「あなたが大切」と伝えたい・16年目のポッケ④|生まれるまで、生まれてから…赤ちゃんはどうやって大きくなる?
四万十町認定こども園「たのの」で16年続く命の学習「カンガルーのポッケ」に密着。命の大切さを伝え、自己肯定感を高めていくヒントを紹介します
高知県四万十町大正の認定こども園「たのの」で 16 年続く命の学習「カンガルーのポッケ」をココハレ編集部が 1 年間密着しました。子どもに命の大切さを伝え、自己肯定感を高めていくヒントを探る 5 回の連載です。
第 4 回は「生まれるまで、生まれてから…赤ちゃんはどうやって大きくなる?」。2021 年度のカンガルーのポッケでは園児のきょうだいを見ながら、赤ちゃんの成長の過程を確認してきました。さらに、胎児人形を使い、生まれてくるまでの赤ちゃんの成長も学びました。
目次
園児のきょうだいが協力。赤ちゃんの成長過程を間近で確認しました
カンガルーのポッケは年間 7 回のプログラム。その回のテーマに合った絵本を読み聞かせしてから本題に入ることで、園児たちの興味・関心を学びへとうまくつなげています。さらに、中学生や高校生、お年寄り、妊婦らを特別ゲストとして招き、地域とのつながりもつくってきました。
2021 年度はコロナ禍のため、妊婦さんの登場はかないませんでしたが、園児のきょうだいである小野川音心(おと)ちゃんが特別ゲストとして参加しました。
おとちゃの登場は 7 月。まだ生後 4 カ月でした。マットの前に寝かされたおとちゃんのそばで、小児科医の沢田由紀子さんが園児たちに質問します。
「おとちゃん、今は何ができると思う?お座りは?ハイハイは?」
「できる!」「まだできん!」
口々に予想する園児たちの前で、沢田さんがおとちゃんの姿勢を変え、試してみました。
「今のおとちゃんは一人ではまだ何もできません。これからいろんなことができるようになるのが楽しみだね」
そして、最後にこう付け加えました。
「みんなのお父さん、お母さんも、みんながいろんなことができるようになるのが楽しみなんよ」
生後 7 カ月となった 10 月は、沢田さんが抱っこすると、大泣きしたおとちゃん。沢田さんはすかさず、「何でおとちゃんは泣くのかな?」と園児たちに問い掛けます。
「お母さんと離れたき!」
「そうやね。赤ちゃんは家族とそうじゃない人の違いが、だんだん分かってくるがよ。みんなもそうやったんよ」
おとちゃんの成長は、みんなも歩んできたこと。みんながおとちゃんを「かわいい」と思うように、あなたたち一人一人もかわいい、かけがえのない存在なんだよ。おとちゃんの成長を観察しながら、大事なメッセージも伝えていきました。
胎児人形を抱っこし、赤ちゃんが生まれてくるまでの成長を学びました
1 月のテーマは「生まれるまではどうやって大きくなるのかな」。絵本「あなたがうまれるまで」を読んだ後、胎児の成長について学びました。
妊娠 1 カ月頃の胎児の大きさは数ミリ程度。「ノミ」「マッチ棒の先」などと説明されますが、沢田さんはこんな説明をしました。
「みんな、手の親指と人さし指の爪をくっつけてみて」「隙間ができるよね。その小さい丸がみんなの始まり」
「えーっ!」「やばーい!」「アリやんか!」
7月に学んだへその緒と胎盤を復習した後は、胎児人形の登場です。胎児人形は胎児と子宮がセットになっていて、妊娠の経過ごとに大きさや重さが分かります。
沢田さんが話を続けます。
「赤ちゃんがいるお部屋は『子宮』と言います。女の子にはみんな子宮があります」
「えっ?!」
びっくりする女の子たち。男の子たちはそっと、女の子のおなかを眺めます。
「おなかの中の赤ちゃんは子お母さんとへその緒でつながっていて、胎盤から栄養と空気と生きる力をもらいよるんやったね」「赤ちゃんはお母さんから栄養をもらって大きくなるよ。赤ちゃんが大きくなると、赤ちゃんのお部屋も大きくなるよ」
そんな説明を聞きながら、子どもたちは順番に胎児人形を抱っこしていきました。
生まれるのを待っていたお母さんの気持ちは?
カンガルーのポッケでは毎回、学習の目標や内容をまとめた指導案が作られ、大人たちに配られます。この日の指導案には何と、ココハレ編集部員の名前がありました。「妊娠中の気持ちを話してください」と園長の門田清子さんに促され、見学に来ていたお母さんに続いて話すことになりました。
ココハレ編集部員は、妊娠中に切迫早産で入院したことを話しました。
「赤ちゃんがおなかの中にいる大事な時期なのに、『もっとお仕事をしたいなぁ』と思っていました」「赤ちゃんが早く生まれそうになったので、ちょっと待ってもらうためにしばらく病院で静かに寝ていました」「無理をしてしまったなぁ、お仕事よりもお母さんになることを大事にしなきゃいけなかったなぁ…と反省しました。赤ちゃんが元気に生まれてくれて、ほっとしました」
幼児向けに言葉を選びながら、自分の心がじんわり温かくなっていくのが分かりました。
温かい気持ちを家庭にも広げていきたい
カンガルーのポッケを行う目的の一つに、「家庭への広がり」があります。
「子どもが言うことを聞かなくてイライラするとか、怒り過ぎてしまって後悔したとか、しょっちゅうですよね」と沢田さん。「気持ちが落ち込むことがあっても、時々でも『目の前にいる子どもが大切だ』『元気でいてくれてありがとう』と温かい気持ちになれたら、ずいぶん違うと思うんです」
幼児期の子どもたちは、家に帰ると、園での出来事を大人に話します。「今日は心臓の音を聞いた」「おなかの赤ちゃんを抱っこした」。そんな一言をきっかけに、親子で温かな時間が持てれば…。
そんな願いを込めて、門田さんたち先生は保護者向けにお便りを出し、学習の様子を毎回伝えています。そして、沢田さんはこんな言葉でカンガルーのポッケを締めくくっています。
「みんな、今日はたくさんお勉強したね。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんは知らんかもしれんよ。家に帰ったら、今日のこと、みんなが教えちゃってよ」
カンガルーのポッケで使った絵本はこちら
最後に、カンガルーのポッケで読み聞かせをした絵本を紹介します。
【第 6 回 生まれるまではどうやって大きくなるのかな】
「あなたが生まれるまで」(絵:R・コーネル、作:J・デイビス、訳:槙朝子、小学館)…お母さんのおなかの中で赤ちゃんが大きくなっていく 9 カ月を描いた仕掛け絵本。妊娠中のことをわが子に話すきっかけになります