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「子どもが毎日ゲームばかり」でゲームを取り上げるのは正解?|発達障害の子どもたちにとってのゲームやSNS、不登校への対応について児童精神科医・関正樹さんが解説しました

「子どもが毎日ゲームばかり」でゲームを取り上げるのは正解?|発達障害の子どもたちにとってのゲームやSNS、不登校への対応について児童精神科医・関正樹さんが解説しました

「子どもにゲームをやめてほしい」と思ったら?どんな約束なら守ってもらえそう?高知県立療育福祉センターのセミナーから紹介します

子どもがゲームを始めたら考えていきたいのがゲームとの付き合い方。「うちの子がゲームにハマっている」「依存症になったらどうしよう」と心配な方もいるのではないでしょうか。

「発達障害の子どもたちとゲームやSNS」を考えるセミナーが高知県立療育福祉センターの主催で開かれました。講師は岐阜県の児童精神科医・関正樹さん。自身もゲーム好きとのことで、子どもたちの気持ちを紹介しながら、親が知っておきたいことを解説しました。

ゲームをやめない子どもからゲームを取り上げるのは正解?子どもとの約束で注意したいことは?詳しくご紹介します。

 

高知県立療育福祉センター主催の「発達障害に関するセミナー」は 2024 年 6 月 16 日、オンラインで開かれました。

講師の関正樹さんは児童精神科医。福井医科大学を卒業し、岐阜大学精神神経科に入局。岐阜県の土岐市立総合病院精神科を経て、現在は瑞浪(みずなみ)市の大湫(おおくて)病院に勤務しています。

著書に「子どもたちはインターネットやゲームの世界で何をしているんだろう?―児童精神科医からみた子どもたちの『居場所』」(金子書房)などがあります。

関さんの著書「子どもたちはインターネットやゲームの世界で何をしているんだろう?」。関さんのゲーム愛もあふれる一冊です
関さんの著書「子どもたちはインターネットやゲームの世界で何をしているんだろう?」。関さんのゲーム愛もあふれる一冊です

【特性から考える】ASDは「ルールが本人にとって合理的かどうか」、ADHDは「すぐに得られる報酬を求める」

セミナーのテーマは「発達障害の子どもたちとゲームやSNS」。関さんは自閉スペクトラム症(ASD)とADHD(注意欠如多動症)の特性から説明しました。

ASDの特性…「社会的動機づけ理論」とは

ASDの場合、幼児期に現れる代表的な特性が「視線が上手に使えない」「他の子どもにまだ興味がわかない」などコミュニケーションに関するものと、「同じ行動を繰り返す」「配列にこだわって遊ぶ」など、常同性や感覚過敏、特別な興味に関するもの。

さらに、ASDの病態仮説として「社会的動機づけ理論」があるそうです。「社会的動機づけ」とは他者からの影響を受けて行動しようと思うことで、ASDの人はここに障害があるのではという考え方です。

「定型発達の人は褒められたり、昇進したり、友達関係をつくることがモチベーションになります。ASDの人は他者への関心が薄く、褒められても反応しなかったりします」

「社会的動機づけ理論」から考えると、ゲームに関して言えば、「ゲームの時間はクラスみんな、1 日 1 時間だよ」といった呼びかけは「ゲームをやめよう」「ゲームの時間を減らそう」というモチベーションになりにくいそう。

「『みんながやっているから』よりも、その約束が分かりやすく、途中で変わらず、本人にとって合理的である必要があります」

ADHDの特性とは…「実行機能系」と「報酬系」の障害

ADHDの特性は大きく分けると、「不注意」と「多動・衝動性」です。さらに専門的に説明すると、「実行機能系」と「報酬系」の障害なのだそうです。

「実行機能」とは、計画を立て、その通りに実行して終わらせること。実行機能に障害があると、「段取りができない」「計画通りにできない」などの特性が現れます。

「報酬」とは「ご褒美」です。ADHDの人は「遅れて来る報酬への反応が悪い」とのこと。例えば「片付けが全部できたら、おやつをあげる」というのは、本人にとっては「遅れて来る報酬」になります。このため、手近にある漫画を「すぐに得られる報酬」として選んでしまい、片付けが終わらないそう。

「オンラインゲームは飽きないための仕掛けがされています。次々と敵が現れる対戦ゲームはすぐに報酬が得られるので、そちらに心引かれ、やらなきゃいけない勉強、宿題、仕事が後回しになってしまうのではと、個人的には思っています」

【SNS】「死にたい」とつぶやいたり、知らない人と会おうとするのはなぜ?

