しがっている」と 119 番通報があった。何かを飲んだらしい。病院に運び、胃を洗浄すると、嘔吐した。刺激臭が周囲に漂い、医師らが慌てて避難した
この事例では、女性が「石灰硫黄合剤」を飲んでいました。石灰硫黄合剤はかつて農薬として販売されていて、胃の中で胃酸と反応し、有毒ガスの「硫化水素」として体内から出たそうです。
有毒ガスによる中毒は、一酸化炭素中毒など身近で起こり得るものから、「松本サリン事件」「地下鉄サリン事件」のように化学物質などを使ったテロ事件までさまざまです。
化学剤や放射性物質、爆発物などによる災害は「CBRNE(シーバーン)災害」と呼ばれています。救急の現場では、原因不明で倒れた人が 1 人であれば通常の対応をしますが、2 人いればCBRNEを疑い、3 人以上ではCBRNEと判断して安全を確保するそうです。
このほか、「動物や鳥、魚など人以外にも異常が起きている」「植物が枯れている」「不審物がある」といったこともサインになるそうです。一般の人には判断が難しいですが、参考になりそうです。
高知県の状況は?中毒で年間400~600人が救急搬送されています
高知医療センターの救命救急センターで副センター長を務める盛実篤史さんは高知県内の中毒状況について紹介しました。
高知県内の救急搬送のうち、中毒を原因とする症例は年間 400~600 件ほど。割合は救急搬送全体の 1 %ほどで、「熱中症と同じぐらいですね」。飲料用アルコール、つまりお酒での搬送が圧倒的に多いそうです。
最近あった中毒事例も紹介されました。
- 加熱式たばこを子どもが食べてしまった
- カフェイン含有量の多い栄養ドリンクとタブレットを短時間に大量摂取した
- ペットボトルに移し替えていた農薬を、認知症の家族が誤って飲んだ
子どもについては全国の傾向と同じで、家庭にあるものを誤飲・誤食する事例が多いそうです。
高齢者による薬の誤飲を防ぐため、またアルコールや薬物の過剰摂取を防ぐため、多職種で連携する高知県の取り組みも紹介されました。
子どもの誤飲・誤食には日頃から注意をしていますが、薬の管理などあらためて見直す必要があるなと、今回の取材を通して感じました。
中毒を防ぐためには、事例を知っておくことも大切だそうです。参考になさってください。