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「食べない子」から「この子は食べる」へ|土居寿美子さんコラム「こころのとびら」②

「食べない子」から「この子は食べる」へ|土居寿美子さんコラム「こころのとびら」②

利用者の気持ちに寄り添う支援を。高知市の地域子育て支援センター「いるかひろば」理事長、土居寿美子さんのコラムです

わが子との毎日。穏やかに、楽しく過ぎる日もあれば、うまくいかず、イライラしてしまう日もありますね。子育てで困った時、悩んだ時、相談に乗ってくれるのが地域子育て支援センターです。

ココハレのコラム「こころのとびら」では、高知市の地域子育て支援センター「いるかひろば」を運営する特定非営利活動法人の理事長、土居寿美子さんが執筆を担当します。土居さんはいるかひろばで 10 年以上にわたり、たくさんの親子に寄り添ってきました。「ご飯を食べてくれない」「おむつが外れない」「また怒り過ぎてしまった」…。そんな悩みを打ち明ける保護者とのエピソードをもとに、わが子への関わり方を紹介します。

以心伝心 うれしいことも、そうでないことも

「いるかひろば」にはいろんな親子が遊びに来られます。実家の近くで子育てをされている方、地元が高知だけど実家が遠い方、結婚で高知に来られて育児をされている方、高知に移住をされた方、そして転勤で高知に来られて育児をされている方…。

1人で家事と育児をこなす「ワンオペ育児」、結婚や転勤に伴って知り合いのいない所で子育てをする「アウェー育児」という言葉、みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

私の夫も転勤族で、まさに「アウエー育児」「ワンオペ育児」を経験しました。転勤族の方でなくてもそういう気持ちになられている(なられた)方もいらっしゃるかもしれません。心中お察しいたします。

さて、今回は「お母さんの気持ちが子どもに伝わるんだなぁ」というエピソードをお伝えしたいと思います。

 

■ひろのちゃん親子…30代のお母さん、ひろのちゃん(仮名)2歳

転勤で高知に来られました。お母さんはとても人見知りで、「いるかひろば」にも相当勇気を出して来られたと思います。

当時のひろのちゃんはお母さんにしがみついたり、お母さんに抱っこされて遊んだり、緊張した様子がありました。

お母さんの緊張がだんだんほぐれていくと、ひろのちゃんもリラックスできるようになり、お母さんから離れて遊んだり、お友達の所に寄っていくようにもなりました。ひろのちゃんのそんな様子をお母さんは喜んでいました。

そんな中で、お母さんは日常の何気ない心配なことや本音を話してくれるようになりました。お母さんの不安は食事のことでした。最初は「なかなか食べないんです」。だんだんと「全然食べないんです」に変わり、ついには「もう毎日、食事の時間が苦痛!しんどい…」というつらい言葉に変わっていきました。

当時、いるかひろばではランチタイムを行っていませんでしたが、「もしよろしければ、お昼をいるかひろばで一緒に食べてみませんか?」と提案してみました。私が「構わなければ、ひろのちゃんに関わっても大丈夫ですか?」と尋ねると、お母さんは「ありがたい!ぜひお願いします」。

数日後、ひろのちゃん親子はお弁当持参で来られました。私はまず、2人がどんな様子で食事をしているかを見守りました。

遊んだ後は「いただきます!」(いるかひろば提供。写真と本文は関係ありません)
遊んだ後は「いただきます!」(いるかひろば提供。写真と本文は関係ありません)

お母さんが食べさそうとしても、「いや」と首を振る様子のひろのちゃん。お母さんは「ほら、こんな感じです」と苦笑いです。

「お母さんちょっと関わってもいいですか」。私はそう声をかけ、ひろのちゃんの横に座りました。

「先生もご飯食べよう、見よってよ」「先生のお口大きいろ」「ひろのちゃんのお口はどんなお口かな?」

ひろのちゃんが大きな口を開けた時に、食べ物を口に運んでみました。そうすると、ひろのちゃんは口を動かし、食べ始めました。その様子を見て、お母さんは「すごい!ひろの食べてる!」と興奮気味。お母さんの緊張も徐々にほぐれていき、気が付くと、ひろのちゃんはお弁当をほとんど食べていました。

その日から、お母さんの中で「食べないひろのちゃん」ではなく、「ひろのちゃんは食べるんだ」という気持ちに変化したと思います。その後、「家でも食べるようになりました」と報告してくれました。

 

これまで、「何とか食べてもらいたい」と、お母さんなりにいろいろ頑張っていたことと思います。でも、日に日に食べなくなるわが子を前に、「何とか食べてほしい」という気持ちよりも、「何で食べないの?」という気持ちの方が強くなっていったのかもしれません。

毎日作っている食事を食べてくれない。それが毎日続くことがお母さんにとってどれだけストレスになっていたことか…。きっと、いっぱいいっぱいの気持ちだったと思います。それが「アウェー育児」「ワンオペ育児」だと、無理もありません。

食べるわが子を見た時の、あの涙ぐんだお母さんの表情。今でも忘れません。

 

いるかひろばの親子から、私は毎日学ばせていただいています。うれしいことも、そうでないことも、お母さんの気持ちが子どもに伝わるんだなぁと思います。

「できる」「できない」などの表面的な評価的なことではなく、「周囲の子と比べて…」ということでもなく、 毎日わが子と向き合い育てていく中で、保護者の本当の思いに向き合ってくれる人がいるという安心感が 育児にはとても必要なことだと思います。

何気ない日常。もやもやしながら、何となく過ごしている毎日。少しでも不安なことがあれば、いるかひろばでつぶやいてみませんか?一緒に考えて行きましょう。

 

※いるかひろばのランチタイムは、新型コロナウイルス対策で現在お休みしています。

土居さんに相談したい場合は、「いるかひろば」に問い合わせをしてください。

高知市地域子育て支援センター「いるかひろば」はこちら

土居さんへのインタビューはこちら

この記事の著者

門田朋三

土居寿美子

高岡郡梼原町出身。保育士として2005年から高知市の港孕保育園に勤務。07年から、港孕保育園内にある地域子育て支援センター「いるかひろば」の常勤スタッフとして、親子に寄り添った支援に取り組んできました。2019年11月に特定非営利活動法人いるかひろばを立ち上げ、理事長に。2020年から、いるかひろばをNPOとして運営しています。趣味はバレーボール。洋服やケーキなど何かを作ることも好きです。好きな言葉は「一所懸命」。

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