続いて、SNSについて。総務省の調査によると、「10 代の子どものほとんどはLINE、インスタグラムを使っています」。X(旧Twitter)も根強く、フェイスブックは少ないそうです。

これまでは「ASDの青年はコンピューターを介したコミュニケーションが比較的得意」とされてきました。最近は「コンピューターを介したコミュニケーションを好まないかもしれない」という報告もあるそうです。

「SNSの利用に満足を感じる人も多いけれど、苦しい人も多い。SNSでコミュニケーションに困難を感じる人は、他者よりも自分の興味に関心が向かいやすいと報告されています」

ASDの子どもたちからはこんな相談が寄せられています。

LINEでいつ発言したらいいか、何を発言したらいいか分からない

 

LINEグループで無関係なスタンプを連打してしまった

 

通話しながらバトルしていると、相手にあおるつもりのない発言に過剰に反応してしまう

 

Twitterでのちょっとした過激な発言にネガティブなリプがなされると、過剰に落ち込んでしまう

 

三つ目は例えば、友達とバトル中、「お前、下手だな」と言われると、言葉通りに受け取ってしまうこと。「『お前、下手だな』は『どんまい』くらいの意味ですが、ASDの子は笑って気軽に流せない」と関さん。

相談を受けたら、「ゲームは楽しく、冷静な方が勝てて面白いよ」と伝え、「相手があおってきたな」と感じた時の対応を一緒に考えるそうです。

ADHDの子どもは「インターネットへの依存度が高い」と報告されています。何かを発信すると、すぐに反応が返ってくるSNSは、「即時報酬」を好むADHDの人と親和性が高いそう。「ADHDの人は社会的動機づけは保たれていることが多いので、そこもハマりやすい要因です」

「LINEに悩んでいる子には『グループLINEは見ているだけでも意外と大丈夫』と伝えています」
「LINEに悩んでいる子には『グループLINEは見ているだけでも意外と大丈夫』と伝えています」

SNSについては、子どもが犯罪に巻き込まれるのではというのが、親にとって大きな心配事の一つ。SNSで「死にたい」とつぶやいたり、「SNSで出会った知らない人と会う」など、リスクの高い行動を取る子どももいます。

では、なぜSNSに「死にたい」「お金がない」「家出したい」など、“悪い大人”と出会う可能性が高くなるような投稿をするのでしょうか。

「リスクがあるのは子どもたちも知っています。でも、SNSでしか『死にたい』という気持ちを出せないんです」

「SNSで知り合った人と会おうとするのも、現実の居場所がなく、苦しいからこそ、新しいつながりを求めているのかもしれません」

私たち大人が常に気にかけておかなければいけないのは、自分が「子どもにとって相談しやすい大人」かどうか。講演では次のチェック項目が紹介されました。

【子どもにとって「相談しにくい大人」とは】

  • 話の途中で「でも、先生はこう思う」とさえぎる…子どもの話は最後まで聞きましょう
  • 「あなたが自分を傷つけると、周りの人が悲しむよ」と伝える→「私の苦しさよりも、周りの人が大事?」と受け取られます
  • 「○○できるといいね」と伝える…実現できると思って言っていますか?
  • 無理やり褒める
  • 分かったふりをする
  • 以前に話したことを覚えていない

 

【発達障害とゲーム】コミュニケーションが苦手だからハマりやすい?

続いての話題はゲーム。「発達障害の子どもはゲームにハマりやすいのか」という疑問から考えました。

ASDの子どもは感情の調節が難しい

海外では「ASDの少年はゲーム症のスコアが高い」、つまりゲーム依存になりやすいという報告があるそうです。「人とコミュニケーションを取るのが苦手だからゲームにハマりやすい」と捉えられがちですが、関さんはこう説明しました。

「ASDの子どもは感情の調節が難しい。学校で人間関係がうまくいかず、イライラが募り、ゲームに結び付きやすいと考えられます」

ゲームが好きでも、コミュニケーションを必要とするオンラインゲームでは苦労する子どももいるそう。

「そこにあるのは現実の人間関係なので、暗黙のルールを無視してしまったり、友達と思っていた仲間から無視されて傷ついたりということがあります」

ADHDの特性の強さとゲームの過剰な使用

ADHDとゲームとの関連はより深いそう。「ADHDの特性の強さとゲームの過剰な使用には関係がある」などの報告があります。

例えば、仮想空間の世界でものづくりや冒険を楽しむ「マインクラフト」。ADHDの子どもはゲームの自由度にハマる一方で、自分で計画して実行するのが苦手なので、なかなか終了できないそう。

「フォートナイト」や「スプラトゥーン」といった次から次へと敵が現れ、数分で試合が終わるゲームは「即時報酬」が多いので、こちらもハマりやすい要因に。

関さんは「私見ですが」と前置きし、「ガチャ課金」に触れました。

「ガチャは有料なので、ゲーム側もハマるような仕掛けをしています。課金するためにバイト代を投入した、親のお金に手をつけたという事例もあり、私見としては、ADHDの子どもとあまり相性がよくないかもと思っています」

