子育て
アイコン:子育て

嫌なことを「嫌」と言えますか?|土居寿美子さんコラム「こころのとびら」③

嫌なことを「嫌」と言えますか?|土居寿美子さんコラム「こころのとびら」③

利用者の気持ちに寄り添う支援を。高知市の地域子育て支援センター「いるかひろば」理事長、土居寿美子さんのコラムです

わが子との毎日。穏やかに、楽しく過ぎる日もあれば、うまくいかず、イライラしてしまう日もありますね。子育てで困った時、悩んだ時、相談に乗ってくれるのが地域子育て支援センターです。

ココハレのコラム「こころのとびら」では、高知市の地域子育て支援センター「いるかひろば」を運営する特定非営利活動法人の理事長、土居寿美子さんが執筆を担当します。土居さんはいるかひろばで 10 年以上にわたり、たくさんの親子に寄り添ってきました。「ご飯を食べてくれない」「おむつが外れない」「また怒り過ぎてしまった」…。そんな悩みを打ち明ける保護者とのエピソードをもとに、わが子への関わり方を紹介します。

これまでのコラムはこちら

「お母さんに甘えたかった」

先日、また幼い命が奪われてしまいました。「虐待死」という悲しいニュースが繰り返されています。

テレビや新聞、インターネットでは虐待をしてしまった親を批判するコメントが大半を占めています。もちろん、決して許される行動ではありません。でも、私は虐待の事件を知るたびに、「保護者や子どもは『SOS』を発信できていたのだろうか」「発信されていたならば、どうしてキャッチすることができなかったのだろうか」と考えてしまいます。

虐待のケースによっては、虐待をする親もまた、自分が子どもの時に虐待を受けたり、それに近い経験をしていたりするということが指摘されています。いるかひろばの利用者の中にも、幼少期のつらい経験がありながらも、わが子と向き合い、懸命に子育てをされている保護者がいます。

その方たちは、いるかひろばで最初から自分のつらい思いを話してきたわけではありません。これまでの人生で、どれほどの人にSOSを出せていたのだろうかと思います。SOSを出せたとしても、悲しいかな、それが違う形で受け止められ、「言わなきゃよかった…」と諦めの境地に至っていた人も少なくありません。

SOSを出せなかった人、SOSを理解してもらえなかった人に共通することの一つが「甘え」の経験です。親に甘えることができないまま大人になり、親になった人がいます。そして、わが子を前にした時に戸惑い、混乱しているのです。

 

■Aさん…30代のお母さん

Aさんは小さい時から、お母さんの気持ちを振り向かせるために、「お母さんの喜ぶいい子」で育ちました。

虫捕りや泥んこになって遊ぶことが大好きだったのですが、彼女の母親にとってはしてほしくないこと、イライラすることで、「汚い」「やめて」と否定されました。母親に叱られるのが嫌で、自分の気持ちを我慢し、母親の言うことばかりを聞く毎日。成長していく中で、彼女の心はだんだんと崩れていき、思春期頃にはうつ病を患いました。それでも、彼女のしんどい気持ちは母親には届きませんでした。

今のご主人はそんな彼女を全部ひっくるめて受け止めたそうですが、気持ちの浮き沈みは続きました。

棚でこっそり。内緒話?(いるかひろば提供。写真と本文は関係ありません)
棚でこっそり。内緒話?(いるかひろば提供。写真と本文は関係ありません)

子育てでも戸惑いの連続でした。わが子が泣いていると、「どうして泣けるの?」と嫉妬にも似た思いがわき出て、混乱したそうです。

いるかひろばでいろんな話をしてくれるようになり、私はその都度、ただひたすら彼女の話したいことを傾聴していました。そんなある日、いつものように話をする中で、彼女は感情を抑えられなくなりました。

「私はただ、お母さんに甘えたかっただけやき!」

まるで子どものように泣き叫びました。私は思わず彼女をハグし、「そうか、甘えたかったがか…。いっぱい泣いてね…」と2人で泣きました。

その日から、彼女の「育ち直し」が始まったような気がします。「育ち直し」と言っても、すごくシンプルです。「自分で考えて行動する」「うれしい、楽しい、嫌だ、しんどいといった自分の感情を信頼する相手に伝える」ことの繰り返しです。その様子を見守り、傾聴しながら、彼女がいかに自分の意思で行動できなかったのか、思いを外に出せなかったのかということを思いました。

1 年くらいたち、気が付くと、うつ的なことはほぼなくなり、病院に行かなくてもよくなったそうです。子育てではうまくいかないこともたくさんあるようですが、あの手この手を使いながら、分からない時は誰かに聞きながら、毎日奮闘しているようです。

そして何より、わが子にたっぷり甘えさせています。例えば、言うことを聞いてほしくて泣く子どもを前にどうしていいか分からなくなっても、子どもに思い切り泣かせて一緒に泣いたり、自分が子どものころにできなかった虫捕りを一緒にしたり…。地道ではありますが、彼女のしんどい気持ちが少しずつほどけていっているように感じます。自分で自分の「育ち直し」をされているということを見させてもらっています。

いるかひろばでは、それぞれの保護者に合わせて関わる中で、自分が子どもの時に親からされた嫌だったこと、逆に親にしてもらいたかったことを一緒に考えています。無理のない範囲でこれらを自分の子育てに取り入れていくことが、子育てを通して自分自身を癒やしていく行動にもつながっているように思います。感情の起伏がある分、心の一進一退はあります。私は一緒に付き合いながら、見守っています。

小さい時から、嫌なことは「嫌」と、悲しい時には「悲しい」と自分の思いを素直に表現できる経験はすごく大事なことだと思います。人に気を使うことに一生懸命になり、「自分の思い」を考えることすら忘れてしまった人もいます。大人になった今からでも遅くはありません。今からでも、大丈夫!

わが子をたたきたくてたたいている親はいないと思います。怒りたくて怒っている親もいないと思います。どうしていいのか分からない時は、いるかひろばにきてつぶやいてみませんか?一緒に考えて行きましょう。

土居さんに相談したい場合は、「いるかひろば」に問い合わせをしてください。

高知市地域子育て支援センター「いるかひろば」はこちら

土居さんへのインタビューはこちら

この記事の著者

門田朋三

土居寿美子

高岡郡梼原町出身。保育士として2005年から高知市の港孕保育園に勤務。07年から、港孕保育園内にある地域子育て支援センター「いるかひろば」の常勤スタッフとして、親子に寄り添った支援に取り組んできました。2019年11月に特定非営利活動法人いるかひろばを立ち上げ、理事長に。2020年から、いるかひろばをNPOとして運営しています。趣味はバレーボール。洋服やケーキなど何かを作ることも好きです。好きな言葉は「一所懸命」。

関連するキーワード

LINE公式アカウントで
最新情報をチェック!

  • 週に2回程度、ココハレ編集部のおすすめ情報をLINEでお知らせします。

上に戻る