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「子どもの自殺はどう防ぐ?」「子どもがどうしても言うことを聞かない時の対応は?」|小児科医・澤田敬さんが子育て講座でお母さんの質問に答えました

「子どもの自殺はどう防ぐ?」「子どもがどうしても言うことを聞かない時の対応は?」|小児科医・澤田敬さんが子育て講座でお母さんの質問に答えました

小児科医として児童虐待予防に長く取り組んでいる澤田敬さん。高知県内の子育て支援センターで子育て講座を開いています。

黒潮町の子育て支援センターでの講座では、参加したお母さんたちからこんな質問が上がりました。

「子どもの自殺はどう防いだらいいですか?」

「子どもがどうしても言うことを聞かない時、どうしたらいいですか?」

澤田さんはイヤイヤ期や思春期の子どもの気持ちを紹介しながら、わが子への関わりについて語りました。

 

澤田敬さんは小児科医。高知県立西南病院の小児科部長や、高知県立中央児童相談所の医務主任などを務めました。認定NPO法人「カンガルーの会」では理事長を長く務め、相談対応や人材育成など児童虐待を防ぐ活動にも力を注いできました。

黒潮町地域子育て支援センター(黒潮町入野)の子育て講座は 2025 年 5 月 22 日に開かれ、3 組の親子が参加しました。

子どもを遊ばせながら、子育て講座が開かれました
子どもを遊ばせながら、子育て講座が開かれました

イヤイヤ期と思春期は「何があっても守ってもらえる」と確認する時期です

子育て講座は、澤田さんが「お母さんたち、何か聞きたいことない?何でも聞いて」と呼びかけて始まりました。

最初の質問がこちら。

お母さん
「子どもの自殺が増えている」と聞き、自殺しない子どもを育てるにはどうしたらいいか考えています。教えてください。

 

小中高生の自殺は新型コロナウイルスの流行後、高止まりが続いていると報道されています。2024 年は全国で 529 人。前年から 16 人増え、統計のある 1980 年以降で最多となりました。

澤田さんはお母さんたちのそばで遊ぶ子どもたちの様子を例に説明しました。

支援センターでは、来所した子どもがお母さんにしがみついて離れない様子をよく目にします。この日は子育て講座があり、しかも取材も入り、いつもとは違う状況でした。

「赤ちゃんは知らない人がいると、どうしていいか分からないんですね。お母さんにしがみついて、知らない人をじっと見る。その人の心を感じ取り、『安心できる』と思ったら、安心してお母さんから離れます」

「お母さんから離れて遊んで、何か嫌なことがあったらすぐに戻る。そうして、また離れる。『お母さんが絶対守ってくれる』と知っているんですね」

最初はお母さんから離れません
最初はお母さんから離れません
安心すると、お母さんから離れて…
安心すると、お母さんから離れて…
嫌なことがあったら、泣いて戻ってきます
嫌なことがあったら、泣いて戻ってきます

2~3 歳のイヤイヤ期では「安心したい」と「自分でしたい」が子どもの中で相反する気持ちとして存在するようになります。

「『お母さんを独占して甘えたい』という独占欲と、『全部自分でするから、お母さんは手を出さないで』という自主性。2 人の人間がいる感じです。積み木がうまく積めなくて怒り、お母さんが手伝ったらまた怒るでしょう?」

このイヤイヤ期の“高等版”が思春期だと、澤田さんは説明しました。

「子どもは思春期に、イヤイヤ期をもう一度やり直します。学校では中学生らしく振る舞うのに、家では 2 歳児や 3 歳児みたいにわがままを言って、『いらんことを言うな』と反抗もする。反抗して、『お母さんは何があっても守ってくれる』ともう一度確認して、大人になる練習をしているんです」

イヤイヤ期に「守ってもらえる」という安心感を抱けなかった子どもは「思春期に大混乱を起こす恐れがある」そうです。

100点を取るのは当たり前?子どもにレールを敷いていませんか?

澤田さんは長く子育て支援に携わる中で、「親が子どもを都合のいいように育てていないか」と気になっています。「親が早くからレールを敷く子育て」も気がかりだそうです。

「早期教育を取り入れたり、大学受験に必要だからと早くから英会話を習わせたり。ピアノや運動も将来プロを目指すような教え方をしているのは気になります。子どもが楽しんで行っているのならいいんですが」

ある時、いじめをした子どもがいました。成績は優秀だったそうです。その子どもの家庭では「テストで 100 点を取るのが当たり前」で、「 98 点を取ると、『頑張ったね』ではなく、2 点の間違いを指摘された」そうです。

「子どもの心を親のスケジュールに乗せていいでしょうか」
「子どもの心を親のスケジュールに乗せていいでしょうか」

「親が認めてくれるのは 100 点を取った時だけ」という状況で育つと、子どもは親に認めてもらうために勉強するようになり、何のために勉強しているのか分からなくなります。

