「他の子と同じ」でなくていい|子育ての悩みに寄り添う土居寿美子さんコラム「こころのとびら」⑩
高知市の子育て支援センター「いるかひろば」の土居寿美子さんが子どもへの関わり方を紹介します
子育てで困った時、悩んだ時、相談に乗ってくれるのが地域子育て支援センターです。
コラム「こころのとびら」は、高知市の地域子育て支援センター「いるかひろば」を運営する特定非営利活動法人の理事長、土居寿美子さんが執筆。たくさんの親子に寄り添ってきた経験から、わが子への関わり方を紹介します。
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しゃべらず、黙々と遊んでいたA君
時々、街でばったり出会うA君という男の子がいます。いるかひろばが大好きで、よく来てくれていました。
3 歳ぐらいの頃のA君はおもちゃを両手に持ってクルクル回して遊ぶこと、部屋の中をグルグル走ることが大好きでした。言葉を発して遊ぶことはせず、黙々と遊んでいました。
いるかひろばでは毎日、11 時半くらいに「あつまりの時間」を行います。歌を歌ったり、手遊びをしたり。最後に「ばいばいまたね」という絵本を読んで「おしまい」の区切りをします。自由参加ですが、ほとんどの保護者が子どもを膝の上に座らせて、「参加してほしい」という思いを子どもに伝えます。そんな時は「子どもの好きなようにさせてあげてくださいね」と伝えています。
強制をしなくても、ほとんどの子どもは寄ってきます。参加の仕方は一人一人違っていて、興味のない歌や絵本があると参加しません。自由にしてもらうことで、何に興味があるかということや、興味があってもそこにいたくないなどの様子が分かります。
A君は「あつまりの時間」にはいつも自分の好きな隅っこで過ごしたり、ウロウロしたりするのが好きでした。絵本の時も絵本を見ている様子はなくて、別の場所で過ごしていました。
「ばいばいまたね」という絵本には「のっこのっこかめさん、ばいばい」というフレーズがあります。ある日、私はこのページを飛ばしたことに気づかず、次のページを読みました。すると、A君が私の前にトコトコやってきて、ぼそっとこう言いました。
「かめ」
私はA君が「かめのところを飛ばしたよ」と教えてくれたと気づきました。A君のお母さんは、A君の遊び方や、人と上手に関われないことを気にしていたけれど、A君は自由に遊びながらも周りの状況を理解していたのです。感動のあまり、涙が止まらなかったことを今でも昨日のことのように覚えています。
大人はつい、「お話ができる」「読み聞かせの時に座る」といった子どもの表面的なところに注目をしてしまいます。他の子どもと同じようにできないことがあると、そこに気が行き、「こうしなさい」と強制しがちです。そういう関わりは、子どもも親もしんどくなっていくと思います。
一人一人の個性に目を向け、丁寧に見ていくと、「何が得意で、何が苦手か」ということに気が付いていきます。いるかひろばでは今、保護者向けに「ペアレント・プログラム」を行っています。この講座の目的は「𠮟らなくていい子育て」です。自分と子どもの個性を知ることで、苦手なことへの対応を考えていけるのです。
今やA君は、思春期の入り口に差し掛かっています。いるかに来ることはありませんが、うれしいことに私のことを覚えてくれています。A君の一番の理解者であるお母さんも時々、近況報告をしてくださいます。
私はこれからも、A君の成長を見守っていきたいと思います。