【イチ押しニュース】デジタル教科書で学校はどう変わる?子どもたちは?先生は? 教育現場の試行錯誤が続いています
文部科学省は 2024 年度、「デジタル教科書」を全国の小中学校に本格導入します。高知県内の公立小中学校では、導入に向けた試行錯誤が続けられています。
今の小中学生は「デジタルネイティブ」と呼ばれ、スマホやタブレットなどのデジタル機器は生まれた時から“当たり前”の世代。教材の「使い勝手」という技術的な課題もあるものの、最も難しい課題は「教える側」の知識や経験、ノウハウの不足ではないでしょうか。
これからの時代を生き抜くために必須な「デジタル技術」をどう生かし、子どもたちをどう導いていくのか。教育現場で、その真価が問われています。
「主体性出る」「紙で十分」デジタル教科書の活用模索 高知県内の公立小中学校 ―変わる学校
(高知新聞 2022 年 11 月 25 日掲載)
文部科学省は2024年度に、全国の小中学校(小5~中3)で英語のデジタル教科書を本格導入する。当面は紙との併用で、25年度には算数・数学にも拡大する方針だ。県内の公立小中学校では英語の試験運用が行われており、高知市内では国語などに活用している学校もある。〝デジ教〟と呼ばれる新たなツールは定着していくのか。教諭や生徒らの評価は―。学校現場を回った。
「デジタル教科書を開いてください」
高知市江陽町の城東中。2年生36人の国語の授業が始まると、三野和香子教諭(51)が呼び掛けた。生徒は机の上でタブレットを起動しパスワードを入力、目的のページを開く。
この日の授業は、美術批評家の布施英利さんが書いた評論「君は『最後の晩餐(ばんさん)』を知っているか」がテーマ。レオナルド・ダビンチの絵画を筆者が「 」と感じた理由を考察する内容だ。
授業はタブレットで読み上げられる文章をイヤホンで聞くことから始まった。その間、教諭が黒板に「評論を読んで内容をつかもう」「筆者が と評価した理由は何か」とチョークで書いていく。
生徒がイヤホンを外すと、三野教諭がタブレットで自由にまとめられるノート「マイ黒板」を開くよう指示。それぞれが板書された言葉をキーボードで打ち込む。タイピングや操作に不慣れな生徒は、少々時間がかかる。
三野教諭が自身のタブレットで文中のキーワードを囲み、ラインを引く。その様子が電子黒板に大きく映される。生徒は、タブレットに表示されたダビンチの絵をコピーし、マイ黒板に貼り付けるなどして独自のノートを作る。
この日は紙の教科書を一度も開くことなく、終わりのチャイムが鳴った。終了間際、紙のノートを取り出し、シャーペンで板書を書き写す女子がいた。「ノートの方が見やすい。テスト前の見直しはこっちの方がいい」。とは言え「線がきれいに書けるし、文章を貼り付けたりできてデジタルも好き」。
デジ教の本格活用を始めて1年目という三野教諭は「どこまで活用するか、線引きが難しい」と話す。「手書きノートは板書を写すだけになりがち。マイ黒板は生徒が工夫して作るから、主体性がある」と評価。一方で「国語の基本は読み書き」と課題を手書きさせることもあるという。
英語では、読み上げ機能を評価する声が多い。
高知市鴨部1丁目の西部中。2年生のクラスで、中川新也教諭(35)が電子黒板に表示した英文をクリックすると、「ユニバーサルデザイン」の説明文が文節ごとに読み上げられた。続けて生徒が読んでいく。
中川教諭は「生徒の食いつきが違う」と手応えを口にし「声が大きくなった。正確な英語を聞き、自信を持って話せるようになった結果でしょう」。
続けて、生徒はデジ教を見ながら、配られたプリントの穴埋め問題を解いた。こちらは紙の教科書と変わらない姿だった。
英語教育に注力する義務教育学校の土佐山学舎(同市土佐山桑尾)では、中学英語でデジ教を使うのは教員のみ。授業内で生徒は使っていない。生徒用のデジ教が、書き込んだ内容が保存できない、見開きページが見にくいなど、使い勝手が悪いためという。
英語を担当する浜口真由教諭(51)はネーティブの発音を確認できることや、板書の時間短縮などといったデジタルの利点を挙げつつも、「私のアイデア不足もあるかもしれませんが、生徒との距離が近いので従来の紙の教科書でも事足りる」と語った。
国が学びの質の向上をうたい、多額の費用をかけて導入予定のデジ教。板書の時間が省けた分、授業は濃密になったという声もある。一方、今ある教材で代用できるという指摘があり、デジタル媒体よりも紙媒体による学びの方が脳に定着しやすいという研究もある。
高知市教育委員会は「現状では先生や学校によって使用格差がある」と認めつつ、「今は『デジ教がどんなものか使ってみましょう』と各校を回って声掛けをしている段階。効果的な活用方法を見つけるには時間がかかる」とした。
ある教諭は、こう投げ掛けた。「そもそもデジ教が、学力向上に効果があるのか分かってないでしょう?」。教育現場の模索が続く。(加治屋隆文、玉置萌恵)
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