「できた!」「すごい!」運動遊びで子どもの「有能感」を育もう|「みやもっち体育」で高校生と園児が交流しました
キャッチボールは「相手を思いやる運動」。子どもの発達段階や気持ちに合わせた関わりを学ぶ授業が春野高校で行われました
「運動遊び」を通して高校生と園児が交流する授業が 2022 年 10 月 19 日、高知県立春野高校で行われました。
講師は「みやもっち体育」の宮本忠男さん。運動遊びについて、「『自分の体が思い通りに動く!』『僕ってすごい!』という有能感を幼児期に育んでいくことが大事」と語りました。
授業で取り上げたキャッチボールは「相手を思いやる運動」だそうです。子どもの発達段階や気持ちに合わせた関わりをレポートします。
目次
春野高校・生活クリエイト系列では「子どもの発達と保育」を学んでいます
みやもっち体育の授業を受けたのは、春野高校(高知市春野町)の「生活クリエイト系列」の 2 年生。家庭科で「子どもの発達と保育」を学んでいます。
2 年生は毎年この時期に、杉の子せと幼稚園(高知市長浜)の園児たちと交流しています。
抱っこから、子どもの「安全基地」が生まれます
園児の訪問を前に、宮本さんが「子どもの発達を促す運動遊び」をテーマに講義を行いました。
高校生を前に「子育てって学校で教わらないんですよね」と切り出した宮本さん。
「生まれて初めてお父さん、お母さんになって、『子どもってこんななの?』とびっくりしたり、怒りたくないのに怒ってしまったり。子どもについて、親になる前にある程度知っておくといいんじゃないかなと思って、僕は活動しています」
そして、高校生にこんな質問を投げ掛けました。
「逆上がりってどうして必要だと思いますか?」
その答えの前に宮本さんが紹介したのは、「愛着」について。不安な状況に置かれた時に、食欲を満たすよりも軟らかい肌触りを選んだという小ザルの動物実験を挙げ、抱っこの大切さを語りました。
「幼稚園に行くと、園児たちが『みやもっち来た!』と寄ってきます。おなかにパンチや頭突きをしてくる子もいます。10分、20分続くけれど、怒らずにいると、だんだんやらなくなる。子どもは『ダメ』と言われると、『受け入れてもらえない』と思ってしまうんですね」
自分で歩けるのに「抱っこして」と求めてくるのも、“あるある”ですね。
「お父さん、お母さんになったら毎日忙しいですが、子どもの甘えを忙しくても受け入れていくと、子どもにとって安全基地になります。そこから一歩踏み出せるようになります。今日も幼児は、みんなに甘えてくると思うよ」
運動の獲得は「模倣」から。親や友達の姿を見て学んでいきます
運動学では、生まれたばかりの赤ちゃんが獲得している運動は「泣く」「吸う」「飲み込む」の三つだそうです。「あとは、親や友達の姿を見て、学ぶことで、運動できるようになります」
運動を獲得する上で大事なのが「模倣」です。例えば、キャッチボール。幼児とやろうとすると、思いがけずびゅんと強く投げてくることがあります。
そんな時にどうしますか?
「『お兄ちゃんと同じように投げてみて』と伝え、まねしてもらいますよね。これが『模倣』です。同じように投げてもらうことで、相手に合わせた投げ方を教えていきます」
宮本さんによると、子どもが相手を思いやれるようになるのは、個人差はありますが、5 歳頃から。
「かくれんぼをすると、3 歳ぐらいはかくれんぼにならなくて、探していたら『ばぁ!』と出てきます。4 歳は『あそこに○○ちゃんがいるよ』と教えてくれます。ルールを理解して、相手のことも考え、遊びが成立するのが 5 歳ぐらいですね」
鉄棒にぶら下がってるだけ?子どもには「有能感」が育まれています
なぜ幼児期に運動遊びをするのでしょうか。宮本さんは 1 枚の写真を高校生に見せました。幼児が鉄棒にぶら下がっています。
「鉄棒にただぶら下がっただけなんですけどね、『みやもっち、見て見て!』って。自分の手と足を見て、『俺ってすごい!』と感じているんです」
自分の手足を思い通りに動かせた!風を受けて走ってる!運動遊びで経験する「できた!」は子どもの有能感につながります。
「俺ってすごい!」をたくさん経験していくと、うまくいかない時に「こうやってみよう」と試行錯誤しながら挑戦するようになるそうです。
「幼児期は知識を獲得するよりも、自分の体が思い通りに動く喜びの方が大きく、有能感を育みます。逆上がりも『学校の授業にあるからやる』のではなく、『鉄棒をやりたい』と挑戦し、『できた!』という達成感を味わってもらうことが大切。『自分はできる人間だ』と思わせたいから、みやもっちは運動遊びを教えています」
遊びを通して笑顔が増えていきました
講義の後は、いよいよ交流です。訪れたのはひばり組、かもめ組の年中児 33 人。園長の岡則明さんが「園児たちはお兄ちゃん、お姉ちゃんと遊ぶのを楽しみにしています。いっぱい遊んであげてください」と呼び掛けました。
早速ペアになりましたが、園児たちは緊張気味。高校生たちも様子見の雰囲気です。お互いの距離を近づけるため、宮本さんが次々と遊びを提案していきました。
ハイタッチをしたり、アーチをくぐったり。肌と肌の触れ合いも取り入れていくことで、徐々に笑顔が増えていきました。
狙った方向へ投げる運動。棒状のものから始めると分かりやすいそうです
仲良くなったところで、本日のテーマ「キャッチボール」です。
狙った方向にボールを投げる時は、踏み出した足に向かって投げますが、ボールは球体なので、子どもにとっては狙う方向が分かりにくいのだそうです。
そこで、宮本さんが取り出したのがスポンジでできた長い棒。「みやもっち体育」ではおなじみです。
棒の先を相手に向けて投げることで、方向をつかみやすくなります
グループに分かれて、キャッチボールに挑戦。方向や力の加減をつかんでいきました。
子どもたちの反応に、高校生たちが合わせていました
交流は続き、教室内は楽しい雰囲気。ですが、いつもと違う状況に不安を感じている園児もいました。
高校生たちは運動遊びを無理にやらずに見学したり、積極的に抱っこしたり。子どもの反応に合わせて対応していました。
子どもの甘えをきちんと受け入れる――。大切なことだと分かっていても、毎日となると難しい…。高校生の対応や笑顔を見ながら、子どもへの向き合い方をあらためて考える機会にもなった取材でした。
子どもに「できた!」「すごい!」という有能感を育む運動遊び。日々の子育てでも、「できた!」「すごい!」を育んでいきたいですね。