【ゲーム依存とは】依存するかどうかの鍵を握るのは「家族関係」です

親が気になる子どものゲーム依存。関さんによると、「ゲームをやり過ぎて、やめられない状態」というのは一般的なイメージで、診断基準の一つだそうです。

【ゲーム行動症(ゲーム障害)とは】

  • ゲームに関するコントロールの障害…「何時間以上」よりも「コントロールのできなさ」が問題になる
  • 他の生活上の関心や日常活動よりもゲームが優先される…「仕事やデート、旅行などの予定が入っていても、ゲームを優先してしまう」といった状態
  • 否定的な結果の発生にもかかわらず、ゲームを継続する、ゲームがエスカレートする…「恋人に怒られても、やっぱりやめられない」といった状態

 

こういった症状が通常、少なくとも 12 カ月にわたって続いたり、繰り返されたりすると、「ゲーム行動症」と診断されるそう。「皆さんが思っているよりもずっと狭い範囲を、私たち精神科医は扱っています」

「ゲームをやり過ぎてやめられない」というのは診断基準の一つです
「ゲームをやり過ぎてやめられない」というのは診断基準の一つです

では、どんな人がゲーム依存になりやすいでしょうか。「ゲームをやり過ぎたら、誰もがゲーム依存になるわけではありません」と関さん。鍵を握るのが「家族関係」です。

「ゲーム依存には孤独をはじめ、さまざまなリスク因子が知られています。一方で、家族関係が温かいこと、家族とルールについて話ができることは、ゲーム依存にならない保護因子です。ゲーム依存の相談を受けた時に大事なのが、家族関係をこじらせないことです」

そもそも、なぜ子どもはゲームが好きなのか。子どもにとっての魅力を知っておくのも大事です。

ゲーム好きの関さんは、いろんなゲームを挙げながら説明しました。

  • ゲームは楽しみが続くように作られている…ゲームを続けてプレイヤーのスキルが上がる程度と難易度が上がる程度がちょうどいいから、面白い
  • 放課後の公園のような居場所になっている…友達と待ち合わせをしてコミュニケーションを取ったり、共同で作業したり
  • カジュアルな人間関係をつくれる…互いの素性を知らない関係性の中で、協力してゲームができる

 

「大人は『オンラインゲームは危ないからやめさせたい』と思うかもしれませんが、ポジティブな面があることを知っておいてください」

【ゲームの約束】「ゲームは夕方5時まで」…親が丁寧に関われる?

子どもがゲームを始める際、よく言われるのが「家庭でルールを決めましょう」。親子で約束事をつくるとき、関さんがおすすめするのが「子ども主体で決めて大人が承認する」という方法です。

約束①「ゲームは夕方5時まで」

例えば、「ゲームは夕方 5 時まで」という約束をするなら、「親が 5 時から、子どもに労力をかけられる状況かどうか」が大事になります。

「5 時に家に誰もいない、家にいても家事で忙しいという状況なら、親が子どもに丁寧に関わって約束を守らせることはできません。守らせられない約束が放置されるのが一番よくないです」

約束②「やることをやってからゲーム」

「やることをやってからゲーム」という約束も、意外と難しいそう。

「子ども本人が『やることをやった』というのと、親御さんの『やることをやった』は大きくずれます。子どもはできるだけ早く終わらせてゲームをしたいので、宿題をさせると丁寧さは損なわれやすい。大人は丁寧にやってほしいから『できてない』となる。すると、『やることをやったて、ゲームできないじゃん!』となります」

この場合は「宿題の丁寧さは問題にしない方がベター」。宿題をしたら、「終わったね!」「お疲れさま!」とだけ声をかけます。

「嫌みを言わないことも大事です。『いつもこうやってくれたらいいのに』という言葉は、子どものやる気を損ないます」

約束③「勉強しないならゲーム禁止」

関さんによると、勉強や成績をゲームの約束事の基準にはしない方がいいそう。

「子どもからゲームを取り上げたら勉強するでしょうか。空いた時間にYouTubeを見るし、YouTubeを取り上げたらぼーっとすると思います」

「楽しいことをやめるのはとても難しいんです。子どもに勉強をさせたいなら、『スキルの向上に合わせて難易度が上がる』というゲームの仕掛けを参考に、勉強が好きになる方法を考えてみてください」

【不登校とゲーム】無理にやめさせる、取り上げるのは危険です

講演では、不登校の子どもへの対応についても語られました。不登校の背景には、発達障害が認められることもあるそう。「ASDの子どもたちは不登校を経験することが多いですね」

