「高熱で脳に異常が起こる」って本当?事故はどう防ぐ?JA高知病院の小児科医・本浄謹士先生に聞きました
子どもの病気は「熱」だけにとらわれず、そのほかの症状を見極めましょう
子どもの急な病気やけがへの対応について、お父さん、お母さんたちに正しく知ってもらう啓発活動を高知県内の小児科医たちが続けています。南国市の地域子育て支援センター「ひよこルーム」で子育て講座がこのほど開かれ、JA高知病院(南国市)の小児科医・本浄謹士さんが講演しました。
子どもが高熱を出すと焦ります。「脳に異常が起きたらどうしよう」と心配する人もいるかもしれませんが、熱だけにとらわれず、そのほかの症状を見極めることが大事だそうです。病気の時、そして思いがけない事故を防ぐために大切なポイントを紹介します。
目次
高熱だけでは、脳に異常は起きません
講演は「発熱」から始まりました。「『高熱では脳に異常を来す。だから、早く熱を下げないといけない』と心配する人がいますが、本当でしょうか?」。本浄さんはまず、そう投げ掛けました。
答えは「NO」。「高熱だけでは脳に異常は起きません」と本浄さんは断言します。
保育園に入園できるくらいになった乳幼児の場合、風邪の熱は 2 ~ 4 日ほど続きます。親としては「2 ~ 4 日」は長く感じますが、体が病原体(ウイルスや細菌)と戦っている証拠なので、熱自体をそこまで心配しなくていいとのこと。5 日から 1 週間以上続く場合は、他の病気を疑って検査をします。ただし、4 カ月未満の赤ちゃんは熱を出すこと自体があまりないので、待たずに検査や入院することもあるそうです。
そもそも感染症は、ウイルスや細菌に感染することで起こります。同じ「熱」でも、ウイルスや細菌が感染した場所によって、その他の症状が変わります。「喉に感染したら、咳や鼻水が出ます。胃腸に感染したら、嘔吐や下痢が起こります」。熱が出た場合、咳や鼻水が出ていたら、「風邪なんだな」と思えばいいそうです。
注意が必要なのは、けいれんや意識障害があった時。「脳炎や脳症、細菌性髄膜炎など、ウイルスや細菌が脳に入り込んで起こる病気も考えられます。まれに後遺症が残ったり、命を落とすこともある怖い病気です」。いつもの風邪とは様子が違う場合は受診しましょう。
インフルエンザ菌b型、肺炎球菌による細菌性髄膜炎はワクチンで防げます。必ず予防接種をしておきましょう。
解熱剤は熱の原因が何であれ、しんどい時に使ってかまいません
熱が出て受診する際は「 1 日の最高体温」と「朝、昼、晩の体温」を小児科医に伝えるといいそうです。「熱は上がり下がりを繰り返しながら下がっていきます。体温の経過が分かると、よくなっているかどうかが判断できます」と本浄さんは説明します。
熱以外の症状も「いつから、どういった症状があるか」を伝える必要がありますが、「ちょっと前から」「ずっと」など抽象的に説明されると、困るそうです。
「例えば、『咳がずっと続いている』の『ずっと』の期間が『 2 カ月間途切れていない』のか、『 5 日前に始まって、2 日間止まって、また出始めた』のかで全く違います。できるだけ具体的に表現してほしいです。症状の経過は割と忘れてしまうので、しっかりメモしておいてください」
【受診の際に伝えてほしい熱以外の症状】
- 元気ですか
- 機嫌はいいですか
- 食欲はありますか
- うとうと眠ることはないですか
- 咳はありますか(乾いた咳、湿った咳、咳き込み、犬がほえるような咳)
- 鼻水はありますか(黄色、透明)
- 喉の痛みはありますか
- 嘔吐や下痢はありますか
- 発疹、体の痛みや発赤、腫れはありますか
- 目やにや目が赤いなど、目の症状はありますか
- 顔の腫れはありますか
解熱剤を使う目安は「38 度以上あって、しんどい時」。眠っている時はそこまでしんどくない状態なので、無理に起こして使わないでください。
「熱の原因が何であれ、使用していい」とのことですが、「『熱が高いと脳がおかしくなる』など、親の不安解消のために使用するのはやめましょう」。
解熱剤には鎮痛作用もあるので、中耳炎の痛み止めで使っても大丈夫です。「『平熱の時に使うと、低体温になるのでは?』と心配する人がいますが、人間の体はそうなっていないので安心してください」
発熱の際に起こる「熱性けいれん」は子どもの 7 ~ 8 %に発症します。「熱が急に上がるストレスで、脳細胞のネットワークが一時的に乱れるために起こります。とてもびっくりすると思いますが、よくある症状です」と本浄さん。多くは 5 分以内に自然に止まり、障害は残りません。
「名前を一生懸命呼び掛けても回復はしないので、余計な刺激はしないでください。舌はかみませんので、口の中に物を入れないで。嘔吐する時には体を横に向けてあげてください」
風邪を引くのは当たり前。お母さんの責任ではありません
わが子を診てもらう際、「体が布団から出ていたので風邪を引かせてしまったのかも」「鼻水が出ているのに入浴させてしまいました」などと自分を責めるお母さんがいるそうですが、本浄さんは「風邪を引くのは当たり前。お母さんの責任ではありません」ときっぱり否定します。
人間の体はウイルスや細菌と共存していて、鼻や喉は常にウイルスがいる状態です。普段はウイルスの感染力より体の抵抗力の方が上回っているので風邪を引きませんが、逆転した時に風邪を引きます。