「悪いお母さんではなくて、むしろ子どもを思い、一生懸命に子育てをしているお母さんです。でも、早くからレールを敷いて親の言う通りに育てると、子どもはどうなるでしょう。100点しか認められないのはしんどいですよね」

「親がレールを敷いて育てた場合、その子に生きる力があったらお母さんを乗り越えるでしょう。でも、乗り越えられなかったら、お母さんがいないと生きていけない子になってしまいます」

お母さんから離れて探検中
お母さんから離れて探検中

子育てをする上で親が心がけたいのが「安心感を与える存在」であることだと、澤田さんは呼びかけました。

「心の発達とは、大人になって仕事を始めてどれだけ頑張れるかです。どんなに失敗をしても、つらいことがあっても、お母さんに話を聞いてもらって、心を抱きしめてもらうと、また頑張れる。『親に何を言われるか分からないからやる』ではなく、子どもが自分でやりたいことをのびのびできるように、賢く育ててもらいたいです」

自分でやりたいことを、のびのびと
自分でやりたいことを、のびのびと

手に負えない子?それとも、自分の考えを曲げない子?

講座では、しつけの話にもなりました。

澤田さんが「しつけは恐怖ではなく、優しさで」「怒鳴ったり、たたいたり、外に出したり、鬼で脅したりしていると、子どもが自分の気持ちを出さなくなる」と話すと、別のお母さんから質問が出ました。

お母さん
子どもがどうしても言うことを聞かなくて、どうにもならない時は最後の手段で鬼を使っています。最後の手段は何がいいですか?

 

子どもがどうしても言うことを聞かない場面で「困った子だ」と感じると、親は余計に焦ります。澤田さんが「自分の考えを曲げない子ではないですか?」と尋ねると、お母さんは「確かに」と苦笑い。

澤田さんは「この子には自主性がある、心が育っていると受け止めると、『まあいいか』と気持ちが楽になると思うよ」とアドバイスしました。

子どもの自主性とは、心が育っている証しです
子どもの自主性とは、心が育っている証しです

親としては言うことを聞いてほしいですが、「お母さんに『やめなさい』と言われてぱっとやめる子どもは、将来ちょっと心配」「親が手に負えないくらいの子どもがいいんですよ」と澤田さんが続けると、今度は子育ての先輩でもある支援センターの先生たちが「確かに」。

子どもと向き合っている時はかーっとなってしまうことも多々ありますが、こうしておしゃべりをしながら振り返ると、冷静に受け止め、納得できるものですね。

「この子は世界一かわいい」と「こんな子はいらない」…子育ては矛盾を抱えています

澤田さんは以前から、「子どもはのびのび育ち、甘えで満たされると、わがままがひどくなる」と語ってきました。しつけはやはり大切で、「抱きしめる」ことを提案しています。

わがままを言って聞かない時は、優しく説明しながら抱きしめ、行動を止めます。「お母さんにとってあなたは大切な子どもだから、あなたを捨てることはできない」というメッセージも同時に伝えるといいそうです。

お母さんはさらにこう質問しました。

お母さん
子どものわがままに対応している私は怒っているのに、それでも抱きしめた方がいいですか?

 

この質問に対し、「子育ては矛盾を抱えています。『この子は世界一かわいい』という気持ちと、『こんな子はいらん!』『産むんじゃなかった!』という気持ちです」と澤田さん。

「『抱きしめる』とは機械的ではなく、心を抱きしめるということ。『手に負えないけれど、自分を曲げない子だ』と思って抱きしめられたらいいですが、『手に負えん』と考えると、どんどん腹が立ちます」

「園では暴れる子を先生が抱きしめて止めます。先生が抱きしめる気持ちになれない時は、他の先生に替わっています。子育てはチームワーク。お母さんがどうしても駄目なら選手交代。お父さんに替わってください」

「子育てはチームワークです」
「子育てはチームワークです」

 

子育てでは、自分のやり方が正しいか不安になることもよくあります。澤田さんは室内でのびのびと遊ぶ子どもたちを見ながら、「子どもが言いたいことを言えるようないい雰囲気で育ててることは、この子たちを見ているとよく分かります」と話していました。

親が子どもにレールを敷くのではなく、子どもがしんどくなった時に帰ってくる安心基地、心の充電基地になれるように。毎日の関わりで心がけていきたいと思います。

 

澤田さんは「親から虐待を受けた経験や甘えられなかった経験が子育てに影響することがある」と語っています。ココハレで紹介しています。
子育ても子育て支援も「心の響き合い」が大事です|小児科医・沢田敬さんに聞きました

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小学生ママです。長女は思春期の入り口にさしかかった4年生、次女はピカピカの1年生です。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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