不登校、ひきこもりには段階があります。

  • 不登校…学校には行かないが、家族との会話があり、外出もできる
  • 社会的ひきこもり…家族との会話はあるが、人目が気になって外出ができない
  • 家庭内ひきこもり…家族と折り合いが悪くなり、自室で過ごす

 

関さんたち児童精神科医は「不登校や社会的ひきこもりの状態を、家庭内ひきこもりにさせない」と心がけながら、診療しています。

不登校では「学校に行かず、家でゲームばかりしている」という子どもがいます。無理に取り上げると、子どもから大切な居場所を取り上げることになります。

「不登校の子どもにとって、オンラインゲームやSNSなど好きな世界が残っていることにはとても意味があります。学校という居場所を失っている子どもにとって、後ろめたさから自分の心を助けてくれる場所です」

「子どもにゲームをやめてほしいと思ったら、『子どもにどうなってほしいか』を考えてみてください」
「子どもにゲームをやめてほしいと思ったら、『子どもにどうなってほしいか』を考えてみてください」

子どもが不登校になった時、「親御さんにできることはちゃんとあります」と関さんが紹介したのがこちら。

【子どもが不登校になった時、親や家族ができること】

  • 子どもの後ろめたい気持ちに寄り添い、「学校に行く・行かないより、あなたが元気でいてくれる方が大事だと思っている」というメッセージを送る
  • 「あなたが元気になるためのチャレンジは応援する」というメッセージを送る
  • 家庭外の信頼できる専門家とつながる…親だけがつながる場合は、本人に隠さない
  • 子どもの好きなものは大切にする、ポジティブに見る

 

不登校では「家の居心地が良すぎるから学校に行かないんだ」と助言する支援者もいるそうです。親が周囲から勧められて、子どものインターネットを解約する、ゲームを取り上げるなどの強硬手段に出るケースもあります。

「これは子どもから『ささやかな居場所』を取り上げることを意味します。ゲーム依存のリスクの一つである『親子の対立』につながったり、『死の覚悟』から子どもが暴力を振るうようになったり。これでは本末転倒ですよね」

「ゲームをやめさせたいなら、ゲームを取り上げるよりも、ゲーム以外の好きなことを親子で一緒に探していく方が手堅いです」

【質問】子どもが決めた約束が「1日5時間ゲームする」だったら、どう対応する?

関さんは参加者からの質問にも答えました。

参加者より
子どもが「 1 日 5 時間ゲームをするのは自分にとって合理的だ」と主張した場合、どう対応したらいいですか?

 

講演では「ゲームの約束事は子ども主体で決めましょう」という話がありました。関さんはこう答えました。

関さん
「 1 日 5 時間のゲーム」は、子どもが学校に行っているかどうかで対応が変わります

 

子どもが学校に行っている場合は、1 日のスケジュールを考えると、ゲームに 5 時間も費やすのは難しいですよね。

親は一緒にスケジュールを考えながら、「もう少し減らそうか」と交渉します。「午前 2 時までやる」と主張されたら、「その時間は私はもう寝てるから、あなたに約束を守らせるのが難しい」と伝えましょう。

子どもが学校に行っていない場合は、それだけ「何もすることがない時間」が増えます。何もすることがないと、「『自分はダメだ』とネガティブに考えてしまい、メンタルヘルスのリスクになる」そう。時間を区切った約束はせず、「親が家にいる時はゲーム以外のことをする」など別の方法を考えます。

「昼夜逆転の生活」が心配です

不登校では、子どもの「昼夜逆転の生活」が心配されます。親としては生活リズムを戻したいところですが、「昼間起きているのが、実はしんどいんです」と関さん。

「不登校の子どもにとってしんどいのは朝。夜遅くまで起きて、朝起きられなかったら、『学校に行く・行かない問題』を回避できます」

「生活リズムを戻そうとするより、昼間起きているのが嫌じゃなくなる、家族と過ごすことが嫌じゃなくなるようにすることから考えていきましょう」

セミナーでは参加者からの質問にも答えました
セミナーでは参加者からの質問にも答えました

関さんは「子どもたちの好きなことを大事にする大人でありたい」「全ての子どもたちに、好きなことを大切にしたまま大人になってもらいたい」と語りました。

今回は発達障害の子どもについてのセミナーでしたが、関さんのお話には特性の有無にかかわらず、子育ての参考になるポイントがたくさんありました。

子どもにとってのゲームやインターネット、SNSを「よくないもの」と頭から否定するのではなく、どうして好きなのか、子どもにとってどんな居場所になっているのかを大事にしながら、付き合い方を一緒に考えていきたいと思いました。

この記事の著者

門田朋三

門田朋三

小 3 と年長児の娘がいます。「仲良し」と「けんか」の繰り返しで毎日にぎやかです。あだなは「ともぞう」。1978年生まれ。

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