たくさんのウイルスに感染することで免疫を獲得するので、「風邪にはかかるべくしてかかっています」。「保育園に入ったばかりのころは、毎週のように風邪を引いて休むと思います。大変だと思いますが、小学生になるとずいぶん体が強くなります。適度な運動、睡眠、栄養を取るという基本的な生活習慣を維持しながら、待ちましょう」
風邪の場合、軽い咳や鼻水は経過を見ていても大丈夫。咳で夜起きるなど、困っている症状があれば、受診しましょう。急いで受診が必要な場合、救急車を使ってでも受診が必要な場合があります。以下を参考にしてください。
【急いで受診を!!】
- 熱が下がっても顔色が悪く、ぐったりして元気がない。
- 咳が強い。呼吸が苦しくて眠れない。横になれない。哺乳できない。
- うとうと眠っていて、ぼーっとしている。
- 水分を摂取できない(食欲がないのはかまいません)。
- 嘔吐や下痢の回数が多く、顔色が白く、ぐったりしている。
- 強い頭痛、腹痛、体の痛みがある。
【救急車を使ってでも、至急受診を!!!】
- 息が苦しそう:肩で息をする、陥没呼吸(息を吸い込む時に胸が陥没する)、顔色が白い、唇の色が紫
- 意識がおかしい:呼んでも目覚めない、目覚めてもすぐに反応がなくなる
- けいれん:10 分以上続く、繰り返す、けいれんの後で意識が戻らない、手足にまひがある。初めてのけいれんも急いで受診しましょう
子どもの死因で多いのは「不慮の事故」
続いては子どもの事故について。本浄さんは「子どもの死因のトップクラスは『不慮の事故』。縁起でもない話ですが、子どもは病気よりも事故で亡くなります」と語ります。
「不慮の事故」で多いのは「交通事故」「転落・転倒」「溺死・溺水」「窒息」。交通事故以外は、普段家族で過ごす部屋の中でも起こっています。講演ではリビングや台所、風呂場などのイラストを見ながら、日常に潜むリスクを考えました。たくさんあるので、あらためて点検してみてください。
【部屋】
- 子どもの手が届きそうな所にお金、たばこ、リモコンやボタン式の電池を置いていませんか。誤飲の原因になります。加熱式たばこも危険です。
- ソファの上で遊んで転落して頭を打つことがあります。
- 食事用のテーブルの上に温かい物を置く場合は注意を。いすからよじ登ったり、テーブルクロスを引っ張ったりしてかぶり、大やけどする事例があります。
- ビニール袋が落ちていませんか。頭からかぶると、窒息の原因になります。
- ベビーベッドの柵は閉まっていますか。寝返りをしない新生児でも、床を上手に蹴って移動し、落ちることがあります。落下をとにかく避けましょう。
- 子どもを寝かせる場合は、掛け布団やクッションに注意を。顔に布がかかったり、クッションに埋まって窒息しない環境を作りましょう。
- 化粧品などを手の届く所に置かないでください。髪を染める染毛液は毒性が強く、飲むと血液の細胞が壊れます。
【台所】
- 炊飯器から出る熱でやけどする場合があります。
- 台所の戸棚を開ける場合があります。包丁や洗剤に注意を。
【お風呂・洗面所】
- 洗濯機に入ってしまいおぼれる、ドラム式の洗濯機に入って出られなくなり窒息する事故が起きています。
- 洗剤を手の届くところに置いていませんか。
- 南海トラフ地震対策で浴槽に水を張っているかもしれませんが、子どもが落ちておぼれる場合があります。人はどんなに浅い水深でもおぼるので注意しましょう。
【ベランダ】
- エアコンの室外機など何かによじ登って柵から下をのぞくと、頭が重いので落ちます。踏み台などをわざわざ運んできてよじ登ることもあるので、注意しましょう。
シートベルト、チャイルドシート、自転車のヘルメットで交通事故を防ぎましょう
交通事故防止では、シートベルトやチャイルドシートの使用が大切。衝突の際に車外に放出される事故を防ぐことができます。自転車通勤をしている本浄さんは「子どもがシートベルトやチャイルドシートを使わず、開けた窓につかまって、車から顔を出して喜んでいるのを見かけます。『事故になったら…』と思うと、ぞっとします」。
自転車に乗る際にはヘルメットの着用を。頭を打った場合に亡くなる割合が 4 分の 1 に減るというデータがあります。「走行中でなくても、スタンドを立てた自転車に子どもを乗せていたら倒れたという事例があります。注意してください」
大人が思わぬ行動をするのが子ども。事例から注意点を学びましょう
子どもは大人が思わぬ行動をするもの。事故も「どうしてそうなった?」と驚くような状況で起こっています。日本小児科学会のウェブサイトでは「Injury Alert(傷害速報)」で全国の事例を紹介しています。
たくさんの事例を診てきた本浄さんは「子どもの事故は生活スペースで起こります。小さな事故は経験として必要ですし、全てを予防することは困難ですが、大きな事故は事故を起こす原因を取り除くことで防げます」と訴えます。
「大きな事故が起こると、親は『もっと注意しておけばよかった』とものすごく後悔します。『Injury Alert』は読んでいるとつらくなりますが、こういうことが実際に起こるんだと知ることができます。先回り、先回りしてリスクを防いでください」
「急病対応ガイドブック」を参考にしてください
高知県では、県内の小児科医と協力して作成した「必携!お子さんの急病対応ガイドブック」を子育て世帯に配布しています。「発熱」「嘔吐」「下痢」など症状別に対応の仕方や受診のポイントを解説しています。